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日本ユニセフ協会
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世界の子どもたち

カンボジア
学校での暴力的な指導をなくす
子どもたちに安全な学習環境を

【2017年12月6日  カンボジア発】

子どもに対するしつけや指導のために、暴力や暴言を用いることが一般的であるカンボジア。ユニセフは、カンボジア教育省とともに、暴力を用いることなく子どもの気持ちに寄り添った指導を目指す教師研修を行い、子どもたちが安全に学習できる環境づくりに取り組んでいます。ユニセフ・カンボジア事務所の吉川美帆・子どもの保護専門官による報告です。

 子どもたちに起きた変化

ここは、カンボジアの南西部に位置するカンポット州。およそ400人の児童が通うポー・プレック小学校で、教師の代わりに朝の授業をおこなった副校長のオン・ブンヘンさん(34歳)にとって、とても嬉しい変化がありました。

1年生の児童たちが、とても熱心に、積極的に授業に参加し、質問もたくさん出たのです。教室は生き生きとした雰囲気に包まれていました。こうした雰囲気は、この小学校に最近起きた、ある変化によってもたらされたのです。

教壇に立つオン・ブンヘン副校長の話に、熱心に耳を傾ける子どもたち。

© UNICEF Cambodia/2017/Fani Llaurado

教壇に立つオン・ブンヘン副校長の話に耳を傾ける子どもたち。

 

暴力的な指導が一般的

以前のポー・プレック小学校では、児童への指導に暴力や暴言が用いられていました。

「教師による指導法は、かつてはかなり異なるものでした。学校内で暴力をふるう教師をしばしば目撃しました。子どもたちは教師に対して恐怖感を抱き、学校を休むことも日常的でした」とオン副校長は言います。

楽しそうに授業を受けるポー・プレック小学校の子どもたち。

© UNICEF Cambodia/2017/Fani Llaurado

楽しそうに授業を受けるポー・プレック小学校の子どもたち。

子どもに対する暴力は、カンボジア国内ではごく当たり前におこなわれています。2013年に実施された「カンボジアの子どもへの暴力に関する調査」によると、子どもに暴力をふるう加害者は、家庭内を除けば、教師が最も多いことが明らかになりました。

教師たちが生徒に対して暴力的な指導をおこなうのが一般的で、例えば、打つ、叩く、殴る、首を軽く締める、ののしる、無視するなどの方法です。

子どもに対するあらゆる形態の暴力は、子どもの権利に対する深刻な侵害です。子どもの頃の暴力の経験は、子どもたちの身体的、知的、感情的発達に関して、短期的にも長期的にも悪い影響をもたらします。

複数の調査結果によると、暴力のない学習環境で育った子どもたちは、社会的能力、感情理解、認知・言語能力がより高く、学業成績が向上することが明らかになっています。

子どもに対する暴力は、子ども自身に影響を与えるだけでなく、国全体にマイナスの影響をもたらしています。ユニセフ・カンボジア事務所のデータによると、子どもに対する暴力が健康面にもたらす影響の経済的損失は、2013年で1億6,800万米ドルにのぼり、これはカンボジアのGDPの1.1%を占めます。

ポジティブ・ディシプリン研修

ポー・プレック小学校の子どもたち。

© UNICEF Cambodia/2017/Fani Llaurado

笑顔を見せる、ポー・プレック小学校の子どもたち。

ユニセフの支援を受けて、カンボジアの教育・青少年・スポーツ省は、教師を対象にした新たな研修を行いました。ポー・プレック小学校の児童たちに見られた変化も、この研修によるものです。

新たな教員研修は、ポジティブ・ディシプリン(肯定的なしつけ・指導:暴力や暴言によって子どもを抑制するのではなく、子どもの気持ちに寄り添い、暴力を使わず論理的に教え導く方法)、および、効果的な教室運営に関するもので、教師たちがメンターとなり生徒を導き、生徒と尊敬しあえる関係を構築するとともに、子どものニーズは年齢や発達段階によって異なることへの理解を、目的としています。

教員研修ではまた、生徒が良くない行動をしたとしても、暴力を使わずに指導する重要性を強調しています。そういった生徒に対しては、どういう行動がふさわしいかを具体的に示し、生徒自らがその過ちを理解し、直していく機会を与えるのです。そうすることで、生徒は、自分自身で良い判断をすることを学んでいくのです。

教師と児童の関係が良好に

5年生のスン・シブ・ティアンさん。

© UNICEF Cambodia/2017/Fani Llaurado

5年生のスン・シブ・ティアンさん。

この研修は、ポー・プレック小学校の教師たちの考え方と行動も変えました。教師たちが、暴力を用いない方法での指導や教室運営を始めたところ、児童たちとの関係は瞬く間に良好になりました。

5年生のスン・シブ・ティアンさんも、物事がよい方向に向かっていると言います。

「学校に行くのが好きです。私の担任の先生は、生徒一人ひとりをきちんと見守ってくれています。話しかけやすくて、何でも聞いてくれたり話してくれたりするので、気軽に話すことができます。暴力を使ったりはしません。休み時間には、自分の悩み事なども話します。

先生の授業は分かりやすいし、生徒が質問する機会もたくさん与えてくれます。生徒の過ちにどのように対処すればよいか、分かっています。よく頑張った生徒を褒めてくれますし、次も良い結果を出せるように励ましてくれます」(スンさん)

この小学校の児童たちは、以前よりも学習に対して自信をもち、喜んで宿題に取り組んでいます。

 家庭内暴力も減少

オン・ブンヘン副校長

© UNICEF Cambodia/2017/Fani Llaurado

ポジティブ・ディシプリンが、校内だけでなく、家庭における子どもへの暴力も減らしたと語る、オン副校長。

オン副校長によると、ポジティブ・ディシプリンは、ポー・プレック小学校の校内だけでなく、家庭における子どもへの暴力も減らしたと言います。「親たちは、ポジティブ・ディシプリンについて知識がなく、教師が暴力的な指導をすることが当たり前だと思っていました。教師が暴力や暴言を使うのを止めてから、親たちは自分たちが子どもにふるっていた暴力に対して甘く考え過ぎていて、それが子どもたちの学習成果に悪影響を及ぼしていたことに気付いたのです」

オン副校長は、親たちにポジティブ・ディシプリンについて伝えることを決めました。「これは、子どもたちがより良く学ぶための新しい手法であり、指導法なのです、と保護者に説明しました。子どもたちの学習成果が向上したのを目にして、保護者はポジティブ・ディシプリンについて理解し始めました」

ユニセフは、教育省とともに、より多くの小学校を対象にポジティブ・ディシプリン研修を今後も拡大していく予定です。そうすることで、カンボジア全土の子どもたちが、安全でより良いサポートを受けられる環境で学ぶことができるようになります。

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