キャンペーンTOPページへ » 私たちの夢をきいてください。:後藤健二さんからのメッセージ




1967年宮城県仙台市生まれ。TBS系制作会社を経て、1996年に映像通信会社インデペンデント・プレスを設立。  ルワンダ、コンゴ、アルバニア、コソボ、コロンビア、チェチェン、シエラレオネ、エストニアなど世界各地を取材し、さまざまな国際ニュース映像を配信す る。近年では、パキスタン、アフガニスタン、イラク、ソマリアなどを集中的に取材・レポート。難民問題や人道分野に焦点を当て、とくに世界中の「苦しみ の中で暮らす子どもたちにカメラを向けてきた。NHK「週刊子どもニュース」「クローズアップ現代」「海外ネットワーク」などを通じて、世界にその姿を伝える。


私たちにできること

「あなたが私たちを撮影したり、インタビューして伝えることで、私たちは日本の人たちに助けてもらえるのですか?」 「そうなるように、一生けん命やります。どこまでできるか、確かなことは約束できませんが、これはあなたたちのメッセージを伝えるひとつのチャン スです。私の取材を受け入れるかどうか、あなたたちが決めることなんです。」 私たちジャーナリストが訪れる現場には、たいてい驚くほど貧しく、苦しく、痛々しい生活があります。故郷を追われた人たちは、水道も電気もガス もないビニールテントで暮らしています。しばしば食べ物もありません。子どもたちは学校に行くことができません。まわりの大人たちはみんな銃を 持っていて、人を殺すことが正しいことだと教えます。大きな権力を持つ人たちが生み出す戦争や混乱は、小さな力しか持たない彼らには止めるこ とができません。彼らの暮らしは、自分たちの力ではもうどうすることもできない時もあるのです。だからといって、彼らはほかの人に八つ当たりした り、自分がこの世に生まれてきたことを恨んだり、生きることをあきらめたりは決してしません。逆に、目の前の困難からどうにか抜け出す道を探して います。こちらが向けるカメラに、彼らは自分たちの生活をさらけ出して見せてくれます。まるで、(私にできることはありのままを見てもらうことだけ だ)と言っているかのように—。 私たちはその姿をメディアを通して見て知り、自分たちの住む世界と比べます。そして、ほっとしたり、なげいたり、疑問をもったり、ある時は平和な 世界に生きている私たちのほうが生きていく勇気や力をもらったりします。苦しみの中で暮らす人たちの生活を見て知ることは、私たち自身の「生き 方」にも大きな影響を与えます。 冒頭の会話は、取材現場で私が取材する相手と交わすやりとりです。取材を受け入れてくれる人たちには、メッセージがあります。 「どうぞ見てください、私たちは生きているんです。どうか私たちを忘れないでください。放っておかないでください」 彼らは待っているのです、私たちの助けを。私たちが、彼らの人生のすべてに手をさしのべることはできないかもしれません。でも、彼らが今生きてい くために、いろいろな形で支えになることはできます。 人間らしく生きていくために必要なことのひとつが、「学ぶ」ということです。私たちは、生きていくためにさまざまなことを学ぼうとします。とくに、 厳しい環境の中で暮らす子どもたちにとって、学ぶ機会や学校は特別なものです。子どもたちが、戦争やドラッグや貧困や暴力の悪夢から逃れ、希 望の芽を見つけて、未来へと育んで行く−それが「学ぶ」機会です。 「困難と苦しみの中に必死に生きる人たちの声を伝えること」は、「私にできることは何か?」という問いに対する、ジャーナリストとしての私の答え です。現場の人たちの表情、環境、音、におい、空気感を大切にして、彼らのメッセージをできる限りあますところなく、みなさんに伝えようといつも 心がけています。 ひとりひとりが、「私たちにできることは何か?」をじっくりと考え、その答えを見つけて行動するきっかけになってくれたら、とても嬉しく思います。

2009年5月24日
インデペンデント・プレス 後藤健二

財団法人日本ユニセフ協会