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子どもの貧困を左右するのは政策
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報告書『不況の中の子どもたち』 |
報告書『不況の中の子どもたち』(英語版は10月28日公表)は、リーマンショック後の経済危機が、先進国の子どもの貧困にどのような影響を与えたのか分析しています。そのため各国の子どもの貧困率を、危機前後の2008年と2012年の変化で順位づけしました。アイスランド(11.2%→31.6%)、ギリシャ(23.0%→40.5%)など、子どもの状況が大きく悪化した国に比べて、日本は21.7%→19.0%と改善し*、変化に基づく順位は41カ国中10番目でした。ただし、2012年だけでみると19番目(OECD34 カ国中18番目)であり、決してよい方ではありません。
*厚労省が発表する子どもの貧困率とは異なる推計方法を用いています(ご参考:「推計方法について」)。
日本については、ひとり親家庭の子どもの貧困率が、両親のいる家庭を依然として大きく上回っていることが指摘されました。子ども全体の貧困率が高くてもひとり親家庭の子どもの貧困が減少した国もある中で、日本はその反対の例として挙げられたのです。また、貧困の深刻度を示す「貧困ギャップ」が危機の前後で増加し、子どもの貧困率が(今回の推計方法では)減少したにも関わらず、貧困状態にある子どもたちの状況はさらに悪化したこともわかりました(ご参考:日本解説版)。
報告書は、子どもたちは危機によってどのような影響を受けたのか、また、どのような子どもたちがより大きな影響を受けたのかなど、以下を含む様々な分析を行っています(第2章、第3章)。
© UNICEF/NYHQ2014-1953/Pirozzi |
就職の相談をする17歳の青年。(イタリア) |
報告書の第4章では、この時期に各国でとられた子ども・家族関連の政策を、以下を含むいろいろな形で詳細に比較検討しています。
各国のとった政策は様々で、子どもへの影響もまた様々でした。GDPが増えても子どもの貧困が増加した国もあれば、GDPが減っても子どもの貧困が減少した国もあったのです。「不況は世界規模で起こったが、深刻な子どもの危機はすべての国で起こったわけではなかった。各国がどのような政策対応を行ったかが極めて重要だった」と報告書は強調します。どのような政策が不況下にあっても子どもを保護することができたのか、報告書の内容は示唆に富んでいます。
ユニセフのジェフリー・オマリー政策・戦略局長は「すべての国が、経済状況がよい時も悪い時も子どもを守る、強い社会的セーフティーネットを備えることが必要です」と述べています。
■『日本解説版』および日本語版
日本語版の冒頭には、ユニセフ・イノチェンティ研究所が国立社会保障・人口問題研究所の阿部彩氏と共同で作成した、日本の子どもの状況についての『日本解説版』が含まれます。報告書の日本語版はこちらからダウンロードいただけます。
■『イノチェンティ レポートカード』とは?
ユニセフ・イノチェンティ研究所は、ほぼ毎年1冊の割合で、先進国の子どもの状況を比較する「レポートカード(通信簿の意)」シリーズを発行しています。今回発表された『不況の中の子どもたち:先進諸国における経済危機が子どもの幸福度に及ぼす影響』は、シリーズ12冊目の報告書です。過去のレポートカードは、こちらからご覧いただけます。
■ご参考:子どもの貧困率の推計方法について
通常、子どもの貧困率は各年の貧困ラインを使って推計しますが、本報告書では、2008年を基準年とし、2008年の相対的貧困ライン(各国の等価世帯所得の中央値の60%)に基づく子どもの貧困率の経年変化を推計しています。この方法は、経済危機などにより国民全体の所得が低下している場合に、貧困率の動向を把握するために有効です。
■ユニセフ・イノチェンティ研究所(UNICEF Office of Research - Innocenti)
ユニセフ・イノチェンティ研究所は、世界の子どもたちの権利を推進するユニセフのアドボカシー(政策提言)活動を支え、また現在および将来におけるユニセフの活動分野を特定し研究するため、1988年、イタリアのフィレンツェに設立されました。その主な目的は、子どもの権利に関する様々な問題について国際社会の理解を深めること、世界各国において子どもの権利条約が完全に履行されるよう促進することです。