<信濃毎日新聞2003年10月14日掲載>
権利守るための「司法出張所」
<ベネズエラ>
ベネズエラのマリア・ジョゼフィーナ・ベオモンは26歳。マリアの娘のヨナーレンは1歳9カ月。けれども二人とも公式には、この世に存在していない。二人とも出生登録されていないのだ。二人には名前も国籍も法的権利もない。学校にも登録できないし、公立の病院にも行けないし、結婚もできない。法的に、この世に存在しないのだから。
「母が出生登録されなかったので、私も出生登録されていません」マリアは言う。「他の二人の子どもは夫の名前で出生登録しています。ですので、子どもが病気になったら、私には子どもに対する権利もありません。手術が必要になったら同意の署名もできないのです。私が母親だと証明できる書類がないのですから」
2500万人といわれるベネズエラの人口の約半分以上は18歳未満。ユニセフはそのうち100万人以上が出生登録されていないと推定している。
以前は、出生時以外に出生登録するには、ただ一つ、裁判所に行く以外に方法はなかった。しかし、手続きには時間もお金もかかり、マリアのような人には考えもつかなかったし、ほとんど不可能だった。都市部から離れた人にとっては、裁判所に行くだけで、車で20時間もかかる場合もあるのだ。
現在では、新しい制度ができ、「デフェンソリア」と呼ばれる<立ち寄り司法出張所>のような場所で出生登録ができるようになった。ここではそのほか、離婚後に養育費を払わない元夫の問題や、学校での子どもの権利の保護といった簡単な民事事件を扱っている。
「デフェンソリアはもともと、普通の家族が利用できる新しい司法制度をつくることによって、子どもの権利を守るために生み出されました。しかし、現在ではそれ以上の役割を担っています」と、ユニセフで人権を担当するユーリ・ブアイズは言う。ここに訪れた多くの人々は、自分に権利があり、法制度が実際に機能し、自分たちを守ってくれることを知るのです」
デフェンソリアは、2000年に施行された「子どもと若者を保護するための法律」の枠組みの中でつくられ、ユニセフが支援してきた。その数は同国内で175を超える。ユーリは言う。「この制度が完全に機能するためには、時間、意思そして資金が必要です。しかし、一歩ずつ、子どもを守るための制度がつくられようとしています」
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