世界のニュース(1)
ひとりの勇気ある少女の告白
〜HIV/エイズとともに生きる(タイ)〜
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ヌーさんが時間どおりに薬を飲めるようにするため、この時計がとても役立っています。かんたんなことのように思えるかもしれませんが、彼女のHIV/エイズの治療にとって、なくてはならないことなのです。
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タイ北部にあるちいさなNGO、エイズ・アクセス基金のミーティングルームに入ると、ヌーさん(本当の名前ではありません)が座っていました。ヌーさんのお母さんがわりをしていたお父さんは、なくなりました。ヌーさんの両親はHIV/エイズにかかわる病気で命をうしないました。そしてHIVウイルスは、ヌーさんの体もむしばんでいました。
ヌーさんは12歳。ヌーさんは本当の年齢よりもいくらか若く見えます。それは、HIVウイルスのせいで、ヌーさんの体はやせおとろえ、体力をうばっているからです。ヌーさんの目や服装は、抗レトロウイルス薬をつかっていたり、日和見感染症※(ひよりみかんせんしょう)の症状がでているせいか、少しおとなびて見えます。
まずしく、HIVウィルスにおかされているヌーさんは、孤児になってしまいました。今はおじいさんと暮らしています。おじいさんは、アルコール依存症でした。ヌーさんは、家事をしなければなりません。家をすみずみまで掃除して、家計をきりもりし、お金はおじいさんの手の届かないところにかくして、必要なときにだけお金をわたすようにしています。そしてヌーさんは70キロもはなれたところに薬を取りに行っています。毎月の分を運ぶには重い、液体の薬のみを使っています。ヌーさんは、錠剤の抗レトロウイルス薬を信用していません。なぜなら、それを飲んでいても助からなかったお母さんの姿を覚えていたからです。
◆ヌーさんの告白
私はこの1年、ずっと病気だった。息がくるしいし、セキがでる。地元の病院に行ったら、お医者さんは私が日和見感染症だって言ったの。その頃は元気だったお母さんがつきそってくれた。いくつか検査をうけたけれど、これから自分がどうなっちゃうのか全然わかんなかった。お医者さんもわからなかった。だから、ここより大きな町、チェンマイにある病院に行ったの。そこでは、お医者さんがお母さんに、私がHIVウイルスに感染しているって話した。「HIVウイルス」で「エイズ」になっちゃうってこと、そして体が弱くなってしまうってことを私は知ってました。
昨年、お母さんは死にました。そのあと、おじいさんはお酒ばかり飲んで、私をなぐり、どなりつづけたんです。しばらく、このNGOで暮らしていたけど、おじいさんが私と一緒に暮らしたがったのです。今では、おじいさんはちょっとしかお酒をのみません。そしてまだ働いています。おじいさんは、私に毎日食事をさせて、このNGOにバスで通わせてくれます。
今、私は抗レトロウイルス薬を毎日飲んでいます。朝は7時ちょうど、夜も7時ちょうどに薬を飲まなくてはいけないの。お医者さんは、私に時間を守って飲むように言ったわ。これまで4カ月のあいだ飲みつづけているんだけど、なんだか強くなった気がする。今では、ご飯も食べられるようになりました。
お医者さんのところに行くのは、月に一度。ひとりで病院に行けるの。行くのはいいんだけど、帰りは重い薬を持ってかえらなくちゃいけなくって…。
私は保健員さんから時計をもらったの。きまった時間に、ちゃんと薬を飲めるようにね。この時計はすごく便利。だって、薬の時間になると、ベルがなって教えてくれるもの。そうでないと忘れちゃうんです。エイズは怖くない。もし薬を飲むことを忘れたら、思い出したらすぐ飲まなくちゃいけない。
もし私が薬をのんだら、病気はよくなる。ウイルスが体のなかからすっかり消えてしまうことはないけど、薬を飲めば病気にならないでしょ?
私の友だちが、私が病気だって知ったら、遊びにこなくなっちゃった。だって、私がすごくやせているから、みんなはこう言ったの。「こっちに来ないで。いっしょの部屋で勉強しないで。だって、あなたはエイズなんでしょう?」。だけど、私はいっしょに遊んだからといって、エイズがそうかんたんにうつるものじゃないって知っているわ。今では、みんなもそれを理解してくれて、会いにきてくれるし、私も会いに行く。みんなのお父さん、お母さんだって、私と遊ぶことを許してくれた。
私は学校に行けない。だって、体の具合がよくないから。先生は私にもう少しよくなってから学校に戻ってきてほしいと思っています。私は来年まで学校に戻るのを待とうと思って。
私は勉強もしたい。そして将来、キャリアウーマンになりたい。私がよくなるって、99パーセントわかってる。だけど確信はないの。だって、肺に問題があるから。寒くなる雨季には、うまく息ができないの。
※日和見感染症(ひよりみかんせんしょう):HIVウイルスによって、健康ならかからない病気、健康ならすぐ治るいろいろな感染症にかかってしまうこと。
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