財団法人日本ユニセフ協会



ケニア 学校は「安心できる場所」

【2008年2月19日 ナクル発】

ユニセフの支援で設置された仮設の学校で、友達と笑顔を見せる8歳のイボンヌちゃん(写真右端)。
© UNICEF/2008/ Elder
ユニセフの支援で設置された仮設の学校で、友達と笑顔を見せる8歳のイボンヌちゃん(写真右端)。

村を襲った暴動から家族と一緒に逃れてきた8歳の女の子イボンヌちゃん。大切にしていたプラスチックのネックレスも、学校の制服も、勉強道具も、家と一緒に失いました。

「貧しい生活だったけど、学校だけはいつもそこにあったの」と、彼女は話しました。

イボンヌちゃんをはじめ子どもたちが新学期を楽しみにしていた昨年12月、大統領選挙後の混乱から暴動が発生。ケニア全土に拡大しました。ユニセフは、被害に遭った何十万人にも及ぶ子どもたちに安全と安心を確保する中で、教育−学校活動の再開がその基本になると考えています。

先週、イボンヌちゃんはついに学校にもどりました。それは、暴動が激しかったリフトバレーの避難民キャンプにユニセフが設置した仮設テントで作られた学校です。イボンヌちゃんは大喜びです。

「家は燃えていたの。でも、お母さんがドレスを2着だけ持って逃げてくれたの。これは、私のお気に入り。日曜日に教会に行く時に着るドレスなんだけど、学校に戻れるのは特別なことだから、お母さんが着て行っていいと言ってくれたの。」

教室は聖域
最大の暴動が発生した首都ナイロビのスラムの学校で勉強するピント・オモンディ君(13歳)。
© UNICEF2008/ Elde
最大の暴動が発生した首都ナイロビのスラムの学校で勉強するピント・オモンディ君(13歳)。

ケニアの子どもたちが暴動の脅威に晒される中、ユニセフは緊急支援活動に必要な資金660万米ドル(約7億円)を国際社会に求めています。一人でも多くの子どもを保護し、教育をはじめ様々な支援をするために。

「イボンヌのような小さな子どもたちにとって、教室は聖域なんです。安全で安心できる空間ですから、子どもたちはそこで遊び、学んで、経験した恐怖を忘れることができるのです。」 ユニセフ・ケニア事務所オリビア・ヤンビ代表は語ります。

暴動が始まってから6週間。これまでに、30万人以上の人々が住みなれた家を追われました。1000人あまりが命を落とし、レイプの被害は2倍に増えています。ユニセフは、ケニア全土に設置された避難民キャンプには、15万の子どもたちが、また、その半数以上が5歳未満と推定しています。

急がれる支援
暴動で破壊された祖父の家の前に立ちつくす3人の少女。
© UNICEF/2008/ Elder
暴動で破壊された祖父の家の前に立ちつくす3人の少女。ユニセフは暴動で被害を受けた子どもたちへの支援活動を展開するために、国際社会に660万ドルの支援を要請しています。

暴動は、あまりに突然に発生しました。このため、避難した多くの人々は、ほとんど着の身着のままの状態でした。
現在、屋外に設置されたテントやイベント会場、学校、教会などで過ごしている子どもたちは、ふりかかった恐怖を思い出しながら、敷物もない場所で横たわり、座りこんでいる高齢者たちの傍で遊んでいます。
人々は焚き火で食事を用意しなければなりません。トイレは大混雑。不衛生が広がっています。
ユニセフはこうした人々を一日も早く支援するよう、準備をすすめ、また、そのための国際社会の支援を求めています。

ユニセフは、この1ヶ月に、次のような支援を実施しました:

  • 避難所に住む子どもたちの70%に栄養ある食事を提供しました。
  • テントで作られた仮設学校に1万5000人以上の子どもたちが通っています。
  • 5万人以上が安全な水を入手できるようになりました。
  • 5万世帯に、テントや調理道具、食器などを提供しました。

「物資を輸送する道路が各地で寸断されたりしていたにも関わらず、非常に短期間に具体的な成果を挙げることができました。それでも、もっと多くの子どもたちが、今まさに私たちの援助を必要としています。」(ヤンビ代表)

子どもたちを守る「無償の行為」

再び学校に通うことができるようになって、イボンヌちゃんは、かつてのように、おしゃべりな女の子に戻りつつあります。一方、イボンヌの友達の中には、恐怖の体験を告白する子もいます。

「彼女は、叔父さんが若者にナタで殺されるのを見たというのです。彼女は叔母さんと一緒に隠れていたらしいのですが・・・。一部始終を見てしまったそうなんです。」と、この女の子を担当する先生は語ります。彼女の心の傷を心配するこの先生は、毎夜キャンプの少女を訪ね、勉強を手伝ったり、ご飯をあげたりしているのです。

今、ケニアでは、こうした「無償の行為」が広がっています。混乱の中に落としいれられましたが、ケニアの人々は常に、互いに助けあおうと努力しています。例えば・・・

フランシスくん(17歳)は、隣町にできた新しいキャンプで子どもたちを助ける日々を送っています。「今こそ自分のことは忘れて、子どもたちの面倒をみる時なんです。」と彼は語ります。

大暴動があったケニア最大のスラムに住むリー先生は、2週間、暴動の最中も、20人もの子どもをかくまいました。「子どもたちは、日々、恐怖の中で暮らしています。誰かが、彼らの苦しみを少しでも和らいであげなければ。彼らが安心できるように、出来る限りのことをするのは当たり前です。」と、彼女は話してくれました。

アナちゃん(9歳)は、分けてもらえる靴下を探して近所を訪ねまわっています。キャンプの仲間にあげるためです。「靴下は、夜、足を暖めるのに必要よ。次は、みんなのために靴を集めたいわ。」

「一枚も着替えを持っていない友達もいるわ。本を持っていない子も、靴を持っていない子も。学校に行ける子もいるし、まだ行けない子もいるの。みんなが一緒に学校や教会に行けるようになって欲しいな。」とイボンヌちゃんは語ります。