彼女は、指の間に通した赤い紐の輪とためらいがちな笑顔を見せながら、こちらへ近づいて来た。私は、30年以上あや取りをしていない。しかし、彼女は私を待っている。この女の子は英語を勉強していたがためにタリバンに脅され、住んでいたアフガニスタンの村から、気候が良く安全だが離れることが出来ない、ギリシャにあるこの避難民キャンプへ家族と3,000マイル*以上の距離を旅してきたのであった。いつも身なりも行儀も良い彼女のことを、キャンプの住人は「お姫様」と呼んでいた。私は紐を指でつまみ、なんとか前後に動かすと、彼女は自分の指に移し替え、紐でできた蝶を巧みに作る。さらに彼女は私に渡してきたので、私は梯子を作ろうとするが、あまりにも長い年月が紐を絡ませてしまい、悲しそうなお姫様はその場から去って行ったのであった。
*4828.032㎞
クリスティーナ・ラム【Christina Lamb】（ジャーナリスト）
イギリスに生まれる。サンデー・タイムズ紙のジャーナリストであり、同紙のワシントン支局長などを経験。2007年に年間最優秀記事部門でForeign Press Association賞や年間最優秀特派員部門でBritish Press賞を受賞、2009年にはアフガニスタンでの取材によってPrix Bayeux-Calvadosを受賞。
代表作には『The Africa House』『Waiting for Allah』『The Sewing Circles of Herat』『Small Wars Permitting』等のベストセラーがあり、またマララ・ユスフザイ氏と『わたしはマララ: 教育のために立ち上がり、タリバンに撃たれた少女（I Am Malala）』を共同執筆している。