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東日本大震災復興支援 第249報
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© 日本ユニセフ協会 |
11月14日、第13回東日本大震災子ども支援意見交換会が開催されました。今回のテーマは、「子どもの貧困」。厚生労働省によると、日本国内で現在「貧困ライン」(世帯所得の中央値の半分)未満で暮らす18歳未満の子どもは、全体の16.3%。6人に1人の子どもが貧困下で暮らしている状況です。
ユニセフのイノチェンティ研究所が今年10月に発表した『レポートカード12 不況の中の子どもたち:先進諸国における経済危機が子どもの幸福度に及ぼす影響』(日本語版は12月に発表)によれば、2012年における日本の子どもの貧困率は、先進工業諸国41カ国中19番目。リーマンショック以降、多くの先進国で子どもの状況が悪化する中、日本でも貧困の深刻度を示す「貧困ギャップ」が2008年から2012年にかけて増加したと報告しています。
東日本大震災の被災地には、震災前から生活保護や就学援助を受けたり、母子家庭など経済的に厳しかった家庭に加え、震災によって新たに貧困や貧困に近い状況に陥った家庭が少なくありません。 震災と津波による家屋の全壊・半壊などの物的損失、父母や祖父母など仕事や家事などにより家計を担っていた家族を亡くしたことによる経済的困窮だけではありません。震災後、仕事を失ったり、仕事が減ったり、転職を余儀なくされた家庭も少なくなく、多くの子どもたちの生活に大きな影響を与えています。福島県では、地震や津波の被害は免れながら、原発事故の影響で、新築したばかりの家を離れざるをえなかった方々もいらっしゃいます。福島県に多く見られる県内に残る父親と県外に自主避難した母子が離れて暮らす家族のように、様々な理由で離散を余儀なくされた方々には、二重の生活費がかかり、家計への負担も大きくなっています。
今回の意見交換会では、「学習支援」「ひとり親支援」「食糧支援」「学童保育」「社会的養護」「遺児への支援」の各分野で活動する関係者や専門家が、それぞれの現場や立場から見えてきた、被災地の子どもたちの貧困状況や課題、問題解決に向けた提言を発表。内閣府からは、「子どもの貧困対策に関する大綱」に関する説明が行われ、文部科学省、厚生労働省の担当課は、子どもの貧困対策のための国による様々な取り組みを発表しました。衆議院解散直前の開催となり国会議員の参加は限られましたが、担当省庁や市民団体、大学関係者、報道関係者など、参加者は65人を数え、官民ともに、この問題への関心が高いことが伺えました。
「学習支援」の現場の立場から発表されたNPO法人「キッズドア」は、同団体が進めている「タダゼミ」などの学習支援をきっかけに食料品を提供するなどの生活支援につなげることで、貧困の世代間連鎖を断ち切れること。スクール・ソーシャルワーカーやそれに類似する役割を代替的に果たせるNPOなどの団体を活用することで、教育と福祉の壁を乗り越え、子どもたちに安心な居場所、学習の場を提供することができるはずだなど、具体的な対策を提起。「食糧支援」を行う「ふうどばんく東北AGAIN」も、「学習支援」や「ひとり親支援」を行うNPO等との恊働で、子どもの貧困対策に資する効果が見え始めていると言います。さらに、単に食べ物を届けるだけでなく、食品と一緒に手紙を入れるなどをすることによって精神的なつながりを作ることが、生活困窮世帯のエンパワーメントにつながっていると報告しました。
福島県で「ひとり親支援」に取り組むNPO法人「しんぐるまざあず・ふぉーらむ・福島」は、生活保護家庭よりも低い収入で暮らしているひとり親家庭の貧困率は50%を越えており、母子家庭の多くが安定した収入を得ようとしても、資格がないなどの理由で正規で働くことができていないという現状を報告。パートタイムを3つかけもちしながらようやく子どもたちの教育費や食費を支えている方も多くいると語り、母子家庭の母親が就労に役立つ資格を取得できるよう高等技能訓練促進費の月額手当の増額や就業期間の延長など対策が必要だと提言されました。
日本ユニセフ協会との連携で気仙沼市の学童保育指導員研修を実施している宮城県学童保育緊急支援プロジェクトは、「学童支援」の立場から報告。学童利用料は減免制度があるものの、公的支援の対象にならない「おやつ代」を出すことができない家庭もあるといった現場から見える状況が紹介され、学童指導員が専門性を高めることで、貧困家庭で乱れがちな食生活や生活技術の習得を支えたり、子どもの情緒安定、社会性の向上など貧困の連鎖を防ぐ一助となり、子どもや保護者を支えるケアワーカーとしての学童指導員の資質向上を支援することの大切さなどが提起されました。
5月に被災地の社会的養護の現状を含む報告書「夢が持てないー日本における社会的養護下の子どもたちー」を出版したヒューマンライツウォッチは、不必要な施設収容をやめ、質の高い里親子支援システムを作ること、施設のケア水準を上げること、高校卒業後の自立支援の充実などを提言として挙げました。
いわゆる「遺児」への支援に取り組む「あしなが育英会」は、東日本大震災支援では孤児や遺児への経済的支援が過剰に行われた一方で、震災前からのひとり親や生活困窮世帯への支援が薄い現状を報告。経済的格差だけではなく、貧困の結果として子どもたちの間に広がっている「意欲の格差」や「希望の格差」をなくしていくことや、震災で壊された家庭や地域への支援がなければ真の復興が望めないと訴え、被災地における子ども格差をなくすためには、都道府県における貧困対策計画の策定を進める必要があることなどが提起されました。
2014年も残り僅か。被災地では、土地のかさ上げや防波堤、災害復興住宅、保育園園舎や学校の校舎の建設など、復興事業が本格化しています。しかし、震災前から脆弱だった子ども支援や子育て家庭を支援するための社会サービスは、なかなか整備されません。
震災は、多くの家族や地域をバラバラにしてしまいました。このため、子どもの暮らし全体が地域社会の中で支えられにくくなっている状況があります。経済的な貧困は言うに及ばず、「支えられ格差」と言われるような状況、すなわち支援を受けられている子どもたちとそうでない子どもたちとの間の格差も出て来ています。復興の中で元気になっていくおとなや子どもたちがいる一方で、元気になれないおとなや子どもたちもいるのです。
震災から間もなく4年。支援から“漏れて”しまっている子どもたちをいかに支えていくか?私たちは、新たな課題への取り組みを求められています。震災前には存在しなかった社会資源や社会サービスを構築していくための支援も含め、東日本大震災の被災地でも、ユニセフが提唱する“Build Back Better(災害前よりよりよい状態にすること)”の理念の実現が求められます。「子どもの権利条約」の中身を具体化するためにも。
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