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アフリカ大陸最南端の国、南アフリカ。
その東南部に位置するクワズール・ナタール州の北部地域では、2005年後半から1年足らずの間に、
抗レトロウィルスの薬治療を受ける乳児の数が4倍以上に増えました。
同州は南アフリカ全9州の中で成人のHIV有病率がもっとも高い州。
治療を受ける赤ちゃんがこれほどまで急激に増えたのは、
HIVに感染する子どもが劇的に増えてしまったからなのでしょうか?
いいえ、決してそんなわけではありません。HIV母子感染を早期に発見する検査方法が新たに導入されたことにより、
治療を必要とする赤ちゃんを以前に比べて格段に早く見つけることができるようになったからなのです。
© UNICEF/Susanna Mullard
クワズール・ナタール州のムセレニ病院小児病棟 にて、ビクトール・フレッドランド医師
© UNICEF/HQ06-1139/Sarah Crowe
PCR法によるHIV検査のために、赤ちゃんのかかとから血液を採取。ムセレニ病院にて。
これまで、新生児がHIVに感染しているかどうかは生後18ヶ月が経過しないと診断することができませんでした。しかし、乾燥血液サンプルを使った核心的なHIV検査方法が2005年後半に導入され、以前は遠隔地の農村部に住んでいるため検査を受けることのできなかった乳児も、検査を受けられるようになり、感染が判明した子どもが治療を受けられるようになったのです。PCR法(ポリメラーゼ連鎖反応法)と呼ばれるこの検査方法のおかげで、検査・治療を受ける乳児の数はこの1年間で100人から500人にまで増えました。
この検査方法では、赤ちゃんの血液を数的検査用紙の上に垂らします。血液サンプルの温度を一定に保つための氷も保冷機材もいりません。乾燥血液サンプルは数マイル離れた検査所へ送り届けられ、遺伝子検査が行われます。理論的には、分析を開始してから16時間以内に結果が判明します。検査用紙は溶解処理され、サンプルを再検査することも可能です。
「持ち運びが簡単にできて、これほど良いものはありません。特別な運搬手段は何もいらず、採取した血液を検査施設に何時間以内に届けなければならない、ということもないのです。採取が正しい方法で行われさえすればいいのですから。従来の方法では、採取した血液を遠心機にかけて処理し、温度を一定に保つため氷に乗せて運ばなければなりませんでした。取り扱いが格段に楽になったのです」こう語るのはクワズール・ナタール州北部のムセレニ病院の医師、ビクトール・フレッドランド氏です。
「これまでは、生後18ヶ月未満の乳児に治療を施すことができませんでした。HIVに感染しているかどうか、産まれてから15〜18ヶ月経たないと検査できなかったからです。今では生後3〜4ヶ月で感染しているかどうかがわかります。これまでのように、HIV陽性のお母さんから子どもへ母子感染が起きたかどうか、不安な日々を長い間過ごす必要はないのです。子どもに治療を受けさせるために、PCR法を使った母子感染の早期診断を推し進めています。今では、以前に比べて4〜5倍の子どもたちがHIV/エイズの治療を受けています」1日でも早く治療を始めることによって、子どもは単に命をおとさずにすむだけでなく、健やかに成長することができるようになります。この地域では現在、HIVとともに生きる人々のうちおよそ30%が治療を受けていますが、治療を受けている人々のうち、子どもが占める割合は約10人にひとりに過ぎません。
© UNICEF South Africa/Sarah Crowe
おばあさんの膝の上に座るワンディール。
ワンディール・ズィカリちゃんはそんな子どもたちの一人。彼女は今6歳ですが、3歳くらいにしか見えません。お母さんは彼女がまだよちよち歩きのころにエイズで亡くなりました。いま彼女の命を支えているのは、年上のきょうだいと体の弱いおばあさん、そして抗レトロウィルス薬です。
ワンディールの体はこの数年間少しずつ弱り続け、歩くことも話すこともできませんでした。でも2005年暮れに検査を受け、抗レトロウィルス薬を飲むようになってから、健康を回復し始めたのです。
おばあさんは、抗レトロウィルス薬治療を受けるようになってからの目覚ましい変化を目の当たりにしてきました。「病院では薬をくれて、その与え方も教えてくれました。
治療をすれば孫は別人のように元気になると病院の先生たちは言っていましたが、本当にそのとおりになったんです。自分で立って歩けるようになり、言葉もちゃんと話せるようになりました。体調も良くなって本当にほっとしています。
© UNICEF South Africa/Sarah Crowe
おばあさんと仲良く歩くワンディール。話すことも立つこともできなかったワンディールは、治療のおかげで目覚しい回復を遂げた。
「南アフリカでは、母子感染予防サービスの普及率が約80%に達していますが、提供されている抗レトロウィルス薬が多くの場合1種類に限られているため、いまだに母子感染の例は後を絶たず、年間7万人を超える赤ちゃんがお母さんからHIVに感染しています。3種類の抗レトロウィルス薬を併用する多剤併用療法を導入することによって、欧米の先進国並みに母子感染を抑えることができます。また、PCR法による検査によってHIV感染の早期診断が可能になりますが、まだコストが高く専門施設も必要なため、今後の普及が課題となっています。
ユニセフは、ワンディールのような子どもたちが1日も早く抗レトロウィルス薬治療を受けられるよう、「子どもとエイズ」世界キャンペーンにおいて、子どものHIV検査とエイズ治療を優先課題のひとつに掲げ、必要機材の購入や研修支援を通じてその普及を目指しています。
ワンディールがPCR法による検査をもっと早く受けることができていたら、今頃はもっと健やかな成長を遂げていたことでしょう。それでも、ワンディールはいま元気いっぱいです。おばあさんと支援サークルに支えられ、閉ざされかけていたワンディールの未来は明るく輝いています。これから誕生する新しい命と同じように。