EYE SEE TOHOKU in 岩手県大槌町
1日目 11月5日(土)
9:00
ワークショップ、スタート:「写真を通じて伝えるということ」
最初に今回のワークショップの講師を務めるイタリア人のフォトグラファー、ジャコモ・ピロッツィさんから、自分が写真家として21年間ユニセフと一緒に活動をしながら、世界の子どもたちがどんな状況の中でどのように暮らしているか、どんな問題を抱えているのかを知ってもらうために写真を撮り続けているということが紹介されました。ジャコモさんは自然災害や紛争、貧困など厳しい状況下にある子どもたちと一緒に写真ワークショップを各地で開いています。
「写真は、子どもたちの生の声を表現することができます。子どもたちの視点で写した写真から、子どもたちにも言いたいことがあるのだということを発信することが大切だと思っています。今回皆さんに撮ってもらう写真も、ニューヨークのユニセフ本部で展示することができたらと思っています」とジャコモが話すと、子どもたちは真剣に耳を傾けていました。
「良い写真」とは?
「ところで良い写真とはどういう写真だろうか?どういう写真を見て、いい写真だと思う?」
ジャコモさんは子どもたちに投げかけます。子どもたちの答えは
「撮った人の気持ちが現れていること」
「自然な感じが写っていること」
「みんなが笑っていること」。
ジャコモ 「どうしてみんなが笑っていることが大切なの?」
子ども 「笑うと明るい気持ちになるから」
ジャコモ 「もし、悲しい写真だったらどうなる?」
子ども 「・・・」
ジャコモさん 「笑っている写真からも泣いている写真からも気持ちが伝わってくるよね。大切なのは、写真が心に触れてくることだ。写真を通して気持ちが伝わる写真は、良い写真だね」
写真のテクニックを学ぶ
「題材の選択。観光客のようにシャッターを押すのではなく、撮りたいものは何か、何故それを選ぶのかを考えて撮ることが大切だよ。構図と光。調和と形。光の量と方向を考えること」
ジャコモさんはこれまで世界の各地で撮ってきた写真を見せながら、良い写真を撮るための技術的なポイントを説明しました。
「(大切なものを選択することを)私たちの目は自動的に行なっていますが、カメラの場合は私たち人間が調整を行なうのです」
「これはタジキスタンで撮った写真です。フラッシュを使わずに、窓からの光を使って写しました。この写真は家族の写真ですがお父さんがいません。“父親の不在”を伝えています。タジキスタンは経済状況が悪く、職を求めて他国に出稼ぎにでる人が多いですがこの家ではおじいちゃんがお父さんの代わりに家族の中心的役割を果たしているのです。」
ジャコモさんは、世界地図を指差しながら、さまざまな国の写真を何枚も紹介します。
ここに写っているのはエイズになって亡くなりかけている女性です。この写真ではこの女性が誰かと手を取り合っているところを写しました。手によって「つながり」があることが分かり、女性には支援してくれる人がいるということを伝えることもできます。アフリカ南部のボツワナでは、人口の28%以上の人がエイズにかかっていると言われています。
「ルーマニアでは病院での輸血に使われた血液が感染源となり1,700人もの子どもがHIVに感染し、感染した子どものうちわずか300人しか生き残っていません。この写真は子どもを失った夫婦を写したものです」
「アフリカのジブチでは干ばつによる水不足が問題となっています。井戸の底まで水をくみにきた少女を写しました。この写真では少女を井戸の丸い形が分かるように上から写すことによって、図形を効果的に使い奥行きを感じさせるようにしています」
「スーダンからの難民の女性たちが、自分たちには食べるものも水もないということをいうことを強く訴えているようすをあらわしました」
「写真を撮るときには、面倒くさがらずに対象にぐっと近づいてください。いい写真家になるためには、ためらったりはずかしがったりしていてだめです。近づく勇気を持つことが必要です。これはパキスタンの道端で靴磨きをする少年の写真です。大槌にはこんな風に仕事をしている子どもはいますか?パキスタンはとても貧しい国で、たくさんの子どもが街で働いています」
「西アフリカのサハル地域にある国、ニジェールでは公共交通機関が発達していないため、一台の車に大勢が乗り込んで移動しています。とても危険ですが、他に移動の方法がありません。この写真では見せたいものをシンプルに伝えるために、写真から邪魔なものを除いて、背景をシンプルにしました」
「アフリカ・レソトの子どもたちは、家畜の面倒をみるために学校にも行かずに山奥で暮らしいます。」
「フィジーの近くにあるバタワトラ諸島の写真です。ここにはユニセフの支援するストリートチルドレンのためのセンターがあります」
「ルワンダの難民キャンプで食料を求めて並んでいる写真です。この写真では強い表情を持った子どもを一人選んでクローズアップで伝えることで、他の多くの子どもたちの思いを象徴的に表現しました。ちょうど小説家が一人の人物の気持を表現することを選んでみんなの気持ちを伝えるように」
「ルワンダで、地雷の犠牲になった子どもたちを写しました。車いすに座ったネガティブなイメージではなく、足を失っても遊びたいと思っているというポジティブなイメージを伝えたいと思いました」
* * *
レンズの種類の違いについても説明がありました。
広角レンズは多くの人を均等に写し風景や建物を写すことに適しています。
50ミリレンズは見たままの大きさを映し出し、客観的に写します。今回の撮影では広角レンズと50ミリレンズを使います。
「部屋の中で写真を撮る時には、対象が動いていないこと、カメラが固定されていることを確認してください。そうすれば、自然の光を使っていい写真を撮ることができます。外で撮る場合は、ダイナミックな動きを静止させるように撮ることができるので動いてもらうのもよいかもしれません」
「逆光は普通あまり使いませんが、被写体が誰かはっきりさせたくない時や象徴的なシーンを撮るときなどには有効です」
「病気の子どもや、傷を負った子ども兵の写真です。どちらも顔を見せずに身体だけを見せることによって強いメッセージを込めました」
この写真を見て、ジャコモは子どもたちとこんなやりとりをしました。
ジャコモ 「もしも自分たちが撮る側だったら、どのくらいまで写してもよいと思いますか?残酷な写真は見せない方がいいでしょうか?」
咲絢さん 「写真を見て嫌に思う人もいるかもしれないけれど、見せた方がいいと思います。世界には豊かじゃない、病気な子どももいっぱいいると伝えたいです」
ジャコモ 「こういう写真ばかりをずっと見せ続けることについてはどうですか?」
咲絢さん「ずっと見続けるのはちょっと・・・。そういう印象だけがついてしまうと思います」
ジャコモ 「そうですね。どんなひどい状況下でも、何かできることはある。希望やポジティブな面を見せることも大切です」
* * *
「男の子が一日に食べるとうもろこしの量。そして、寄り添う子どもたちの手。写真に、人間の匂いを感じさせる要素を盛り込むことも大切です」
「2005年、パキスタンで大地震が起こり、11万人以上の人が亡くなりました。この写真は家族全員を失った少年を写したものです。意識を取り戻した時、彼は彼以外の全員が亡くなったことを知ることになりました」
ロシアのエイズ孤児院での生活のワンシーン・カシミール地方の大地震で被災した少女たちが避難所で絵を描いている姿・内戦で爆撃された校舎に通うロシアの子どもたち・・・。どれも写真にも強いメッセージがこめられています。
ジャコモさんのお話が続きます。
「子どもたちはすばしこくて写すのが大変です。また、時間帯によっては光の調節が必要になることもあるので気をつけましょう」
「そして撮影する時には、どんな時にも被写体を尊敬することを忘れないでください。写真を撮る前に自分の名前を名乗って、了解を得た上で写真を撮らせてもらいましょう。」
「ワークショップの最後に、写真のキャプションをつけます。特に災害の現場などでは時間が経つにつれてどんどん状況が変わっていきます。写真を撮ったときは、いつ、どこで撮った写真なのかをきちんと記録することを忘れないでください。そして、だれがみても分かるように説明を添えてください。」
「一番重要なのは“なぜその写真を撮ったのか”理由を記すことです。見た人が写真を理解するために、ストーリーを伝えてください。
* * *
時間があれば2日ほどかけてじっくり行なわれるプレゼンテーションですが、半日の間に凝縮されて子どもたちはたくさんの情報と刺激を受け取りました。
13:00
チームごとの作戦会議:
午後はチームに分かれ、作戦会議からはじまりました。 「世界の人たちに、大槌や吉里吉里の何を伝えたいかを考えて話し合ってください。写真を撮るだけではなく、その背景にあるストーリーを伝えることが大切です。フォト・レポートを作成するつもりで、どんなテーマを伝えたいか、そのためにどこにいってどんな写真を撮るのか、じっくり話し合ってください」
【チームA】 佐野薫・港川咲絢・上山敦也 &高橋良太
チームAは大学生ボランティアの良太君がリード役となり、震災当日のこと、今何を感じているか、将来についてどのようなことを思っているかを聞きました。
咲絢さん「当日は家族がどこにいるのかわからなくてすごく心配でした。津波がきた後は現実じゃないような気持ちが強くて、夜は怖くて眠れなかったです。これから・・・どうなるのだろうという感じです。地震が起こった時には、学校の帰り道で薫ちゃんと長話をしていました。そろそろ帰ろうかという時に地震が起こりました。おばあちゃんや小学生の妹を迎えに行こうと思ったら海の方から変な音が聞こえてきて、下を見たら津波が押し寄せて来ていました。海の水が引いていくのがみえたので、やばいなと思っていました。壊れた建物とか、寂しいものも撮りたいけれど、海をバックにして、頑張っている人たちを写したいです。大変なことがあったけど今は明るく頑張っているよ、ということを伝えたいです」
薫さん「私は山の木とか、紅葉とか、草とか、きれいな風景を撮りたいです。紅葉ってきれいじゃないですか。そこにお年寄りを連れてきて、男の人も女の人も一緒にきれいに写っている写真が撮りたいです」。
チームのテーマとして敦也君が選んだ言葉は「起点」。今はこんなだけれど、今の大槌よりも更にいい大槌になるという気持ちを伝えたいと思います」。
【チームB】 佐野智則・外舘太一・釜石望鈴 &中村未希
チームBは、写したいものや行きたい場所についてそれぞれがポストイットに意見を書きだし、それをもとにチームで議論をしました。みんなが最初に選んだのは「海」。それから、「復興に向けて働く人たち」。どうやら具体的に撮りたい場所のイメージがすでに心にふくらんでいたようです。みんなが積極的に出し合った意見をまとめ、「震災」や「復興」、「希望」という言葉からチームのテーマを考えました。
14:30
発表タイム:
チームでの議論の後に、それぞれのチームから撮影プランの発表がありました。
最初はAチーム。
チームを代表して敦也君が、「起点」というテーマで、海や町、復興に向かう姿を撮りたいと発表すると、ジャコモから質問がありました。
ジャコモ「今、町は復興に向かっているの?」
敦也君「全員に当てはまることではないですが、今は少しずつ、前の暮らしに 戻りつつあるところもでてきています」
ジャコモ「復興のプロセスは人によって違うけれど、立ち直った人、立ち直ろ うとしている人、両方を見せようとしているの?」
敦也君「そうです」
ジャコモ「海や町の中を撮ろうとしているね。物理的に被害を受けたところを 撮ろうとしているの?人々については?話を聞いたりはするつもり?」
敦也君「頑張っている人たちにも、話を聞いてみたいです」
咲絢さん「だんだん生活が良くなりつつあるところもありますが、逆にまだ手も付いていないところがあるのだということを伝えたいです。家がなくなった人もいますし、仮設の期間が終わったらどうなるのだろうとか不安に思っている人もいるかもしれない・・・」
薫さん「紅葉がきれいだからそれを撮りたい。それからお年寄りも一緒に、きれいに撮りたいんですよ。津波の被害を受けた人のことも撮りたいです」。
チームBは佐野君から発表がありました。
「海や人の笑顔、仕事をしている人、町の中のようすを撮りたいです。場所は海、町、仮設の家。人の働いている施設にいって頑張っている人たちを撮りたいと思います。テーマは『東日本大震災3.11復興への希望の道』です」。
A・B両方のチームから海を写したいという声がありましたが、これについては佐野君から「お互い考えている海が違うと思う」という指摘がありました。
佐野君「Aチームは多分、海のきれいさみたいなもの。Bチームは破壊された防波堤とか瓦礫置き場とか、震災の現状を伝えたいと思っていると思います」
ジャコモ「震災の後、海と自分の関係性は変わった?」
佐野君「昔はもっときれいだった。今は目に見ても分かるくらい汚いです」
ジャコモ「海から感じるものが変わった?津波があって、今も怖い?」
佐野君「夏はみんな海で泳いだり、釣りをしたりしていました。震災の後はがらりと変わってしまって、泳ぐことも釣りもできなくなってしまった。多分みんな同じことを考えていると思います」
これを受けて、ジャコモさんから
「みんなの話を聞いて、みんなは海のことを友だちのように見ているけれど、今はそれが仲違いしているみたいに感じているように思いました。海を象徴的に写した写真を撮って、それにキャプションをつけることでメッセージを伝えるととてもよいと思います」とアドバイスがありました。
ボランティアの中村さんから補足で「チームBからは、震災前に海の近くで朝市をしていた漁師の奥さんたちが今は別の場所で仕事をしているので、その人たちが頑張って仕事をしている姿を写したいという声がありました。その近くに保育園もあるから、他の世代の人も写せるかもしれないと話しました」と説明がありました。
それに対してジャコモさんは「すぐそこにある仮設住宅では人々が集まってバーベキューをしていました。たとえ困難なことがあってもコミュニティーはひとつになるのです。人はつながり合っているのだということも、写真を通じて伝えられたらいいですね。皆さんが海を大きなテーマと考えていることについて美しいと思いました。皆さんが今、海から何を感じているのか。そこにキャプションをつけて紹介してください。世界の人たちに伝えることを意識して、写真を撮ってください」とアドバイスしました。
【撮影ポイントの確認】
- What happened?
何が起こったか。人々がどんな影響を受けたのかということ - Where are we now?
私たちは今どこにいるのか。仕事を始めた人。仮設で暮らす人たち。自分たちの今を示すリアリティーを示すこと - Where are we going?
復興に向けた努力がどのように行なわれようとしているのか
ソニーからカメラの提供:
最後にソニー株式会社CSR部の冨田さん、杉村さんからこのプロジェクトで使うカメラが配布されました。
冨田さんから「EYE SEEプロジェクトはこれまで世界8カ国で開催されていて、ソニーもそれを支援してきました。皆さんも岩手県を代表していい写真を撮り、世界に紹介するよう頑張ってください」というメッセージが伝えられました。
いよいよ、カメラを手に:
教室でのプログラムが終わると、子どもたちは早速外に出て、カメラを使って撮影を始めました。お互いを撮り合ったり、映画マトリックスのポーズを真似たポーズで写真を撮ってみたり。初めて手にするデジタル一眼カメラを楽しんでいるようです。今日一日をかけて学んだたくさんのことをどのように明日の撮影に活かしていくか。期待の高まる一日目の終了となりました。