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財団法人日本ユニセフ協会




《アフガニスタン情報:2002/11/14》

妊産婦死亡率との闘い · マリアマの場合

農村部の妊産婦死亡率を削減する努力
〜命がけで子どもを産む女性たち〜

 アフガニスタンは、世界でも妊産婦死亡率が高い国です。米国疾病管理センターが行っている調査のため、ユニセフとアフガニスタン保健省は、4つの州を調査しました。その結果、妊産婦死亡率の平均は出生10万人あたり1,600人。調査によると、出産可能年齢の女性の死亡原因の40%は、出産時の予防可能な合併症によるものだということが分かりました。

img  マリアマは洞窟状の花嫁の部屋の土壁に寄りかかって座っています。右手は大きくなったお腹の上に、左手は水色の衣服の擦り切れた端をもてあそんでいます。壁のいたるところに刺繍した布が飾ってあります。これは、花嫁自身が作り、ダウリー(嫁入りの際の持参金)の一部として持ってきたものです。

 マリアマは20歳という若さですが、すでにこの家に来て何年もたっています。結婚4年目。ハミッドという3歳になる男の子の母親でもあります。前に突き出したお腹を指差しながら、彼女は2人目を予定しているのだと説明してくれました。でも、実際には3人目だと言います。昨年、男の子を産んだのに、数日後に亡くなってしまったのだそうです。

 マリアマは立ち上がって、シャランベというこの地方独特のヨーグルト・ドリンクを私に出してくれました。そこへ、汗と泥まみれのハミッドが転がり込んできます。いとこと一緒に納屋で遊んでいたのです。納屋は、マリアマが、このハミッドと死んだ子どもを産んだ場所でもあります。二人目も、1カ月後、ここで産む予定です。その時、納屋にいる動物たちは一時的に外に出され、床はきれいに掃かれ、布が敷かれます。「ここらへんではそうやって出産するの」とマリアマ。「ビニール・シートがあれば使うけれど、このへんではそんなものないわ」

 ほかの村の人たち同様、マリアマは破傷風の予防注射も受けたことがなく、医者も見たことがありません。アフガニスタンの農村部ではありがちなことですが、カンダハル州の北西部マイワンド・カレッズ村の女性たちは、研修を受けた腕の確かな助産婦の介助もないままに、家で出産するのです。出産に立ち会うのは、多くの場合、研修を受けたことのない助産婦で、妊婦が知らぬ間に合併症を引き起こしてしまい、手遅れになって死んでしまうことが多いのです。一生の間に平均7人の子どもを産むアフガニスタンの女性にとっては、危険性がさらに高いというわけです。

「出産可能年齢の女性の主な死因は、出産時の死亡ですが、その多くは予防できるものなのです」と語るのはユニセフの妊産婦保健の担当官シャイローズ・マウジです。「主要な原因は失血死ですが、これはどの途上国でも同じです。二番目の原因は、出産時異常で、適切な産科ケアが近くにないことが死につながっています」

 女性たちが男性の同伴なくして家を離れることができない社会では、保健センターに行くことさえ難しいのです。特にアフガニスタンの南部ではそうです。

 「許可が出ても、砂漠地帯を車で30分もかかるところにある一番近い診療所まで行くことはできません」と語るのは村の40代後半の女性です。11人の子どもを産みましたが、内、5人しか生き延びられなかったと言います。そのため、今では子宮脱と貧血で苦しんでいるそうです。「第一、医療費を払うお金だってありません。女性は病気になったら死ぬしか道は残されていないのです。それだけのお金を払うのも、手間をかけるのも面倒だと思われているのでしょうか?」

 マイワンド・カレッズ村の現実は、アフガニスタンの、それも特に農村部の妊産婦たちが置かれている状態を如実にあらわしています。保健センターへのアクセスがない、保健婦の数が少ない、貧困、伝統的な社会価値など、すべてがアフガニスタンの高い妊産婦死亡率の原因になっているのです。

 「こうした難問を解決するには、女性のためのヘルスケア・サービスを確立する必要があります」とマウジさんは言います。農村部で、保健施設へのアクセスを良くする必要もあります。「緊急の産科ケアを必要としている女性には、2キロでさえ運命を分ける距離になるのです」

 アフガニスタンでの妊産婦死亡率を削減するために、ユニセフは、保健省とともに、質の高いサービスを提供し、ヘルスケア・スタッフの研修を行うために、緊急産科診察所に「エクセレンス(卓越した)・センター」を設立することにしました。最初のセンターは、カブールにあるマラライ産科病院に開設される予定で、そのほかにもカンダハル、ヘラート、ジャララバードにも同様のセンターが開設されることになっています。  「アフガニスタンの妊産婦の安全を考えたインフラ作りへの大事な一歩と言えます。これによって緊急産科ケアが高まり、研修を受ける女性の助産婦の数も増えます」とマウジさん。「この国の妊産婦の多くは、出産直前の1カ月をとても怖がっています。というのも、いつ命を落としても不思議ではない時期だからです。でも、これ以上そのような状態を続けてはなりません」

 解決しなければならない課題はたくさんありますが、マイワンド・カレッズ村にはひとつ幸運なことがあります。伝説の女性マラライのお墓が村の東側にあるのです。マラライは、1880年の第2次英国・アフガニスタン戦争で、ブルカ(チャディリ)を使って、アフガニスタンの大部隊を率いた伝説を持つアフガニスタン女性です。

 第2子出産のためにどんな準備をしているの?とマリアマに聞くと、タウィズ(魔よけのお守り)を取り出しました。「あとはアラーの神に祈るのみです」彼女は笑顔で答えてくれましたが、もちろん、かの伝説の女性マラライも彼女のそばにいることを忘れてはいけません。

ユニセフ発 カブール 2002年11月6日