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日本ユニセフ協会
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アグネス・チャン ユニセフ・アジア親善大使
ウクライナ報告会
「忘れられた紛争~光の当たらない子どもたち」

【2018年7月11日  東京発】

忘れられた紛争

ウクライナ東部で、独立を訴える親ロシア派とウクライナ政府との紛争が始まって4年。停戦が合意された後も、東部ドネツク州とルハンスク州での両者の衝突が散発的に続いています。州内にある、政府管理下にある地域と親ロシア派の支配地域とを分断する「コンタクト・ライン(接触線)」15km圏内では、約20万人の子どもが生活しています。子どもたちは、砲撃や地雷の被害、教育の中断、避難生活など様々な影響を日常的に受けています。

ユニセフ・ウクライナ事務所代表より、訪問予定地について説明を受ける。赤い線が、政府管理下にある地域と親ロシア派の支配地域とを分断するコンタクト・ライン。

© 日本ユニセフ協会/2018/M.Miura

ユニセフ・ウクライナ事務所代表より、訪問予定地について説明を受ける。赤い線が、政府管理下にある地域と親ロシア派の支配地域とを分断するコンタクト・ライン。

ユニセフ・アジア親善大使のアグネス・チャンさんは今年、6月16日から23日の日程でウクライナを訪問。光の当たらない子どもたちの声を届けるために、紛争が続く東部のコンタクト・ライン周辺を訪れ、学校、心理ケアセンター、病院、家庭などを訪問しました。

日本人にとって遠い国?

ウクライナ東部移動中の風景(ドネツク州)。

© 日本ユニセフ協会/2018/M.Miura

ウクライナ東部移動中の風景(ドネツク州)。

ウクライナの文化には、私たちが身近に感じられるものがたくさんあります。ビーツを使った野菜たっぷりのスープであるボルシチは元々はウクライナの郷土料理。ウクライナの国旗は、青色と黄色の二色で、青色は青空、黄色は小麦の穂、あるいはひまわりを意味しているとも言われています。そんなウクライナの国土には、穀倉地帯が広がり、ひまわりの種の生産量は世界一です。

私たちと変わらない生活を送っていた家族にも出会いました。紛争が始まった当初ロシアに逃れたけれども、「帰りたい」という子どもの気持ちを尊重し2年後ウクライナに戻ってきた家族。家にいる時も砲撃の音が聞こえるけれども、なるべく子どもたちが楽しく過ごせるよう、庭に遊び場を作り、畑では苺を育てたり、鶏を飼ったりしているといいます。

戦う水のヒーロー

紛争が始まった当初、砲撃が揚水施設を直撃した結果生じた2週間の断水が、人々の生活に大きな影響を及ぼした。

© 日本ユニセフ協会/2018/M.Miura

紛争が始まった当初、砲撃が揚水施設を直撃した結果生じた2週間の断水が、人々の生活に大きな影響を及ぼした。

水道会社「Voda Donbass(ドンバスの水)」は、Sieverskyi Donets川からの揚水によってドネツク州に住む約220万人に水を供給しています。2014年6月にこの揚水施設に砲撃が直撃し、電気供給システムやパイプが破壊されたほか、従業員2名が亡くなりました。

安全が確保できない状況下でも、水道会社の職員は「水のヒーロー(water heroes)」として、水を守るために命がけで奮闘しています。地域を管轄する責任者であるオルガさんに、最も難しいことは何かと聞きました。「人的資源を守ること。スタッフとして。そして、人間としての命を」。これまでに職員9人が亡くなり、55人が負傷。ユニセフは、浄化剤等の物質的な資源に留まらず、砲撃により破壊された施設を修復する人員のアレンジも行っています。

見えない心のしこり

クラマトルスク第9学校(ドネツク州)の生徒たちから話を聞くアグネス大使。

© 日本ユニセフ協会/2018/M.Miura

クラマトルスク第9学校(ドネツク州)の生徒たちから話を聞くアグネス大使。

ウクライナ東部の2州、ドネツク州とルハンスク州では今でも砲撃などが続き、その前線には子どもたちが生活しています。「生活が苦しくなり、親を理解できるようになった」クラマトルスク第9学校のある生徒はそう話します。「明日死ぬかもしれないから、今日一日を一生懸命に生きないと」子どもたちの心の中にできたしこりは、深刻です。

 

ミール幼稚園の避難訓練。頭に紙の葉っぱをのせ動物になったつもりで。地下シェルターがないため、避難先は窓のない廊下。

© 日本ユニセフ協会/2018/M.Miura

ミール幼稚園の避難訓練。頭に紙の葉っぱをのせ動物になったつもりで。地下シェルターがないため、避難先は窓のない廊下。

「狼が出てきたら、追い返すために太鼓をたたくんだよ」 ミール幼稚園で出会った5歳のダニロくんは、聞こえてくる砲撃の音についてこう説明しました。狼の遠吠えのような音、これは砲撃の飛ぶ音で、太鼓を打ち鳴らしたような音は、きっと砲撃が落ちた時の音なのでしょう。幼稚園の先生方に話を聞くと、小さな子どもたちには、このように今起きていることを工夫して説明していると言います。

 

地下シェルターでの避難訓練の最中、「何が一番ほしい?」と聞くと、「暗くなっても外に出たい」「友達の家で寝泊まりしたい」という言葉が返ってきた。

© 日本ユニセフ協会/2018/M.Miura

地下シェルターでの避難訓練の最中、「何が一番ほしい?」と聞くと、「暗くなっても外に出たい」「友達の家で寝泊まりしたい」という言葉が返ってきた。

2015~17年に3回以上、校舎の屋根と窓が爆弾の破片により破壊されたマリンカ第2学校。今も校舎の窓には爆風から身を守るための砂袋が積み上げられています。卒業生に話を聞くと、「明日、何が起きるのか分からない」と、未来の予測ができないことへの不安を口々に話しました。「以前登校中に、通学路で兵士たちが攻撃し合っていた」「今朝も砲撃があった」。学校は、コンタクト・ラインから1km、チェックポイントから300mの距離にあります。

前線で暮らす危険

家の所在地を絵で説明してくれたミーシャ君。家は2つのチェックポイントに挟まれ、近くには「地雷危険」の看板が。

© 日本ユニセフ協会/2018/M.Miura

家の所在地を絵で説明してくれたミーシャ君。家は2つのチェックポイントに挟まれ、近くには「地雷危険」の看板が。

 

コンタクト・ラインの近くで暮らす子どもたちが、実際に被害に遭っています。同じ学校に通う10歳のミーシャ君は、2015年8月、家の近くの庭で砲撃が当たり頭に怪我をしました。2回の手術を経て、砲弾の破片を頭から取り出したといいます。そんな彼の住む家は、コンタクト・ラインの上にあります。「車の跡でどの戦闘用車両か分かるし、ミサイルランチャーを家の裏で見かけたこともある」と話します。

5月18日午前2時、就寝中に砲撃が家を直撃。家は今も壊れたままである。

© 日本ユニセフ協会/2018/M.Miura

5月18日午前2時、就寝中に砲撃が家を直撃。家は今も壊れたままである。

 

コンタクト・ラインから程近い、ルハンスク州のトロイツクで暮らしていた家族を訪問。アグネス大使は、足と背中を負傷した18歳のアンドレ君(兄)から話を聞きました。父、母、兄、弟の4人家族でしたが、今年5月の砲撃によって父親と弟が亡くなり、母親は重傷で入院中だといいます。「もうこの家には戻りたくない」「学校をやめて、働きながら母親を支えたい」と話しました。

5つのチェックポイントのうちの一つ、マリンカ・チェックポイント。灼熱の中長蛇の列に並んで待つ人々に話を聞くアグネス大使。

© 日本ユニセフ協会/2018/M.Miura

5つのチェックポイントのうちの一つ、マリンカ・チェックポイント。灼熱の中長蛇の列に並んで待つ人々に話を聞くアグネス大使。

砲撃が頻繁に起きているとされる、コンタクト・ライン周辺の地域。危険があるにも関わらず、コンタクト・ラインの両側に設置されたチェックポイント(検問所)を行き来せざるを得ない人たちもいます。アグネス大使が訪れたマリンカ・チェックポイントは、1日1万人ほどが通行。子どもや若い世代もいますが、高齢者が大部分を占めます。年金の受け取り、育てている農作物の様子を見に行ったり、親に孫の顔を見せに行ったり。もともとは同じ州だった地域を行き来する理由は、様々です。

「何のために?」

2014年6月、砲撃によって破壊される前は24世帯が暮らしていた。住人が1人亡くなり、その他の住人も引越しを余儀なくされた。

© 日本ユニセフ協会/2018/M.Miura

2014年6月、砲撃によって破壊される前は24世帯が暮らしていた。住人が1人亡くなり、その他の住人も引越しを余儀なくされた。

東部地域でアグネス大使が最後に訪問したのは、砲撃で大きく破壊された住居。建物の壁には、「何のために?」という文字。以前の住民が書いたのでしょうか。

視察を終えたアグネス大使は、首都キエフに向かう帰りの列車の中で、「前線のすぐそばで生活するおとなや子どもが多くいることに驚いた。他の国だと避難民キャンプといった場所があるけれども、ウクライナだと、親戚がいたり、貯金があるなど、あてのある人しか逃げられない」と述べました。また、明日死ぬかもしれない、明日どうなるか分からない、というのは子どもに言わせていいことではないと訴えたうえで、「戦場が遊び場になったりと、紛争の続く毎日が日常になってしまっている。戦争のおかげで早くおとなになれた、と言った子どももいたけれども、これは子どもたちが子ども時代を失っているとは言えないだろうか。おとなには、冷静になって、この争いの意味を考えてもらいたい」と述べました。

ウクライナにおいてユニセフは、水、教育、医療等基本的な支援に加えて、トラウマ等の心理的ケアや、HIVや障がいをもった子どもへのサポート、安全な学校づくりなどに取り組んでいます。また、紛争が終わらず地雷が増え続けるなかで、地雷回避教育を実施し、「触らない」「もと来た道を戻る」「大人に知らせる」といった、地雷を発見した時にすべき具体的な回避方法を子どもたちに伝え続けています。地元の方々と同じ覚悟で、紛争が続いている間もユニセフは精一杯ウクライナを応援していく、とアグネス大使は力強く述べました。

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