【2015年11月 東京発】
当協会は、日本弁護士連合会との共催で、『子どもの権利とビジネス原則』をテーマとしたセミナーシリーズ「ビジネスで守る子どもの権利」を開催していま す。9月17日(木)、第2回セミナーを開催、サプライチェーンやインフラ輸出を例としたビジネスと子どもの権利の関わり、また、企業が本業の中で子ども の課題の解決に取り組む可能性等について議論しました。
© 日本ユニセフ協会/2015 |
ジェトロ・アジア経済研究所の山田美和氏は、講演の冒頭、「ビジネスと人権」の問題の背景は、途上国では人権に関する法律が未整備で執行が十分でないため、国内法を守るだけでは国際基準に基づく人権を保障することができず、そのギャップを埋める企業の責任が大きくなることにあると述べました。そして、ビジネスと人権に関する様々な国際枠組みが整備される中、「責任あるサプライチェーン」については本年のG7エルマウ・サミット首脳宣言でも取り上げられたこと、先進国の消費者や投資家の関心も高まっていることなどを説明しました。
また、日本では狭い意味にとらえられがちな「人権」を、「およそ人に関わることすべて」と考え、誰の何の権利が侵害されている/その可能性があるのか、具体的に考えるとわかりやすいと提案しました。特に経済活動によって最も負のインパクトを受ける可能性のある子どもの権利を最初に考えることが重要である、と強調しました。そして、ミャンマーやタイでの現地調査の様子も紹介しつつ、サプライチェーンの末端では、移民労働者の労働搾取が人身取引の観点から問題になることが多いこと、移民労働者は子どもを伴い移住してくることが多いので児童労働も問題になること、また、インフラ輸出においては、環境や土地収用における子どもの基本的な権利の侵害が問題になりやすいことなどを説明しました。
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山田氏は、国内法・制度が十分に整っていない典型例として、市場開放が進むミャンマーを取り上げました。ミャンマーの人権状況に関する特別報告者が、人権理事会に提出した報告書の中で、ミャンマー政府が『ビジネスと人権に関する指導原則』の実施により社会経済開発において人々の人権を保障すべきであると強く勧告していることを紹介しました。これまでは軍事政権による人権抑圧が主な問題であったのに対し、これからは海外からの投資に伴う人権侵害が重要な問題であり、日本企業の進出も増えていることから、日本としてどう対応するのか注目されている、と述べました。
また、現地で長くビジネスをやっていくためには、現地政府の許認可だけでなく、現地の人々から受け入れられるという「ソーシャル・ライセンス」の考え方が重要で、これは“紙”のライセンスとは違って、常に維持し続ける努力が必要であることも紹介。最後に、市民社会には、国家や企業をサポートして、どんな商品を使うのか、また「その先にあるもの」を考えることが求められている、と述べました。
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企業による取り組みの事例として、まず、イケア・ジャパン株式会社サステナビリティ・コンプライアンス・オーディターの八木俊明氏から、同社のサステナビリティー中期戦略に、すべてのビジネスプロセスにおいて子どもの権利とビジネス原則を実行していく、と明記されていることが紹介されました。そして、児童労働については、90年代半ばより、サプライヤーや協力企業のための行動規範(IWAY基準:児童労働を含む、環境・社会・労働条件に関する最低要求事項)を策定し、2000年より監査員(八木氏もそのひとり)による、抜き打ちを含む監査を開始するなど厳しく対処しており、現在その対象企業は4,000社以上に上ること、また多層的な社内ガバナンスの仕組みについても説明されました。
また、“Good Cause”(基金支援)キャンペーンであるソフトトイ(ぬいぐるみ)キャンペーンを通し、売り上げの一部をIKEA Foundationからユニセフの初等教育の取り組みなどに寄付、教室の机などに技術面の支援も提供していることを紹介。同様に、対象商品の購入を通じたしくみにより、東日本子どもプロジェクトとして、被災地の子どもたちに家具・おもちゃ、子どもの施設の建物などを提供してきたことにも言及し、いずれも社員が現場に行くことを重視していること、それらの活動は、「私たちの行動が常に子どもの利益となるべきである」との考え方に基づいていること等を説明しました。
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サラヤ株式会社コミュニケーション本部本部長の代島裕世氏は、同社の手肌と地球にやさしいヤシノミ洗剤について、70年代には「地球にやさしい」の意味が「川を汚さない」ことであったのに対し、21世紀に入ると、サプライチェーンを遡り、生産の過程で児童労働や生物多様性への悪影響がないかといったことも含む難しい課題になった、と述べました。そして、熱帯雨林伐採に関する社会的関心が高まる中、「パーム油を原料にした洗剤が熱帯雨林を伐採し野生生物に悪影響を及ぼしている」と批判するテレビ番組の取材を受けたことで、これ以上避けて通れない問題であると判断、自分の目で現地の状況を確認し、ソーシャルビジネスの取り組みを開始したことを紹介しました。ボルネオ環境保全トラストの立ち上げに参加し、ヤシノミ洗剤の販売を通したコーズ・リレーテッド・マーケティング(Cause Related Marketing=CRM、社会貢献の仕組みを取り入れたマーケティング)を開始、消費者とともに原料調達地の生物多様性保全に取り組んでいることを説明し、「今、無関心に環境破壊を続けることは子どもの未来を奪うこと」だから、とその理由を強調しました。
代島氏は次に、本業を通じた社会課題の解決への取り組みをさらに強化することをめざし、2010年に開始したウガンダでの取り組みを紹介しました。ビジネスの観点(豊富な水と電気、東アフリカ経済共同体の市場等)から魅力があると考えたウガンダにおいて、まずはユニセフへの寄付を通じで石けんを使った正しい手洗い普及キャンペーンの実施を支援。次いで、2011年には現地法人SARAYA East Africaを設立、2014年にはアルコール手指消毒剤の現地生産にも乗り出し、「チャリティーとビジネスの両面から」同国の衛生環境の改善に取り組んでいること、手の消毒100%を目指すパイロットプロジェクトの対象病院においては、劇的に乳幼児と妊産婦の死亡率が減ったこと等も報告しました。
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後半のパネルディスカッション(司会:日弁連企業の社会的責任と内部統制に関するプロジェクトチーム副座長 高橋 大祐 弁護士)の中で、八木氏は、90年代に綿花栽培等に関する児童労働の批判を受けたことが、この問題への取り組みのきっかけであり、サプライヤーへの基準の徹底と同時に、中長期的に児童労働をなくすための取り組みとして初等教育への支援も始めたことを説明。長いサプライチェーンにおいて、まずは1次サプライヤーにしっかり基準を周知すること(そこから先に伝えてもらうためにも)、また、どこにリスクがあるのかを詳細に調査し、リスクがある場合には2次、3次サプライヤーまで監査することが重要である、と強調しました。
山田氏は、日本企業が途上国で人権に配慮しつつ積極的にビジネスを行うために、日本政府からも、海外に進出する企業への人権とビジネスの観点からの情報提供や啓発、現地政府に対する能力構築支援、また、日本が主導するスタンダード設定やイニシアティブの実施等を期待する、と述べました。他にも、サプライチェーン管理について、各社がそれぞれ基準を作っているが、サプライヤー側から統一の基準を望む声も聞かれるので、政府や企業、NGOが一緒に基準作りができればよいのではないか(八木氏)、パーム油について、ヨーロッパの一部の国が「承認油以外輸入しない」と言い始めているが、アジアが主なフィールドであるパーム油については、日本が積極的にガイドライン作りなどを主導してほしい(代島氏)などの提案も出されました。
CRMの取り組みに対する反応について、代島氏は、10年ほど前と比べて、消費者の価値観が変わったと感じていて、「こういう活動をやっているから買っている」との消費者の声も届くようになっている、としました。八木氏も、子どもに関する活動を消費者に伝えることで、売り上げだけでなく、結果的に消費者の行動を変えたいと常に考えていると述べ、消費者を巻き込むことの重要性について議論が一致しました。
企業が子どもの課題に取り組むことについて、代島氏は、途上国での取り組みは、「効果」がはっきり見えるので社員のやりがいにつながっており、採用にもよい影響がでていることを紹介。八木氏は、子どもの問題に真剣に取り組んでいることが伝わることで、ブランディングだけでなく、企業への信頼、最終的には売り上げにもつながってほしいと述べました。2社の発表を聞いた山田氏が、社会課題に取り組むこと自体が、企業の存在意義になりつつあるのかもしれない、と述べる場面もありました。
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