<2002年9月25日掲載>
飢えに引き裂かれた家族
<マラウィ>
ここ1週間というもの、8歳になるマリア・チンセンヤは3歳になる妹フィネッセと、毎晩二人きりで寝ています。
飢えが家族を引き離してしまったからです。
母親のルイーズ・チンセンヤは、マラウィの首都リロングウェから100キロ南のムチンジ地区病院に寝泊まりしています。継子の二人がひどい栄養不良で治療を受けているからです。チンセンヤは、二人の継子、3歳のディナと2歳のエステルを抱きしめます。クワシオリコール型の栄養不良<カロリーは足りているものの、たんぱく質が不足して起きる栄養不良>でお腹が膨れ上がっている二人ですが、継母の抱擁に、くすぐったそうに笑って体をよじらせます。
マリアの二人の姉は叔父が住むザンビアに避難しました。少なくともそこには食糧があるからです。マリアは二人と一緒に行きたいと言いましたが、留まるように言われたのです。「みんなが行くことはできませんでした」と母親。「かと言って、マリアが食べられるものは家にはないんですが…」
「辛い」とマリアは穏やかな声で言います。しゃべっているのはチチェワ語です。「お腹が空いたままで寝るときがあるわ。食べられない日が続くことも。熟していないバナナでお腹をごまかすこともね」
「体調はよくない。頭は痛いし、熱はあるし、体中が痛い」マリアは年齢の割に背が高く見えますが、あばら骨は外からはっきり見えますし、お腹が膨れています。
マリアの話は、今のマラウィの人たちに共通する話です。飢饉や洪水に端を発する食糧不足の上に、国が、保有していた貯蔵穀物を誤って大量に売ってしまったために、主食のメイズ(穀物の一種)の値段が上がったのも、今回の悲劇に拍車をかけました。なんとメイズの値段が昨年の倍の値段、1袋およそ16ドル〜23米ドルに跳ね上がってしまったのです。これでは一般の人たちに買えるはずがありません。
バキリ・ムルジ大統領は「マラウィがかつて経験したことがない食糧難」だとして「災害による非常事態宣言」を出しました。
食糧難が原因で亡くなった人の数は分かりません。でも、人々にインタビューをしていると、「何日も食べていない」という人がほとんどです。子どもの50%近くは、食べ物がないので学校にも行けない状態です。マリアは、今年に入って週に2回しか学校に行っていないと言います。教科書もえんぴつもありません。ザンビアに避難した姉たちも学校には行っていないのです。
食糧難が始まる前も、マラウィの人たちは困難な状況にありました。栄養不良のせいで、マラウィの子どもたちの49%は発育不良の状態です。そういう子どもたちにとって、今回のような食糧難は大きな打撃となります。
人口の65%は貧困状態にあり、また多くの人たちが、サハラ以南のアフリカを襲っているHIV/エイズの脅威にさらされています。人口の16%(推定)がHIV陽性といわれているマラウィです。HIV/エイズで命を失っていく多くの人たち。残された子どもたちを引き取り面倒を見るのは親戚縁者です。自分の子ども以外に、6人も7人も引き取って養うのは並大抵のことではありません。
ユニセフのマラウィ事務所代表 キャサリン・ムベングェは言います。「今回の悲劇がもたらしている苦痛や困難を和らげるためには、多くの支援が必要です。子どもたちはそうでなくても命を落としています。家族の手元の食糧が尽きたとき、どういう事態になるかお分かりでしょうか?」
食糧を求めて、家族のために食糧を盗み出す人たちは、あとを絶ちません。それほど食糧難はひどいのです。女性や子どもを含めて何百人もの人たちが、暴徒と化した人たちによって、殴られ、手足を切られ、あるいは殺されているのです。
今年の2月、サリマの中心地区に住むある未亡人が、こんな話をユニセフのスタッフにしました。1週間、何も食べていなかった彼女は、8人の子どもを飢え死にさせたくなくて、メイズを1袋盗んだところ、その持ち主に見つかってしまい、彼女はひどく殴られたそうです。「子どものためにやったのだ」と彼女が言うと、耳の一部を切り落とされてしまったそうです。
2月に、ユニセフは、世界食糧計画(WFP)と、セーブ・ザ・チルドレンなどのNGOが、子ども向けに栄養補強型メイズを900トン<地元ではリクニ・パラと呼んでいます>配るのを支援しました。2002年4月から9月までの6カ月間、51,000人分の食糧です。
ユニセフはまた、EUがマラウィに贈った5,000トン分のメイズ食糧の輸送費と栄養強化のための費用を負担していますが、これは31,000人の妊婦と母乳育児中の女性に対する、6カ月分の援助となります。
ドイツのユニセフ国内委員会から83,000米ドルの資金援助を受け、栄養改善センター向けの栄養強化型メイズを60トン購入しましたが、これは、マリアの母親が子どもたちを連れて行ったセンターのようなところに配るものです。
「上のほうの子は良くなっていますが、下の子はあまりかんばしくありません」とマリアの母親、言います。「咳がひどくて、お腹が膨れています」ぼろぼろになったエセルの服をたくし上げて見せます。
コミュニティの保健婦であるエリザベス・メガも、同様の証言をします。しかし、栄養改善センターでは、多くの子どもたちがこの栄養強化型のメイズを食べて、ずいぶん良くなっていると言います。「こんなにひどい栄養不良を見たのは初めてです」とエリザベス。「それでも2週間のうちに改善が見られるんですよ」
ムチンジの栄養改善センターでは、1月から8月までの間に、63人の重度栄養不良児が医学的監視のもとで栄養強化型のメイズを食事として受け取りました。マリアのように1週間に2回、栄養補助食品の配給を受けている子どもたちは272人にのぼっています。
治療を受けるはずだった4人の子どもがセンターで亡くなっていますが、栄養不良だけが原因ではなく、(HIV/エイズの陽性検査は受けていないものの)HIV/エイズだったのではないかと推察されています。
センターに来る女性たちを相手に、ユニセフでは、栄養、保健ケア、HIV/エイズ、衛生などの教育を行い、マラリア蚊を寄せ付けない蚊帳(かや)を配っています。子どもたちが退院すると、母親たちがきちんと子どもたちに食事を与えているかどうかを、保健婦たちが、最低2週間に1度、モニターし、家族には食糧が支給されます。
途中で栄養改善センターを抜け出してしまう女性たちがいるのも問題になっています。本来は、最低2週間はセンターにいて、子どもの体重が(背丈から計算して)充分なまで回復したのを確認してから帰すことになっています。
現在は、42人が治療を受けていますが、先月、2人が回復しないまま両親によって連れ戻されてしまいました。「どちらの場合も父親が母親を連れ出してしまうのです」保健婦のメガは言います。「父親を説得しようとしたのですが、母親が家に帰って来ないのであれば、そのまま離婚すると言われて…。私たちが昼食をとりに行っている間に、母親と子どもたちを連れ出してしまったのです」これもひどい話ですが、最初からこうした病院に来ることもできない女性たちはもっと多いのです。
マリアは、(週に2回の)メイズの配給でずいぶん助かっていると言います。「でも、本当のところは、毎日ほしいけれど…」
マリアは毎日お腹を空かしたまま、小さな妹のために働いています。井戸から水をくん だり、洗濯したり、掃除したり、お皿を洗ったり…。それらをすませてから、妹と一緒に父親の家に行き、食糧があるかどうか確かめてみます。
このインタビューの日も、彼女は何も食べていませんでした。前の日に食べたのは、熟れていないバナナだけです。小さな妹の面倒を見るのは大変ではないのかと聞くと、彼女は「たいして面倒じゃないわ」と言います。夜、ひとりで寝るのも怖くない、と。ただ一つ問題なのは、「お腹が空いていることだ」と。
リロングウェ 2002年9月13日
ルース・アンサ・アイシ
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