HOME > 世界の子どもたち > 緊急支援情報 > ハイチ地震緊急・復興支援募金
財団法人日本ユニセフ協会



ハイチ地震緊急・復興支援募金 第68報
コレラが猛威を振るう中、人々に“やすらぎ”を与える場所

【2010年12月6日 ハイチ発】

© UNICEF Haiti/2010/McBride
ルシエン・ロシエレさんとセバスチャンちゃん(生後8ヵ月)。ユニセフが支援している「赤ちゃんに優しいテント」で。

今年1月、ハイチを襲った大地震の影響で設置されたマイス・ガテにある避難キャンプは、狭い敷地に被災者がすし詰めになって暮らしており、不衛生な状態がひろがっています。こうした状況での生活を強いられているルシエンさんにとって、息子のセバスチャンちゃんは、元気を与えてくれる存在です。

生後8ヵ月のセバスチャンちゃん。よだれを出しながら体重計に上がっています。その針は、なんと11キロを示しています。機敏に動きまわっているセバスチャンちゃん。立ち上がって母親の身体をよじ登ったり、もうちょっとで一人立ちしそうな勢いです。「赤ちゃんに優しいテント」では、セバスチャンちゃんはまるで王様のよう。他の若いお母さん方に、栄養状態が良く母乳で育てられている赤ちゃんの良い例となっています。

セバスチャンちゃんは、「赤ちゃんに優しいテント」の看護師から、その健康状態と成長度合いに太鼓判を押されています。「赤ちゃんに優しいテント」は、ユニセフの支援を受けた地元のNGOによって運営されています。

「震災の前は、どうやって赤ちゃんを育てればいいのか分かりませんでした。抱き方も知らなかったんです。母乳育児なんて全く知りませんでした」と、ルシエンサンは語ります。「ある意味、あの地震があったから(地震前には無かった「赤ちゃんに優しいテント」を通じた支援を受けられたから)、この子を健康に育てることができているのかも知れません。」

子どもたちを健康にする母乳育児
© UNICEF Haiti/2010/McBride
ポルトープランスにあるマイス・ガテ避難キャンプは、1月12日にハイチを襲った震災で設置された避難キャンプのひとつ。多くの被災者たちは、厳しい状況での生活を強いられています。

地震が発生した日、ルシエンさんは家族の3人と一緒に自宅にいました。怪我はなかったものの、半壊した家で暮らし続けることは不可能でした。このため、ルシエンさんは、マイス・ガテにある避難キャンプでの生活をスタート。不自由な生活の中でもできる限りのことをしようと、セバスチャンちゃんと一緒に、毎日、「赤ちゃんに優しいテント」に通っています。

「避難テントにきたとき、セバスチャンの出産が間近に迫っていました。」「マウヴェッテさんから教えてもらって、前もって、セバスチャンの命を守るために必要なことを準備することができました。」

看護師長のマウヴェッテさんは、地震発生前、ポルトープランスの看護師学校で教壇に立っていました。マウヴェッテさんが、2月の初めにマイス・ガテ避難キャンプに「赤ちゃんに優しいテント」が設置されてから診療をした女性の数は、450人を超えています。マウヴェッテさんは、完全母乳育児の重要性や、こうした厳しい状況の中で必要な乳児へのケアなどを教えることが、母親だけでなく、父親や子どもの面倒を見ている全ての人々に必要不可欠だと言います。

「このテントに来る母親の多くは、出産直後から赤ちゃんに液状のものを食べさせていたり、生後6ヵ月を迎える前に離乳食を食べさせていたりしています。」「ここで開かれている母親教室に参加した多くのお母さん方が、完全母乳育児を始めています。子どもたちもすくすくと育っています。」

迷信を一掃する教育

また、「赤ちゃんに優しいテント」のスタッフは、震災にまつわる迷信を払拭するべく活動していました。例えば、多くの女性が、地震が母乳に何らかの影響を及ぼし、その母乳を飲ませると赤ちゃんに害を与えるのではないかと恐れていました。マウヴェッテさんは、看護師2名と心理学者を含むスタッフと一緒に、母親教室を通じて、彼女達たちを安心させるよう努めました。現在、「赤ちゃんに優しいテント」に通うお母さんたちの約80パーセントが、母乳育児を実践していると報告しています。

「ハイチのような国で、これは、非常に勇気付けられる成果です。完全母乳育児が子どもの生存率を高める最も効果的な方法のひとつであることは、世界中で実証されています。」ユニセフ・ハイチ事務所のモハメド・A・アヨヤ栄養担当部長はこう話します。「この場所で実践されていることは、ユニセフの支援で運営されている他の『赤ちゃんに優しいテント』や、コミュニティの中で運営されている栄養不良対策活動、また深刻な急性栄養不良の子どもたちのための安定化センターでも導入されています。」

アロヤ医師は、今続いている緊急事態への対応だけでなく、ハイチ全域の乳児と幼い子どもたちの適切な食事を促進するためには、長期的で安定的な戦略が必要であると付け加えました。「女性、男性、保健の専門家や伝統的なリーダーといった幅広い人々の協力が必要不可欠です。」

コレラの予防
© UNICEF Haiti/2010/McBride
ポルトープランスにあるマイス・ガテ避難キャンプの「赤ちゃんに優しいテント」で、厳重にコレラ予防対策を実施している看護婦長。テントに入る人は例外なく、その前に、石けんで手を洗わなければなりません。

一方、マイス・ガテ避難キャンプでは、道に淀んだ水が溜まり、人々がすし詰めになって暮らしています。人道支援団体が配布した防水シートの上やテントで暮らしている人々には、ほとんど、あるいはまったくプライバシーのない状況です。飲んだり、洗濯したり、また調理に使うために、男性や女性、子どもたちを問わず、キャンプ地内に点在する給水地点に絶え間なく足を運んでいます。

10月に発生したコレラの新たな脅威に晒される中、この「赤ちゃんに優しいテント」は、人々に“安らぎ”を与えてくれる場となっています。テントに入る人は誰でも、塩素処理された水と石けんで手を洗わなければなりません。マウヴェッテさんは、注意深く訪問者を見守り、正しく手を洗えていない人には、自ら手洗いをやって見せて、コレラ対策における予防の重要性も伝えています。

「コレラが蔓延しているので、お母さん方一人ひとりに、石けんや経口補水塩、浄水剤を配布しています。」マウヴェッテさんは、水を媒介とする疾患に関連する下痢と脱水症状の予防と治療のためにユニセフが提供している支援物資を紹介しながら、こう説明してくれました。「『赤ちゃんに優しいテント』は、完全母乳育児を学ぶだけの場所ではありません。」「お母さん方やお父さん方に、感染が拡大している病気から家族を守り健康を維持するための情報を提供する命綱となっているのです。」

ルシエンさんも同意見です。ルシエンさんは、医師や看護師、そして他のお母さん方から受けた支援や友情に感謝しています。しかしながら、私たちが「もっと子どもが欲しいですか?」と尋ねると、ルシエンさんは首を横に振りました。「今、子どもを育てるには最悪な状況です。」「家族を取り巻く状況が変化するまで、この状況の中で、もうひとり子どもを産むつもりはありません。」