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| ネパール大地震緊急募金 第26報
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8,000人以上の犠牲者を出したネパール大地震から3カ月。110万人の子どもたちが支援を必要とするなか、ユニセフは“Build Back Better” (ビルド・バック・ベター)=「災害発生以前からあった問題も復興支援を通じて解決する」の理念のもと、活動を続けています。
7月28日、ユニセフ・ネパール事務所 穂積智夫代表、ならびに同事務所 関根一貴 保健専門官、ユニセフ・南アジア地域事務所 鈴木惠理 子どもの保護専門官による現地報告会が、ユニセフハウスで開催されました。
© 日本ユニセフ協会/2015 |
現場で活用される支援物資を手に、ユニセフの緊急支援活動を説明する穂積代表。 |
報告会の始めに、穂積智夫代表が地震による被害の概要を説明。これまでに8,900人近くが犠牲になり、2万2,000人以上が負傷、経済損失は8,740億円にものぼることを指摘。また、大地震が起こる以前から1日1.25米ドル以下の生活を余儀なくされていた人々(人口の約25%)に加え、新たに70〜100万人近くが1日1.25米ドル以下の生活を送ることになる可能性を示唆しました。今回の大地震で5万近くの教室が損壊したことで、約100万人の子どもたちが学校に通えなくなっています。また、震災後の社会の不安定化の中で発生しやすくなる人身売買の増加の可能性へも警笛をならしました。
また、100万棟近い家屋の損壊で、多くの人々が避難を余儀なくされていること、今後、雨季のために、避難先での感染症の流行、衛生環境の悪化などが懸念されることを指摘しました。さらに、災害後は家族と離れ離れになった子どもの保護が急務であること、急増する人身売買のリスクに対応するための警察や行政・NGOなどのパートナーとの連携が責務であると述べました。
© 日本ユニセフ協会/2015 |
続いて、関根一貴 保健専門官、および鈴木惠理 子どもの保護専門官よりユニセフが活動する5つの柱「水と衛生・保健・栄養・教育・子どもの保護」の活動概要と支援の成果を、写真を用いて報告しました。
関根さんはネパール大地震の子ども、および妊産婦への影響で、地震を経験したことによる心的ストレスで妊婦の早産が増えたり、夜鳴きやおねしょ、ひとりで寝られない子どもが増えたりしていることを報告。また、ネパールの伝統建築様式には石を泥で固めたものを壁として使用する事が多く、建物の脆弱性についても指摘しました。また、カースト制度など根強い社会制度が、不公平を生み出しており、子どもたちが置かれている環境への根本的な支援が必要であることなどを指摘しました。
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保健・栄養・教育・水と衛生について報告を行う関根さん。 |
保健分野では、倒壊した400以上の保健施設において医療を再開するための仮設避難所の設置や、医療器具の提供、妊産婦のカウンセリングなどの支援を報告しました。
栄養分野では、子どもへの栄養のスクリーニング、栄養不良の子どもへの治療、微量栄養素などの支援などを実際の支援物資を紹介しながら説明。8月実施予定の予防接種キャンペーンでは、50万人の子どもたちが予防接種を受けられるようになる見込み、と報告しました。
教育分野では、度重なる余震で、学校の再開が当初より遅れたこと、100万人近くの子どもたちが学校に通えない中、移動式の教室や、仮設の学習スペースの提供がされたことが報告されました。また、子どもにやさしい空間を通じてすべての子どもが安心して学んだり、遊んだり、日常を取り戻すための取り組みを紹介しました。
水と衛生分野では、衛生教育の大切さ、衛生環境が整わないことで流行が懸念されるコレラや下痢症への対応の必要性が説明されました。関根さんは、支援物資の提供だけでなく、習慣の改善・モニタリング、適切な利用についての管理も、すべての被災者が持続的に安全、かつ守られた環境での生活を取り戻すためには不可欠であると強調しました。
鈴木さんは、子どもの保護分野について報告。ユニセフが、日ごろから取り組んでいる『搾取・虐待・暴力からの保護』について、家庭・地域社会・行政などとの連携の様子、また震災で子どもたちを守っている社会のたががゆるみ、様々な子どもの保護の問題が出てくることが懸念されていると話しました。
たとえば、ネパールは女の子の41%が18歳未満で結婚するというデータもあり、今後、震災の影響で貧困層が増えたり人々がより脆弱な立場に追いやられる、その数値の悪化が懸念されていると指摘しました。そして、親の保護下にない子どもたちが、搾取や虐待に晒される危険は特に高く、国内外に及ぶ人身売買を防ぐための水際の対策として、ユニセフが入国管理局・警察・NGOが連携して人の動きの取り締まりを強化する体制を構築するサポートをしていることを説明。
ネパールとインドの国境12箇所および国内の84箇所に及ぶ検閲所と、ならびにユニセフ・インド事務所とも連携して、これまで人身売買が疑われた500人以上の女性と子どもの移動が差し止められ、必要な場合は親元に返されたと報告。しかし、検閲所での取り締まりはすでに、子どもたちが家族から引き離された後で、まずは発生の予防が重要だと強調しました。その予防策の一環として、ユニセフは、NGOパートナーと協力し、コミュニティや仮設避難所への訪問・啓発活動、学校でのチラシの配布、ラジオなどを通じた人身売買に関する注意喚起の活動を実施していることを報告しました。
© 日本ユニセフ協会/2015 |
子どもの保護の取り組みについて報告を行う鈴木さん。 |
また、ネパールでは、地震の前から800以上の孤児院があり、そこで暮らす子どもの9割近くは片方の親がいるということからもわかるように、このような施設が子どもたちを不必要に家族から引き離す要因となっていると指摘しました。孤児院は最後の手段であり、子どもたちは家庭やコミュニティで成長するのが望ましいというユニセフの見解も説明するとともに、近年、外国人旅行者による孤児院でのボランティア活動がこの構造に拍車をかけているという懸念を示しました。また、孤児院でのボランティアが子どもの心に残す影響も指摘。一度、家族や大切なものを失った経験をし十分な保護の下にない子どもたちにとって、孤児院を尋ねてくる旅行者たちと、短期間における出会いと別れを繰り返す経験は、その子どもの健全な成長に影を落としかねない、と懸念を示しました。
大地震の前から、ネパールの子どものおよそ10人に4人が発育阻害に苦しんでいました。また、5〜14歳の子どもの3人に1人が、児童労働に従事しているとされ、18歳未満で結婚する女の子の割合は41%にものぼり、出生登録率は42%にとどまっています。(出典:世界子供白書2015) ユニセフは、ネパールが大地震以前に抱えていた課題へも、緊急復興と同時にアプローチし、災害前よりもよりよい環境を築くという目標を掲げ、世界の緊急・復興支援を行っています。ユニセフは、緊急支援下において「あらゆる自然災害で最も困難な状況に置かれてしまうのは子どもたち」という理念を掲げ、子どもがきちんと守られ、未来につないでいけるための取り組みを行っています。
© UNICEF/UNI189493/Panday |
4月25日、大地震の日に生まれた赤ちゃんを抱く母親。(ダディン郡) |
報告会へ参加された方々からは、「未来を築き上げるのは子どもたちです。世界のどの国に生まれようと、すべての子どもが健康で教育を受け、輝いて欲しいと思います」「支援の継続は、現地からの生の情報によって、状況を知り、現実と向き合うこと、そして、それによって“忘れない”こと、“伝える”ことからだ、と思いました」「どんな災害にあっても子どもは教育に渇望していることが身にしみました」といった声を頂戴しました。
ユニセフでは、ネパール大地震の影響を受けている子どもたちへの支援活動を拡大・継続するための資金として、国際社会に対し1億2,000万米ドルの資金を要請していますが、資金の達成率は6割にとどまっています。ネパールの子どもたちが明るい未来を築き、将来のネパールを担っていけるよう、ユニセフは引き続き、緊急支援を続けて参ります。
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◆報告者プロフィール◆
穂積 智夫(ほづみ ともお)
ユニセフ・ネパール事務所 代表
日本とイギリスの大学・大学院で国際関係を学んだのち、JPOとしてユニセフのブータン事務所、インド・グジャラート事務所に勤務。その後NGOで2年間勤務したのち、ユニセフの東京事務所、カンボジア事務所、タイ事務所代表、フィリピン事務所代表など豊富な現場経験を持つ。
関根 一貴(せきね かずたか)
ユニセフ・ネパール事務所 保健専門官
2006年から2011年までNGOや独立行政法人国際協力機構にて保健事業と緊急・復興支援に従事した後、2012年からJPOとしてユニセフ・パキスタン事務所にてHIV・エイズプログラムを担当。2014年2月からユニセフ・ネパール事務所で保健担当官として勤務し、2015年6月より現職。
鈴木 惠理(すずき えり)
ユニセフ・南アジア地域事務所(ネパール・カトマンズ)子どもの保護専門官
国内外のNGO、国際協力系財団法人、国連平和維持活動(PKO)等を経て、2008年から2012年末まで、ユニセフ・シエラレオネ事務所の子どもの保護セクションに勤務。2014年6月より、現職。ユニセフ・南アジア地域事務所では、南アジアの8カ国にあるユニセフの現地事務所(ネパール・ブータン・インド・モルディブ・パキスタン・アフガニスタン・バングラデシュ・スリランカ)の子どもの保護のプログラムをサポート。2015年4月に発生したネパール大地震の緊急支援を行う。
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