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日本ユニセフ協会

報告会レポート

開催報告
「子どもの権利条約フォーラム2023 in とよた」分科会
広めよう!自治体による『子どもにやさしいまちづくり』の実践 2023年11月26日開催

2024年1月9日東京

11月25日・26日、「子どもの権利条約フォーラム2023 in とよた」が開催されました。

「子どもの権利条約フォーラム」は、子どもの権利について関心を寄せる人々の意見交換、出会いや交流の場として始まり、毎年世界子どもの日前後に開催されています。31回目となる今年は、ユニセフ日本型CFCI候補自治体である豊田市で開催され、日本ユニセフ協会も本フォーラムを後援、豊田市と共催で分科会を開催しました。

「知って♪感じて♪こどものけんり~『しってる』から『〇〇』へ~」というテーマで開催された今回のフォーラムには、2日間で子どもとおとなあわせて、のべ2,000人以上の参加がありました。

■ 子どもの権利を知り学ぶ ~子どもの人権が守られる社会のための第一歩

1日目は全体会として、日本ユニセフ協会の理事でもあり、国連子どもの権利委員会の大谷美紀子委員による基調講演や、全国の子どもたちの活動紹介、子ども・若者によるパネルディスカッションなどが行われました。

基調講演:
国連子どもの権利委員会 大谷 美紀子 委員(日本ユニセフ協会理事)

Ⓒ日本ユニセフ協会

基調講演では、子どもの権利条約第29条に、教育は「人権を尊重することを育成するものであること」や「人格や才能を最大限に発達させるものであること」が明記されていることへの言及と共に、子どもが権利を知ることの重要性が伝えられました。

そして子どもが、学校でも、家庭でも、地域でも、生活するすべての場で一貫したメッセージを受け取ることが大切とし、子どももおとなも権利を知り学ぶことが、人権が守られる社会への変革力をもっていると話しました。

加えて、権利を使うことの大切さに触れ、例えば自分の意見をもって言ってみることさえ日本では難しいが、それも子どもがもっている権利であることを伝えました。

最後に、貧困や戦争・紛争、気候変動・環境問題、感染症、AIの発達など、これからの子どもが生きていく世界にはたくさんの課題があって、みんなで解決策を考えていかなければならない。責任はおとなたちにあるが、子どもたちをパートナーとして認めていくことが大切。子どもたちが意見を言いやすい環境を作っていけるか、どうやって聴くことができるか、子どもたちの想像力・創造力をどこまで引き出せるか、おとなの努力が求められる。という力強いメッセージで講演を締めくくりました。

パネルディスカッション

パネルディスカッショには、中学1年生から大学3年生までの子ども・若者が、大谷さんと一緒に登壇しました。

Ⓒ日本ユニセフ協会

子ども・若者からは、自分たちの意思が介入しない学校のルールへの不満や、コロナ禍でまったく意見も聞かれないまま一斉休校になったときの戸惑い、意見が聞かれたにもかかわらず文化祭が中止になって落胆した気持ちなどが語られました。また、意見を表明する人がいなかったために機能しなかった中学校の意見箱の話や、子どもの権利条約を知っていたら意見を言ってもいいんだと思えたし、安心できたと思うなど、「子どもの権利」を知ることへの前向きな発言がありました。

子どもたちの発言を受けて大谷さんは、意見表明権というのは、全てのことを子どもが決められるということではないとしたうえで、大事なことは、年齢や成熟度に従って子どもの意見を尊重できること、子どもにとって何がいいかという視点で考えられること、子どもの希望と反する判断をするときに、きちんと説明することが大切であると話しました。

そして最後に、18歳になると「おとな」になり決定する側になる、でもこの間まで子どもだった立場で、みなさんの経験を次の世代の子どもたちにも生かしてあげてほしい。とメッセージを送りました。

■ 広めよう!自治体による「子どもにやさしいまちづくり」の実践

翌日は午前、午後、合わせて37の分科会が開催され、日本ユニセフ協会も、豊田市と共催で、分科会「広めよう!子どもにやさしいまちづくりの実践」を開催しました。

基調講演:
日本ユニセフ協会CFCI委員会 木下 勇 委員長

Ⓒ日本ユニセフ協会
豊田市子どもの権利擁護委員会 石井拓児委員(左)と

日本ユニセフ協会CFCI委員会 木下勇委員長(右)

まず基調講演として、日本ユニセフ協会CFCI委員会の木下勇委員長が、子どもを取り巻く様々な課題と、日本で子どもの権利に対する理解がなかなか進まない状況に触れ、世界でCFCIが進められてきた背景や、子どもの権利を自治体で実現しようとするCFCIの役割について述べました。

そして、現在約40カ国でCFCIが展開されていることや、日本でも東日本大震災やSDGsへの取り組みを背景に準備・検証作業が始められ、2021年に正式に開始したことなどが話され、ヨーロッパを中心とした海外の事例や、現在日本で取り組まれている5つの自治体の事例を紹介しました。

また、青少年に関する行政サービスの8割以上が、NPOもしくはNPOとの共同で実施されているドイツのある自治体の事例に触れつつ、まちづくりが、行政だけでなく、多様な担い手によって行われることの重要性を指摘しました。

「子どもの意見を聴いて推進する」子どもにやさしいまちづくり
町田市子ども生活部 児童青少年課 浅井 泰博 係長

Ⓒ日本ユニセフ協会
町田市子ども生活部 児童青少年課 浅井泰博係長

続いて、町田市子ども生活部 児童青少年課の浅井泰博係長より、町田市でCFCIに取り組み始めた経緯や子ども参加や居場所づくりなどの具体的な取り組みが話されました。特に、CFCIの日本での導入に際し検証作業から関わった自治体の一つとして、理念的で抽象的だったユニセフの子どもにやさしいまちのチェックリストを、市の事業単位まで落としこんで整理し、レーダーチャートで確認できるようにしたことや、それによって市として取り組めていることや足りない部分を視覚化し、改善につなげていることなどが紹介されました。

子どもの権利に関する取組豊田市子ども条例
豊田市こども・若者部 こども・若者政策課 宇佐美 由紀 課長

Ⓒ日本ユニセフ協会
豊田市こども・若者部 こども・若者政策課

宇佐美由紀課長

次に、豊田市こども・若者部 こども・若者政策課の宇佐美由紀課長から、2007年に「豊田市子ども条例」が制定された経緯やその内容、そして現在行われているCFCI実践自治体にむけた取り組みなどが話されました。特に、子ども条例に明確に子どもの権利について書かれていること、条例策定の当初から子ども委員からの意見を聴き、子どもと一緒に作った条例に基づき、子ども会議の開催や子どもの権利学習プログラムの開発と実施など、様々な取り組みを進めてきたことが紹介されました。そのうえで、CFCIに取り組むことで足りない部分を可視化し、全庁共有や市民団体との連携につなげていきたいことが話されました。

生き心地のよいまちへ ~フリースペースK 場づくり・場の提供を通じて~
フリースペースK 釘宮 順子 代表

Ⓒ日本ユニセフ協会
フリースペースK 釘宮順子代表

最後に、豊田市でフリースペースを運営され、長年市民活動に携わってきた、フリースペースKの釘宮順子代表から、ご自身の経験と子どもや親子の状況について話されました。ご自身が県外から豊田市に来て子育てをした経験から、助け合える場所、個人として認められる場所を作りたいと自宅を開放して活動を開始したことや、押し付けにならないよう「面白い」を大切にして運営してきたことなどが紹介されました。そして、まちづくりにおいて、人の息使いが感じられること、「助けて」と言えることが大切であるとし、様々な人がゆるやかにつながって、生き心地のよいまちづくりをしていきたいと話しました。

パネルディスカッション

パネルディスカッションでは、本フォーラムの実行委員長である、名古屋大学大学院の石井拓児教授の進行で、子ども条例を制定しそれに基づいて取り組みを進めている豊田市と、具体的な取り組みを進めてきたうえで現在条例の策定を進めている町田市との違いに焦点を当てながら議論が進みました。

子ども条例と子どもにやさしいまちづくり

Ⓒ日本ユニセフ協会
分科会には、会場36名、オンライン13名、登壇者・スタッフあわせて約60名での開催となりました。

まず町田市では、以前から子ども憲章を理念としてもっていたものの、これまでは既存の行政課題に基づいて施策をうってきたこと、しかし改めて、子どもの権利の観点で見直す必要があるという意見や、町田の行政サービスを他の自治体と比較するなど大きな視点で見たり、他と情報共有しながら進めていったりするのがいいのではないかというところから、ユニセフCFCIの検証作業部会に参加したことが説明されました。

子ども条例については、理念条例の有効性を疑問視する声も聞いていたが、今ならCFCIに基づいて実効性を担保していけるのではないかと考えたこと、条例を策定することで庁内外にムーブメントを起こしていけるのではないかという総合的な判断の下、現在「(仮称)子どもにやさしいまち条例」(案)の策定が進んでいることなどが説明されました。

一方豊田市では、「豊田市子ども条例」を、子どもの声を聴きながら子どもと一緒に作った経緯として、条例検討部会の委員からの熱心な働きかけがあったことに触れ、今も子ども会議では子ども委員から鋭い意見が出てきて、まちづくりにとっても重要なメッセージとなっていることが紹介されました。一方で、条例が制定されて15年が経ち、当時掲げた「子どもにやさしいまち」になっているか、どこが足りないのかを確認し、庁内でも共有したいということと、国際基準を用いて子どもの最善の利益を追求していきたいということ、そして、同じように子どものことを一生懸命考えて取り組む先進自治体との情報交換ができることに魅力を感じ、現在CFCIに向けて取り組み始めていることが説明されました。

これを受けて釘宮さんは、豊田市は色々なことを先進的に進め、様々なことに取り組んでいるが、それがどれだけ浸透しているかも考えなければならないと指摘。しくみを本当の意味で生かすためには多様な人たちが関わって、それぞれの場所で動いていけることが大切なことだと述べました。

ツールの活用と、地域との連携

Ⓒ日本ユニセフ協会

また木下教授は、町田市がチェックシートを整理してレーダーチャートで見られるようにしたことに触れ、主幹部署だけでなく他の部署にも共有できるツールであり、弱い部分を把握しながら改善を加えていくことで「子どもにやさしいまち」に近づいていくことができるとコメントしました。また、今回豊田市でこのフォーラムが開かれたことを評価し、今後も毎年このような機会をもって、子どもや市民とも共有しながら改善や計画につなげていってほしいと話しました。

さらに、今後についての問いに対して、町田市の浅井さんは、現在チェックシートを使い、毎年改善を重ねながらCFCIに取り組んでいるが、思い切ってテコ入れをしないと動かない部分も見えてきていると課題を指摘。改善や検討を重ね、引き続きCFCIに取り組みながら「子どもにやさしいまち」を目指していきたい、と話しました。

一方豊田市の宇佐美さんは、今回「子どもの権利条約フォーラムを開くことができ、市民団体とのつながりがつくれたことは財産だと話し、現在作成中の第4次子ども総合計画に触れ、CFCIという国際的な基準をもちながら、行政だけでなく市民とも連携した施策を推進していきたいと話しました。

釘宮さんは、10代の子どもの死因の1位が自殺であることに触れ、本来子どもは生きる方向にあるはずであると訴え、普段接する親世代も追い詰められているように見えると指摘。「子どもの権利を知っているから自由になれる」という全体会の子どもの言葉を引用し、「権利」と言うと構える人がいるが、おとなこそ学ばないといけない。もっとおとな自身も自由になって寛容になることだと思う、と述べ、未完成でも人の息使いが感じられるまちをつくることが必要であると訴えました。

会場からは、豊田市がCFCIに取り組むことで国際的な流れとリンクしたことへ期待するとともに、報告された町田市の例や海外の事例に触れ、仕事として子どもと寄り添うおとながいることの重要性を指摘する声が挙がりました。


分科会は、対面とオンラインのハイブリッドで開催され、会場参加36名、オンライン参加13名、登壇者・スタッフ合わせて約60名での開催となりました。

アンケートからは、

・市民との協働が大切だと改めて感じた
・町田市、豊田市、それぞれ比較しながらお話が聞けて良かった
・CFCIについて知らなかったが、取り組まれている自治体の話も聞けて子どもの権利との関係が理解できた
・豊田市が子どもたちを委員に加えて活動していることを知って嬉しかった。今後の豊田市の動きもウォッチしていきたい
・「チェックシートにして可視化する」という部分、大いに期待したい

等の意見が寄せられました。

 

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