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財団法人日本ユニセフ協会

世界の子どもたち

<2002年9月18日掲載>

メジナ虫症根絶への闘い
〜世界のメジナ虫症の80%がスーダンに集中〜
<スーダン>

 ジョン・ジャル・ユールは、ずぼんの裾をたくし上げて言いました。「ここから出てきたんです」くるぶしのあたり、カサカサになった黒い肌の中に浮かび上がるピンク色の痕を、彼はさすります。「火が吹き出しているような痛さだった」

 52歳の彼はスーダン南部のアッパーナイル州にあるマラカルの出身。まるで悪魔払いでもしているかのように、取りつかれたようすで話します。メジナ虫症は、「怒れるヘビ」と呼ばれていますが、その痛さは、まさに火が吹き出るようだ、と誰もが言います。

 メジナ虫症はひどい痛みを伴い、人を憔悴させてしまう恐ろしい病気です。感染のもとになるのはよどんだ水。メジナ虫の幼虫や卵を持ったケンミジンコに汚染された水を飲むとかかる病気です。幼虫は人の体の中で大きくなり、その長さは90センチにもなります。人体の中で大きくなるメジナ虫は体中を動きまわり、筋肉や内臓を傷つけ…、1年後には、肌を食い破って外に出てきます。その痛さは想像もつかないもの。治療法はありません。

「最初は単なる熱かと思っていました」すらっとした背格好のユールは、その長い指先を動かして説明します。スーダン南部の真昼の暑さが、その描写をいっそう引き立たせます。「その後、体が膨らみ出し、腰や脚のあたりに痛みが走るようになりました。虫が出てくるには1カ月かかりましたよ。起き上がれなくて、1週間仕事を休んだほどです」

 メジナ虫の痛みはそのまま「経済的な痛み」へと変わっていきます。「メジナ虫症は生産性の高い人たちに影響を与えます。というのも、痛さのあまり、仕事ができなくなってしまうからです。そうすると健康面だけでなく、経済的にも痛手が大きいと言えます」ユニセフの常駐プロジェクト担当官のエマニュエル・バヤ博士は言います。マラカルのサブ・オフィスの責任者です。「子どもたちは、起き上がれなくなります。家族のほかの人が同じ病気にかかっていると、そうした子どもの面倒を見る余裕もない。つまりは、コミュニティー自体の生産性が落ち込んでしまうのです」

 2005年までにメジナ虫症を根絶させるグローバル・キャンペーンが行われています。その先頭に立っているのがユニセフ、WHO、カーター・センターなどです。1986年に、320万の症例があったのに比べれば、現在は98%削減されたことになりますから、大きな進歩があると言ってもいいと思います。メジナ虫症とポリオの根絶は、天然痘の根絶以来の快挙となるかもしれません。

 それでも、根絶への道は決して楽ではありません。スーダンは、メジナ虫症の最大の感染地なのです。2001年に世界的に報告された症例は61,000例ありますが、80%はスーダンで報告されています(ガーナとナイジェリアがその後に続きます)。スーダンがなぜ1位なのか? その理由は簡単だ、とバヤ博士は言います。「この病気は紛争地に多いのです」闘いはコミュニティを孤立させます。すると目が行き届かないこういう地域では、メジナ虫症、そのほかの予防できる病気も、人知れず広がってしまうのです。スーダンでのメジナ虫症の99%は、闘いが激しかったスーダン南部で起きています。メジナ虫症の症例があった5,000の村の内、3,000の村は、政府派遣の保健婦やNGOの担当官が入ることもできない村なのです。

 メジナ虫症に対する誤解も大きな要因です。伝統的な考え方では、メジナ虫症は、「2通りの方法でかかると言われています」しわだらけのジョン・ジャル・ユールは言います。ひとつ目は「メジナ虫症にかかっている人のおしっこを踏んだら、病気になってしまうという誤解。もうひとつは、病気の人に触れると感染するというもの」

 ユールは、ジョングレイ州のメジナ虫症根絶プログラムの監督者です。ジョングレイ州はメジナ虫症の症例が一番激しい地域。「スーダンで見られる症例の3分の1はこの州で報告されています」

 ユールと彼のチームは、村人たちにメジナ虫症の本当の原因を教えています。きれいな水源を使うように伝えて、簡単なフィルター装置も配っています。これは粘土や鉄でできた短いパイプの先にフィルター代わりの布を付けた簡単なもの。でも、幼虫を持ったケンミジンコを取り除くには充分です。感染した人には、みんなが水浴びをするような場所で水浴びをしないように言います。これはほかの人に感染させないための予防策。「学校に行ってメジナ虫症の危険性について説いてまわります。教会にも足を運びます」

 ユールは「平和の声」というラジオ番組を通しても、人びとにメジナ虫症のことを伝えています。このラジオ番組はマラカルにある女性組織が運営している平和組織が流しているもので、3つの地域言語で放送されています。

 ユールは、ひとりひとりに語りかけることから変革をもたらそうとしています。「最初は誰も私のことを信じてくれませんでした。でも、フィルター装置を使っている人たちが病気にならないのを見て、興味を持ってくれたみたいです」

 メジナ虫症を防ぐ究極の対策は、薬でもフィルターでもありません。平和です。バヤ博士はその証拠を自分の目で実際に見て来ています。「東赤道州では、ほとんど全員がメジナ虫症にかかっていた村がありました。闘いの狭間を狙って、ユニセフは水汲み用の深穴を掘り、コミュニティできれいな水が使えるようにした。するとどうでしょう、1年の内に、症例報告がひとつもなくなったのです」この簡単な解決策に、医者であるバヤ博士は当時の驚きを思い出して、再び首を振ります。

 ユニセフのスーダン事務所はメジナ虫症根絶の努力を、平和構築の努力と結びつけるようにしました。昨年、ユニセフは、ジョングレイ州とアッパー・ナイル州で何年もの間、勢力を争ってきた2つのヌエル族の間に立ち、平和合意の仲介努力をしました。それまでの犠牲者は何千にもなります。平和を約束するならば、水くみ用の深穴を提供する・・これが魅力的な約束となりました。なぜなら、これがあればメジナ虫症がこの地域からなくなる可能性があるからです。

 銃の脅しは、メジナ虫症に対する人々の恐怖心や憎悪には勝てませんでした。平和協定は昨年度のうちに結ばれ、今は掘井作業が進んでいます。そしてメジナ虫は…「いなくなりつつあります」とジョン・ジャル・ユールは言います。


ハルトゥーム 2002年9月9日
デビッド・グッドマン

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