<2004年8月23日掲載>
ユーラ・パルフェノフ君がたどり着いた場所
〜温かな里親のお母さんが待つ家
<ロシア>
ロシア西部にあるカリーニングラードの町。かつて13歳のユーラ君は、アルコール中毒のお母さんを捜して、夜明け近くまでこの寒くて暗い町の中を歩き回ったものでした。ユーラ君はお母さんとその恋人(やはりアルコール中毒)と一緒に、とても小さくて窓のない地下室のような部屋に住んでいました。お母さんは働かず、家にはほとんど食べ物がありませんでした。お母さんがもらう生活補助のお金は、すべてアルコール代に使われていたのです。
ユーラ君は7歳になっても、ほかの子どもたちのように学校に通うことができませんでした。近くの学校に登録してもらうこともできず、学校の制服や教科書ももっていませんでした。お母さんはユーラ君の教育や健康、成長に少しも関心を示してくれなかったのです。これに気づいたソーシャルワーカーが、ユーラ君を孤児院に連れていき、おかげでユーラ君は学校に通い始め、得意科目もいくつかできました。
しかし、施設にはプライバシーが全くありませんでした。「年上の子どもたちは最年少の子どもをいじめていたけど、誰もとめられなかったんだ」とユーラ君は言います。「でも施設にはだんだん慣れていったし、僕も少しだけ大きくなったから少しぐらいのことは平気だったよ。先生はやさしかったし、毎日3食ご飯を食べられるようになった。ひとりぼっちで寂しかったけど、食べ物もあったし学校にも通えるようになったから、前よりはよかったよ」
子どもにとって必要なのは、壁と屋根のあるきちんとした家だけではありません。おとなからの愛と優しさがなければ子どもは心も体も健康なおとなになることができません。もちろん孤児院や全寮制の学校の先生はできるだけたくさんの愛と優しさをもって子どもたちに接するようにしていますが、このような施設で育った子どもたちはおとなになってから経験する諸問題に充分に対処できる力を身に付けられないまま大きくなってしまいます。
ユーラ君の生活に変化が訪れたのは、ナデズダ・トカチェンコさんに出会ってからです。「私はあなたのお母さんになって、子どもとして迎え入れようと思うの。私の家族になって一緒に暮らさない? どうかしら?」トカチェンコさんはユーラ君が絶対に断るはずのない提案をしました。ユーラ君は「うん」と静かにうなずきました。うれしい気持ちと、新しい家族との生活がうまくいかなかったらどうなるのだろうという思いで、涙ぐみそうになるのを抑えながら。
ナデズダ・トカチェンコさん(48歳)は1996年に最初の養子を幼児施設から迎え入れました。ヴァネチカ君(当時3歳)のお父さんとお母さんは最低限必要な世話さえしなかったので、親としての権利を失っていたのです。
「ヴァネチカと4年一緒に住んで、もう一人子どもを育てることができるのではないかと思ったのよ」とナデズダ・トカチェンコさんは言います。「里親として養子をもらうことは、それはもう大変なことだったわ。養子になる子どもたちが複雑な家庭に育ったというのは誰もが知っている。両親がアルコール中毒だったり、麻薬常習者だったり…。里親になるという責任を負えるようになるためには、自分自身の奥深くに、それだけの決意を見出さなければならないの」
その後ナデズダ・トカチェンコさんは、ターニャ、オーリャ、レナ、アーニャ、そしてユーラ君を養子にしたのです。
いまでは、ナデズダ・トカチェンコさんの家には7歳から17歳まで、合計6人の子ども達がいます。ナデズダ・トカチェンコさんの家族は2部屋の広さのアパートに住んでいます。その中で1人1人のためのスペースがあります。ここでは各自が責任をもって暮らしているのです。
子どもたちはお互いに勉強を教えあい、交代で食事をつくり、洗濯やアイロンがけをし、家族新聞を作ったり、誕生日には特別なプレゼントを用意したり、助け合いながら楽しく暮らしています。ユーラ君は誕生日に本物の時計をもらい、泣いてしまいました。ユーラ君にとって生まれてはじめての誕生日プレゼントだったからです。
カリーニングラードには、トカチェンコさん家族も含めて、里親になった家族が200以上います。ロシア連邦では里親制度は昔からありますが、特にここ数年で、ユニセフの支援によって発達してきています。ユニセフのパートナーであるカリーニングラード家族子ども社会福祉センターも、カリーニングラード地域の里親普及プログラムの実施を支援してきました。
「ユニセフとは3年のお付き合いになりますが、共同プロジェクトをいくつか実施しています」と、センター長のニーナ・ヴォロンソバは言います。「里親制度を広めることは非常に大切で、意義のあることなのです。里親になると決めた家族は定期収入も増えますし、社会的地位も高くなります。施設でなく一般家庭で生活することは子どものためになります。里親制度によって「施設出身者」症候群の子どもの数を減らすことができるので、国全体の利益にもなるんですよ」「施設出身者」症候群とは、寄宿制の学校や孤児院にいた子どもたちは社会的能力に欠けること、つまり施設以外の生活に適応できなくなってしまうことを意味します。
カリーニングラード家族社会扶助センターの専門家は、最初に里親の候補を選びます。それから定期的にその家族を訪問した後、センターでミーティングを行います。必要に応じて、心理カウンセリングを行ったり、常に専門的で行き届いたケアをします。センターはカリーニングラード市から全面的な支援を受け、里親家族をふやそうとしています。
「孤児院の子どもにかかるお金は、月に7000〜8000ルーブル(28,500〜31,920円※)です」とカリーニングラード副市長のタチヤーナ・モロゾワは言います。「子どもを全寮制の学校に入れるほうが安くすみ、里親を提供するにもお金がかかるのは確かなのですが、いい点もあるのです」
第一に、里親は生活費の援助を受けますが、里親家庭への費用は子どもが孤児院に入るときに比べてかなり少なくて済みます。里親家庭への費用は月4000ルーブル(15,960円※)ほどです。第二に、子どもは里親に育てられることにより、自分自身でものごとを決める方法を学んだり、人とどうやってコミュニケーションをとるかなど、日常生活をおくるのに必要なスキルを自然と身に付けることができます。そして何よりも、家族という環境の中で愛情とケアを受けることができます。これはお金には変えられない価値があります。
2004年8月5日
ユニセフ・モスクワ事務所
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