すべての子どもたちは、人生において公平な機会を得る権利を持っています。
しかし世界では、何百万人もの子どもたちが、世代を超えて継承される格差から抜け出せずにいます。それはつまり、子どもたちの未来、延いては社会の未来が危機に晒されているということなのです。

ユニセフの基幹報告書『世界子供白書2016』は、「公平性」がテーマです。

なぜ今、公平性?

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子どもの権利条約が採択された1989年以降、世界の子どもたちを取り巻く状況は大きな前進を遂げてきました。

1990 年以降、世界の5歳未満児死亡率は半分以下となり、極度の貧困に苦しむ人の数も半数程度に減少しています。さらには、約 26 億人が改善された飲み水の水源にアクセスできるようになりました。初等教育学齢期の子どもたちの 90% 以上が小学校に就学しています。

こうした成果はまさに歴史的な進歩であり、特に、ミレニアム開発目標(MDGs)が掲げられた 2000 年から 2015 年までのように、世界が具体的な目標に向けて努力した場合には、どれほどの進歩が可能かということを示しています。

しかし、MDGs で得られた前進は、必ずしも公平性の拡大につながってはいません。平均値で見ると様々な前進が見られたものの、その陰には、何百万人もの子どもたちが不利な立場に置かれ、困難と直面しているのです。下記はそのことを示すデータの一例です。

  • 2015 年、推定590 万人の5歳未満の子どもたちの大半が、容易かつ安価で予防・治療が可能な病気によって、命を落とした。
  • 世界の最も貧しい層の半数近くが子どもであり、さらに多くの子どもたちが多面的な貧困を経験している。
  • 数百万人以上の子どもたちが、貧困であること、被差別集団の出身であること、女の子であること、紛争や慢性的な危機にある国で暮らしていることが原因で、教育を受けられずにいる。

MDGsに代わる国際社会の共通目標として、2015年9月に国連サミットで採択された「持続可能な開発目標(SDGs)」は、格差をなくし、公平性を達成する(=「誰も、置き去りにしない」)ことを重要な柱にしています。

公平性は緊急課題

では、世界が最も厳しい状況に置かれる子どもたちの窮状に関心を向けず、現在の傾向を食い止めなかったら、どうなるのでしょうか?ユニセフは、不利な立場にある子どもたちへ今、重点的に投資しなければ、SDGsの達成年である2030年までに、次のような状況が引き起こされると指摘しています。

  • 1億6,700万人の子どもたちが極度の貧困下(1日1.90米ドル未満)で生活し、その10人に9人はサハラ以南のアフリカ地域の子どもたちが占める
  • 7億5,000万人の女性が児童婚をする。
  • 6,900万人の5歳未満の子どもたちが、主に予防可能な原因によって亡くなる。そしてサハラ以南のアフリカの子どもたちが5歳未満で死亡する可能性は、高所得国の子どもたちと比べて10倍にのぼる
  • 初等学校就学年齢にありながら学校に通うことができない子どもたちが6,000万人以上となり、このうち半数以上が、サハラ以南のアフリカの子どもたち。

ユニセフ事務局長のアンソニー・レークは、「世界子供白書2016」で次のように述べています。

「何百万人もの子どもたちの人生に公平な機会を提供できないということは、彼ら自身の将来を危うくするだけでなく、世代を超えて繰り返される不利な立場の連鎖の継続に油を注ぐことになります。それは子どもたちの社会の将来を危うくするのです。こうした子どもたちに今投資をするのか、あるいは、私たちの世界がより不公平で分断されたままにしておくのかの選択は、私たちの手にあるのです」

持続可能な開発目標(SDGs)

特設ページ

公平性への道すじ

ユニセフの使命は、「子どもの権利条約」に則して、いかなる場合も、最も不利な状況に置かれた子どもや、最も窮乏している国への支援を優先することです。最も貧しい家庭の子どもであれ、最も不利な状況におかれている民族の子どもであれ、取り残された子どもたちにまず最大の力を注ぐことは、ユニセフの事業の要です。

「世界子供白書2016」では、公平性への道すじとして、ユニセフが過去25年間、そして現在も学び続けている経験や知見の中から、その達成に必要な5つの主な取り組みを取り上げています。

1. 情報 — 置き去りにされている人々についてのデータを増やすこと。
世界のどの地域で、誰が取り残されているのか。最も支援を必要としている人々に対して、支援が届けられているのか、あるいは届けられていないのか等、現状を把握し、対策を講じるためには、データが不可欠です。世界中のデータを、所得、ジェンダー、民族、言語、地域などの要素に沿って分析することで、最も不利な立場に置かれた子どもたちを特定でき、それらのデータを基に、政府および開発に携わる機関や団体は、よりよい機会拡大につながるプログラムに的を絞り、実施することができます。
2. 統合 − さまざまな分野における取り組みを統合すること。
子どもたちの命や生活に関わる保健や教育、その他多くの分野における支援の取り組みを統合することで、各セクターが個別で取り組むよりも、よりよい成果が期待できます。例えば、バングラデシュで行われている学校給食プログラムは、子どもたちの栄養面だけでなく、学習や認知能力の向上にも貢献しています。
3. イノベーション − 最も疎外されている子どもや家族のための支援を加速させ、変化を促すような新しい方法を取り入れること。
イノベーションの事例は、HIVの早期診断のための検査血液サンプルのドローン輸送のように、新たなテクノロジーを活用したものから、洪水が起こりやすい地域におけるボートの学校など、地域における工夫に富んだ解決策、新たな種類の資金調達のパートナーシップまで様々なものがあります。
4. 投資 − 最も不利な立場にある子どもたちに投資し、他の新たな資金調達の方法を模索すること。
予算の決定は、最も貧しく、最も不利な立場にある子どもやその家族への影響に、細心の注意を払わなければなりません。最も不利な立場に置かれた子どもたちに投資することで、その子どもたちが、より有利なバックグラウンドを持つ子どもたちに対しても、公平な立場で渡り合える機会を得られます。官民のパートナーシップもまた、開発のための予算や、ワクチン、蚊帳、栄養補助品などの必要な物資を、最も疎外された子どもたちやコミュニティに輸送するための仕組みを作ることができます。
5. 関与・参加 − 政府、国際機関、市民社会がコミュニティと密に連携することで、共通の課題に取り組むこと。
永続的な変化はトップダウンではもたらされません。子どもたちや若者自身を含む、人々による社会運動、コミュニティの参加よってもたらされるのです。共通の課題とは、気候変動による影響への対策、極度の貧困にある子どもたちへの支援、女の子と女性の権利の推進、そして、すべての人々の機会の拡大です。

不利な状況下の子どもたちに対して適切な投資を行えば、その成長とともに前進の好循環が促進されます。そしてこの世代は、その次の世代の子どもたちにさらに多くの機会を手渡すことができ、どのような状況に生まれつこうと、生き、学び、成長するよりよい可能性を与えることができるのです。

その反対もありえます。社会から疎外されたグループや貧困家庭の子ども、あるいはその他の困難な状況下に生まれた子どもは、成功への公平な機会を手に人生をスタートさせることができません。成長するにつれ、ジェンダーや民族による差別といったその他の排斥要因によって、自分の可能性を十分に発揮することが妨げられます。こうしたあらゆる要因によって、子どもたちが犯罪や暴力、有害な行動に巻き込まれるリスクが高まるのです。

The choice is ours.  —その選択は、私たちにあります。

私たちは子どもたちのために、この一世代の間に、不平等の機会を大幅に減らすことができます。今こそ、より公平な世界へ向けての私たちの進路を決める時なのです。

すべての子どもに、
公平な機会を

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