EYE SEE TOHOKU〜子どもたちの目が見る被災地の今と明日〜

写真ワークショップレポート

EYE SEE TOHOKU in 福島県相馬市

2日目 12月4日(日)

8:30

そして、最終日:

ワークショップ3日目。青空の晴れ渡る、そして風のとても強い朝です。
予定より30分早い8時30分に会場に集合し、津波被害を受けた海岸部の取材に向かいました。
道案内を務めてくださったのは、教育委員会の佐藤さん。限られた時間の撮影とあって、佐藤さんはジャコモさんから「被災地の全貌が見渡せる場所、そしてより具体的なイメージを伝えられる場所という視点からロケーションを選んでほしい」というリクエストに答える場所を即座に地図で調べて知らせてくださいました。

最初に向かったのは磯部。墓地がありました。高台から、松川浦一体を見渡すことができます。戦没者慰霊碑と眼下に広がる何もかもが失われた一帯のようすに、戦争や災害で人が亡くなることに思いを馳せている参加者もいたようです。

その後、松川浦の沿岸地帯を走り、途中、車を降りて、津波被害の跡地を撮影しました。
地盤沈下した地面。雨の日や満潮時には海の水が道路を覆うとのこと。このあたり一体は住宅地だったそうですが、今は家の土台しか残っていません。なにもない、広大な平野を強い海風が吹き抜けて行きます。

海辺には皆が撮影場所にと選んだ自然の家がありました。「みんなが遊びにくる場所だったんです」そう話してくれた陽さん。おそらくその建物と思われるビルを指差し「あれが自然の家かな?」とたずねると「多分・・・。ずいぶん違っちゃってわからなくなっちゃいました」。実際、その白い建物は自然の家の跡地で、その手前の瓦礫が積みあがった場所では漁師さんたちが市場を開いていたそうです。

車はさらに原釜へと向かいました。 このあたりに親戚やおばあちゃんの家があるという乃愛さん。「あれが友だちのお母さんのやってた旅館・・・。あれがおばあちゃんの家」。親戚や知り合いの多くが津波被害の影響を直接受けているのでしょう。

この日はものすごい強風で、ふんばっていても飛ばされそうになるようでした。

火力発電所。火力発電所には復旧に向けて1日3,000人もの人が働いているそうです。

キャプションで気持ちを伝える

撮影を終え、教育研究実践センターにもどりました。
風で冷えきった体をあたたかなお茶で暖めながら少し休んだ後、これまでに撮った写真へのキャプション付けの作業にはいりました。
これまでの撮影を思い出したり、お互いにどうだったっけ?と聞きあったりしながら、黙々と作業を続ける子どもたち。すごい集中力です。

真剣に作業に取り組む子どもたち

 

 

「ふじわらカメラマンのNOTE」と書かれた樹里さんのノート。取材した内容がとても丁寧にまとめられています。

友だちや家族を写した写真につけられキャプションには、ぐっと胸に迫る言葉も・・・

仮設住宅に来ていたプリクラ・トラックで写真を撮ったというチームBのメンバー。プリクラできらきらした写真を撮ることがとても楽しいとのこと。

13:30

写真発表

昼食を終えて、午後はいよいよプレゼンテーションの時間です。

まずは参加者一人ひとりの撮影した写真の中からジャコモが選んだベストセレクションが紹介されてゆきます。

【柚月さんの写真から】
みんなと同じものを撮っても面白くないからと、人と違うものを写そうとしていた柚月さん。 「ディテール(細部)を写しているのがとてもいいね」とジャコモさんのコメント。朝市では洋服の配布なども行なわれていたそうで、洋服を選ぶ女性たちの姿も写していました。ピエロの正体は東京からきたボランティアの男性。「何かできることがあれば」と、この土地に通い続けているそうです。
柚月さん「小さい子どもとかにも優しくて、頼まれたものを風船で作ってあげていました。(ピエロさんがいると)交流ができるからいいな、と思いました。皆が一致団結するまでにはいかないかもしれないけれど、若い人たちにはとてもいいなと思います」

朝市の開催されているスポーツアリーナは震災後避難所となっていたため、バドミントンをやっていた人たちも、震災後しばらくは練習場所を見つけることに苦労していたそうです。「普通の生活に戻ったようすが写されていていいね」とジャコモさん。
大野小学校の校庭の土。除染作業の後のようすの写真には、
「中村二中はこんなに多くない。放射能がいっぱいあったんだなと思った」と柚月さんが話すと、「除染して、とった土を上にのせたらしいんですけど、この土がこの先どうなるかはまだ決まってないです」と愛叶さん。
「学校に行ってこれをみると、どう思う?」というジャコモさんの質問に愛叶さんは、「前はこういうのがなかったのに急にできたので不思議だなあ、と思いました」と話していました。

【摩耶さんの写真から】
クリスマスのイルミネーション、小さな花・・・。「花がきれいだなと思って撮りました」というに「美的なものをとらえる目を持っているね」とジャコモさん。
朝市で魚を売っているおじいさん。売っていたのは北海道のイカ。(おでんやのおばさんを見て)「元気があるなあと思いました」と摩耶さん。 「写真をとられていると意識しないで、仕事をしている自然な姿を写している。こういう写真はいいね」とジャコモさん。

【陽さんの写真から】
植物を近づいて写した写真、おばあちゃんがテレビをみているところ、お料理をしているところなど。陽さんはワークショップ初日に「おじいちゃんやおばあちゃんの自然なところを写したい」と言っていましたがまさにそうした自然体の写真がたくさん写されています。棚に置かれた美術用の筆。「お父さんが絵をかく人だから?」「うん」お父さんも陽さんも、芸術がとても好きとのこと。「フォトグラファーの目で対象をみているね」とジャコモさん。

陽さんは、特別に許可をもらって、学校の教頭先生が校庭で放射能を測定しているところも撮影し、相馬を伝えるうえで大切な1枚になりました。

「仮設の温泉に来ている人たちの顔には、表情に想いが深く刻まれているね」とジャコモさん。プリクラのトラックや、中村神社を移した写真にも「同じ場所を写す時もたくさんフレームを変えて考えて写していたね」と話しました。

【樹里さんの写真から】
チームメンバー、家、弟、友達などいろいろな人をいろいろな角度から写した樹里さん。
「樹里さんの写真には、その人の個性がとても良く出ているね。いろいろな表情を引き出しているし、枠の切り取り方もすごく上手だね」とジャコモさん。

放射能を測定しにきた人をうつした写真について、樹里さんは、「(測定をしたからといって)すっきりとはしていないと思うけれど、知らないままでいるよりは知っている方が気持ちは軽いかなと思いました」と話しました。

【愛叶さんの写真から】
最近舗装されたばかりの地面・犬をなでる手・友達の妹・カーブミラーをうまく使って写した家の写真など、個性的な写真が並びました。 朝市のおばさん・バドミントンをしている人たち・除染の土で学校が埋もれてしまったように見える写真・車の中から写した壊れた家など、「よく写したね」とジャコモさん。

【李理さんの写真から】
神社や遊ぶいとこをうつした写真を見ながらジャコモさんは、
「遊んでいる子どもたちを写したことで写真に場の雰囲気が上手に写されているね。李理さんは構図やライン、奥行きに丁寧に気を使って対象を選んで撮っていることが分かるよ」と話しました。
李理さんのカメラのデータには100枚以上も自宅で飼っている猫の写真が入っていました。大好きな猫たちや植物のクロースアップにも構図の上手な写真がたくさんありました。
おじいちゃんが子どもたちの取材にリラックスした気持ち答えてくれている写真では、「子どもと同じようにお年寄りもカメラの前では自然に振る舞ってくれるものです。そういう自然の姿が写っている写真はいいですね」とジャコモさん。

【乃愛さんの写真から】
仲間たち・美しい植物・コンクリートから生えて力強く花を咲かせた野菊。赤ちゃん(弟)・お父さん・お母さんなどの写真が続きます。
「とても小さくて細かいところも写されているね。家族を写した、やわらかな感じもとてもいいですね」
また、「乃愛さんはポートレートをとるのが本当にとても上手だね。いろいろな角度から何枚も写しているから、どんな風に話していたのかが伝わってくるね」とジャコモさん。子どもが大好きといっていた乃愛さん。朝市でも小さな子どもをみつけて「撮ってもいいかな?」と、少し恥ずかしがりながらも撮影にチャレンジしていました。

みんなの写真を見終えて佐藤さんは、「普段の生活を写す事から感じていることが見えてきたと思います。地元の人たちと打ち解けながら撮影するようなところがよかったですね」と話してくださいました。

いよいよ投票

ベスト写真などの賞を決める投票にあたり、まず一人ひとりが自分が考えるベスト写真、面白い写真、可愛い写真を選びました。その候補リストの中から、皆で投票で受賞作品を決めていきます。

【かわいい写真で賞】

愛叶さんの、犬の耳だけが写っている写真が受賞しました。

【面白い写真で賞】

陽さんの写した、通訳の「こまこさん(小松さん)」の写真が選ばれました。

【ベストチーム賞】

会場にいる全員で投票したチーム賞。本当に選ぶことが難しく「AとB両方」という投票もありました。結果は、13対17でチームBが勝ちました。

【ベスト写真賞】

乃愛さんの写した校庭のタイヤの写真が受賞。

【ベストフォトグラファー賞】

李理さんが受賞しました。

授賞式の後は、NHKで紹介された映像と、ジャコモさんが作成したスライドショーを観ました。テレビの番組にドキドキし、感動的に写されていく自分たちの写真に静かにくいいるように見入る子どもたち・・・。
本当に多くのことに触れた濃密な3日間。子どもたちの心にも何かが残っているようでした。

会場に来てくださった保護者の方からもコメントをいただきました。
ベストフォトグラファー賞に選ばれた李理さんのお母さんは、びっくりしながらも一言思いをこめて「素敵でした」とコメントしてくださいました。 陽さんのお母さんは、「写真を撮ることを通じて、ものを見る目が変わって来たような気がします。そんな姿がずんずんと伝わってきました」と話しました。
福島の被災地の子どもたちのために数々の支援活動を企画・実施してきた福島県ユニセフ協会の菅田さんは「私も写真に関心があるのですが、こんなにいい写真、見る者に訴える力が出ているのはすごいと感心しました」と伝えました。

そして、ジャコモさんから、今回のワークショップの実現に向けてご尽力いただいたた佐藤さんにお礼の言葉が伝えられると、佐藤さんは「震災が起こった冬には、もう春や夏は来ないように思っていましたが、皆さんの写真には季節を感じさせるものがたくさんありました。この企画を実施してくれたユニセフ、ソニー、ジャコモさん、そして主役となって参加してくれた子どもたち、保護者の方々に心から感謝します」と話してくださいました。

限られた時間の中でワークショップがスムーズに進められたのは佐藤さんの尽力があってこそのことでした。娘さんである陽さんの話によると、佐藤さんは震災後の3週間で8キロもやせられたとか。
「震災前、福島には本当の空がある、と言われていました。けれども原発の事件があって、そういうキャッチフレーズのようなものも全部、見直さなくてはならなくなってしまいました」
ワークショップ3日目終了後。星の輝く夜空を眺めながら、佐藤さんが話してくれた言葉です。高村光太郎の「智恵子抄」で「安達太良山(あだたらやま)の上にある空が本当の空だ」と記されたことで知られている福島の空の美しさ。「本当の空はいつ取り戻せるのか」
複雑な状況を抱えた福島。現在進行形の課題を前に、福島では他のどの土地よりも明確に「子どもたちこそが主役」という言葉を多く耳にしたように思います。
被災地の方々の子どもたちへの想い、その眼差しの温かさをひしひしと感じた3日間でもありました。

最後にジャコモさんから、子どもたちへのメッセージ付きの集合写真がプレゼントとして贈られました。
「世界のどこに行っても、気持ちは皆さんと共にあります」。ジャコモさんにとって初の日本訪問。3回ものワークショップを連続して実施することも初めてのことでした。
子どもたち一人ひとりの名前を覚え、その個性をうまく引き出し、相当数の写真からよいものを選ぶ・・・。ジャコモさん自身も、期間中、眠る時間もないほどの作業をこなしてきました。

「皆の気持ちを世界に届ける」という約束を叶えるために。
子どもたちの想いを乗せて、EYE SEE TOHOKU写真展が各地で開催されてゆきます。

はじめに

1日目

2日目

3日目

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