トトニカパン県サン・バルトロ村で出会った3歳のジャスミンちゃんは、ぷっくりとしたお腹で一見元気そう。しかし、2歳児の平均身長を示すパネルと比べてもやや小さく、発育阻害であることがわかる。お腹のふくれは、寄生虫の影響。
ジャスミンちゃんの弟(1歳)は、下痢が続いて急性栄養不良に陥り、治療を受けていた。母親に、2人の子どもが栄養不良であるという認識はなく、平均より小さいことにも気がついていなかった。家の周囲は一面のトウモロコシ畑。土地があっても、栽培している農産物の種類はとても少ない。
ティエラ・ブランカ村のロセリアさんの家では、急性栄養不良からようやく回復してきた1歳半のアリソンちゃんが眠っていた。
地域の保健師が定期的に訪れて、アリソンちゃんと姉のドゥルセちゃん(4歳)の成長を確認する。まだ平均よりも小さいアリソンちゃんだが、1カ月で1cm背が伸びたと助産師はホッとした顔を見せた。
計測後、成長曲線の表と照らし合わせて、発育状況を確認する。アリソンちゃんは、急性栄養不良は脱したが、まだ慢性的な栄養不良状態。「はやく改善しなければ、今後の成長が心配」とユニセフ・グアテマラ事務所の篭嶋真理子副代表(写真右)は懸念する。特に脳の発達に受ける影響は、その子の一生に影を落とす。
昼食の支度を始める母のロセリアさん。家で作っている野菜に少しの玉ねぎとニンニクを加えていためものを作る。肉や卵は貴重でなかなか食卓にのぼらない。
ロセリアさんは、シングルマザー。子どもたちの父親は、アリソンちゃんが生まれると姿を消した。いまは実家に身を寄せて、癌を患う母親と暮らしている。4人の食事は、トルティージャ(トウモロコシの薄いパン)と野菜のいためものだけ。
ユニセフの栄養支援の一つとして、広く使われている微量栄養素の粉末。どんな食べ物にも混ぜられるこの"栄養ふりかけ"を高く評価したグアテマラ政府は、2年前から政府の予算で配布を始めた。ジャスミンちゃんも、おやつのバナナに混ぜてもらってあっという間に完食。
子どもたちが下痢を繰り返すことが問題だったラス・フローレス村で、子どもたちの健康を守るために立ち上がった女性たちを訪問。下痢は、子どもたちが栄養不良に陥る要因のひとつ。啓発用ビデオを作ったり、家庭を訪問したりして、安全な水の使い方や衛生的な暮らしについて伝えている。
村の生活用水となっている湧水の水源を守るのも、女性たちの活動の一つ。周囲にゴミが投棄され、水が汚されていたことから、定期的な清掃やゴミ投棄を防ぐための啓発活動を続けている。
活動の成果を問うと、以前はゴミがたくさん捨てられていたという森の中を案内してくれ、「今は、ごみを捨てる人がいなくなった」「学校でも、水を沸かしてから使うようになった」と胸をはる女性たち。より良い村に、自分たちが変えているという誇りと熱意にあふれていた。
チュイスック村のコミュニティセンターで行われる栄養の勉強会には、小さな子どもを連れた母親たちをはじめ、たくさんの村人が詰めかける。ここでも、中心は村の女性たち。栄養について学ぶビンゴゲームで盛り上がる。
話を聞きながら熱心にメモを取る女性たちの姿が目を引く。 住民同士が学び合い、意識を変えていくことが、行動や習慣を変える原動力になる。
コミュニティセンターでは、子どもの成長を支える様々な活動が活発に行われている。子どもたちも一緒に、中庭の水場で手洗いの指導。「必ず石けんを使いましょう」、「指先だけでなく、肘までしっかり洗いましょう」と呼びかける。
地元野菜を使った料理教室に、アグネス大使も参加。子どもたちが野菜を食べないという悩みは万国共通。味付けにはちみつやレーズンを使って、子どもにも食べやすくする工夫が紹介された。
助産師歴20年のマルガリータ・フリアさん(41歳)も、「最初の1000日」の栄養改善に取り組む。この日は、妊娠7カ月の妊婦のもとへの訪問健診に同行。「腹痛や頭痛はない?」と声をかけながら、むくみをチェックし、胎児の位置や成長を確認する。
はじめての出産で不安を抱える妊婦のロサリオさん(20歳)に、お産の流れやリスク、どんな準備が必要かを丁寧に説く。「赤ちゃんのための寝床が必要よ」「母乳は赤ちゃんにとって何よりの栄養」「とくに最初の6カ月は母乳をあげましょう」
20年前、初めて立ち会ったお産は死産だった。そのことは、今も忘れられない。妊婦から受け取る健診代は、そのほとんどがお産のための備品や器具に消える。もうけはほとんどないが、「新しい命を取り上げることが喜び」
ロサリオさんとお母さん(写真左)。ロサリオさんは里帰り出産で、この小道の奥に家がある。一面に広がるトウモロコシ畑は、彼女たちの土地ではなく、生活は決して楽ではない。
トトニカパン県最大の病院である国立トトニカパン病院は、 赤ちゃんにやさしい病院"認定病院でもある。産婦人科医、小児科医、栄養士などがチームで母乳育児や母子保健の促進に取り組んでいる。
生まれたばかりの赤ちゃんとお母さんに会いに、産科病棟へ。このお母さんは公用語のスペイン語がわからず、自分の民族の言葉しか話せなかった。
前日に帝王切開で生まれたばかりの赤ちゃん。さっそく母乳を飲みはじめていた。
国立トトニカパン病院では、母乳の出る母親がミルクを寄付する「母乳バンク」の取り組みが行われている。搾乳した母乳は、栄養価や安全性を検査したのち、殺菌して冷凍保存される。母親の母乳が出にくい、病気で母乳をあげられないなど様々な理由でお母さんの母乳を飲むことができない赤ちゃんのために使われる。
地域の基幹病院として、新生児集中治療室(NICU)も備える。本来4人が定員だが、7人を看護していた。担当医は、お母さんが健診を受けないこと、栄養状態が悪いことが、赤ちゃんのリスクを高めていると警鐘を鳴らす。
全校生徒が集まって、栄養と衛生に関する集会が行われていたトトニカパン県のバスケス小学校。「どうして食べ物や衛生が大切なの?」「どんな野菜を食べたらいいの?」子どもたちからの質問に、ひとつひとつ答えるアグネス大使。
食育の一環で、学校菜園ではブロッコリー、キャベツ、ラディッシュなどの野菜が作られていた。集会では、採れたての野菜で作ったサラダの試食コーナーも。学校で学んだ栄養の知識は、子どもたちを通じて地域のおとなたちへも広がっていく。
統一された学習基準のなかったグアテマラでは、2009年にようやく国の基本学習要項(National Basic Curriculum)が導入された。そこには、学校保健や食育についての記述もあり、学校での栄養への取り組みも強化されている。訪問最終日に訪れたグアテマラシティの学校でも、授業後に栄養補給ドリンクを飲むのが日課。
ロセリアさん一家と。29歳の彼女の身長はおよそ135cm。並ぶとその小ささがはっきりとわかる。民族的な特徴や個人差では片づけられない問題、とユニセフの栄養担当官は言う。