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世界のニュース(2)

パプア州(インドネシア東部)
空飛ぶユニセフ日本人スタッフ パプア州で大活躍!
〜すべてを覆い隠すジャングルの中で〜

 「トンビを放してやってくれないか?」45分間、地元の男性と粘り強く交渉を続けるナカミツ・キヨシ(中満潔)。やっと解放された小さなトンビは、真っ青な空に向かって飛び立っていきました。ここはインドネシアのパプア州にあるワメナの町。近代的なビルが立ち並ぶインドネシアの首都ジャカルタからはほど遠い場所です。

ユニセフのインドネシア事務所のパプア州地域事務所長であるキヨシの交渉力は周囲がおどろいてしまうほど。「ぼくは何から何まで細かく指示するタイプの人間ではない」と語る彼は35歳の日本人。「でも、ときどきは指示が必要だ。口を出すべきタイミングと耳を傾けるタイミングとはわきまえているつもりです」

ここに来てからすでに3年。その間にキヨシは多くのことに耳を傾けてきました。とにかく休むことを知らない彼です。今日はワメナ地域の母子保健の視察に来ているところです。ユニセフはパプア州の5つの地域で活動していますが、それぞれがまるで違う環境と状態にあります。

「パプアが6カ月後にどのようになっているか…そんなことは占い師でも分からないくらいですよ」とキヨシ。彼はニューヨーク、ルサカ、ナイロビを経て2001年にパプアに移ってきました。「眠れない日々も多かったですよ。髪も抜けましたしね」この地域での一番の課題は貧困と栄養不良、そしておもてだってはいませんが、HIV/エイズの問題もあります。

パプアでのユニセフ活動は、地域の多様性と地理的な難しさも加わって、とても複雑です。次の朝、キヨシは20人乗りのセスナに乗って、バリエム渓谷にあるティオムという村で行われているユニセフ・プロジェクトの視察に出かけました。パプアの人たちにサービスを届けるのがどんなに大変か、飛行機からだと手にとるようにわかります。ほとんどがジャングル地帯のパプア州。深い木々の下には、多様な鉱物や木材資源と共に、インドネシアからの分離・独立を狙う人たちまでもがおおい隠されているのです。道といえる道はほとんどなく、海岸からつながる道は1本もありません。つまり、すべてが空輸に頼っている状況なのです。

ティオムの滑走路に飛行機が着陸。キヨシはほっとした表情を浮かべながら、ティオムの長老や役人、教師、保健員に出迎えられ、笑顔でひとりひとりにあいさつをします。軍と警察も、万が一のときを考えて派遣されてきていますが、武装は物々しいものの、のんびりしたものです。

20分歩いて、ヨコバクの村に向かいます。400世帯の村です。小さな保健クリニックの外にはベーテル・ナッツ(ビンロウというヤシの実。ガムのようにかんだりする)で口を赤くした女性たちが子どもたちを連れて待っています。ティオムと政府が運営する8つの村クリニックは、ユニセフからの援助を受けているものの、まだまだこれからといった状態です。中度の栄養不良の割合が高く(食事は主にサツマイモ)、子どもたちのふくらんだお腹を見ると、寄生虫がいることが分かります。腕や脚には切り傷が多く、かいせん、そのほかの感染症も見られます。マラリアや結核、そのほかの肺に関する病気も問題です。

「ぼくは『草の根』を大事にするタイプなんです」とキヨシ。「そこがぼくの原点だから、そこに一番力を入れるべきだと思っているんです。個人的な意見ですが、援助機関は、政策と現場レベルでの政策推進とのバランスをうまくとらないといけないと思っています。実際の現場(村レベル)で役に立っていなければ意味がありませんから。ここでは最前線にいられます。何がうまく行って、何がうまく行かないのかがはっきり分かります」

ここでは、ユニセフが研修した看護師やお産婆さんたちが大きな力となっています。医者は3年前からいません。「ここの女性たちはすごいですよ。地元の人たちのことを本当に思って、一生懸命働いてくれる」とキヨシ。「そういう意味では最高のパートナーですね」

次の朝、キヨシはアソロギアマに出発するところでした。ワメナから車で3時間。地元の人たちに、子どもたちの健康を定期的にチェックしましょう、と伝えに行くためです。

キヨシは、いつも次のプロジェクトを考えながら行動しています。すでに3日も現場にでかけているのに、さらにもうひとつ…。ストリートチルドレンを支援する地元のNGOの様子を見に行くというのです。ユニセフはここにも支援を広げようとしています。

文・構成 前ユニセフインドネシア・パプア州地域事務所広報官 ポール・ディロン

* パプアでの5歳未満児の死亡率は1,000人中65人でした(インドネシアの平均は45)。また5歳未満児の3分の1は中度から重度の栄養不良状態にあります。また、妊産婦死亡率はインドネシアの中で一番高く、出生10万人あたり1,000となっています(インドネシア全体としての値は307)。

* *パプアのHIV感染率は劇的に上がっています。パプアのメラウケで性産業に従事する女性の26.5%がHIVに感染しています。

プロフィール

中満 潔(なかみつ きよし)さん
明治大学農学部卒業後ボストン大学で栄養学、国際関係を学ぶ。ピッツバーグ大学大学院にて、経済・社会開発、特に公衆衛生・栄養問題に関する修士課程を修了。日本で議員事務所勤務を経た後、ユニセフ・ニューヨーク本部事業予算局へ。ユニセフ・ザンビア事務所、ケニア事務所等を経て、2002年から2004年5月までユニセフのインドネシア・パプア事務所所長。現在ユニセフ・マレーシア事務所副所長。

写真:©UNICEF 04/Indonesia/Estey

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