2月6日の「国際女性器切除根絶の日(International Day of Zero Tolerance for Female Genital Mutilation)」は、女の子と女性の著しい人権侵害にあたる女性器切除(FGM)という慣習を、全世界で終わらせる取り組みを促進するため、2012年に制定されました。
SDGs(持続可能な開発目標)の目標5「ジェンダー平等を達成し、すべての女性及び女児の能力強化を行う」、およびターゲット5.3「未成年者の結婚、早期結婚、強制結婚及び女性器切除など、あらゆる有害な慣行を撤廃する」にあるとおり、国際社会は2030年までに女性器切除(FGM)の慣習を完全に根絶することを目指しています。
女性器切除(FGM)とは?
女性器切除(FGM)とは、医療以外の理由で女性の外性器の一部または全体の形状を変えたり傷つけたりするすべての処置を指します。FGMを受けた女の子や女性は、場合によっては深刻な合併症を引き起こし、死に至る可能性もあります。国際社会からは、女の子と女性の人権を著しく侵害するものと認識されています。
FGMは根強いジェンダー不平等の現れです。あるコミュニティでは、FGMは女性や女の子の貞操を守るものとして、人々に支持されています。また、ある地域では、FGMが結婚や相続の条件とされるなど、女の子の通過儀礼とみなされていることが、この慣習が浸透する背景にもなっています。FGMは、例えばイスラム教やキリスト教の教義では支持されていませんが、この行為を正当化するために宗教と結びつけた説明が用いられることもあります。
FGMが浸透している地域では、男性も女性もFGMをごく当たり前の慣習としてみなし、何の疑問も持たれないことも多いです。そのため、この慣習に従わない人は、そのコミュニティのなかで非難やハラスメントを受けたり、社会的疎外に直面することがあります。だからこそ、FGMの根絶は家族単位では難しく、コミュニティ全体の後押しがなければ実現することは不可能です。
データ:女性器切除(FGM)の現状―31カ国で2億人以上
現在、世界31カ国で少なくとも2億人の女の子と女性が、FGMを受けたと推定されています。FGMは、主にサハラ以南のアフリカとアラブ諸国で行われていますが、アジア、東欧、ラテンアメリカの特定の国でも行われています。
FGMの実施率は過去25年間で減少し、FGMを受ける可能性のある女の子の数は、30年前と比較して3分の1に減りました。しかし、FGMが行われている国々は、一般的に人口増加率が高く、若者の人口が多いことから、FGMを受ける女の子や女性の数は増加傾向にあります。
その他にも以下のようなデータがあります:
- 2023年中に、世界中で432万人の女の子がFGMを受けるリスクに直面すると予測されています。さらに、毎年FGMを受ける女の子の数は、2030年には460万人にまで増加すると予測されています。
- 新型コロナウイルス感染症のパンデミックは、ジェンダー不平等、経済格差、健康リスクをさらに深刻化させ、FGMを含む有害な慣習を根絶するための支援プログラムを混乱させました。その影響の一つとして、2030年までにさらに200万人の女の子がFGMを受けるリスクに直面する恐れがあります。
- FGMを受けた女の子や女性の約4人に1人、つまり世界で5,200万人が、医療従事者によって施術を受けたとされています。10代の女の子は特にその割合が高く、約2人に1人とされています。これは、FGMの医療化が進んでいることの現れです。
- 約半数の国で、FGMの低年齢化が進み、未然防止が難しくなっています。例えばケニアでは、過去30年の間に、FGMを受ける平均年齢が12歳から9歳へと下がっています。
- FGMがいまだにかなり一般的に行われている、ジブチ、ギニア、マリ、ソマリアなどの国々では、約90%の女の子がFGMの被害を受けています。
女性器切除(FGM)は国際条約に反する行為
女性器切除(FGM)は女性と女の子の権利の侵害です。男女間の根深い不平等を反映し、女の子と女性に対する極端な差別を表しています。健康、安全、身体的一体性に対する権利、拷問や残虐な、非人道的な、あるいは品位を傷つけるような扱いから解放される権利、そして処置の結果死に至る場合には生命に対する権利も侵害するものです。
「世界人権宣言」の第25条には「すべての人は、健康および福祉に十分な生活水準を保持する権利を有する」とあり、FGMが健康および身体的一体性に対する権利を侵害することを示す根拠として、この規定が用いられてきました。
FGMは女性に対する暴力の一形態であり、「国連女性差別撤廃条約」を引き合いに出すことができます。女性器切除を受けた女の子たちは、激しい痛み、ショック、大量出血、感染症、排尿困難などの短期的な合併症に加え、性と生殖に関する健康やメンタルヘルスに対する長期的な影響に直面しています。
同様に、拷問の一形態と定義すれば、「拷問及び他の残虐な、非人道的な又は品位を傷つける取扱い又は刑罰に関する条約(拷問等禁止条約)」の適用を受けることになります。
さらに、FGMは子どもの健康を害する伝統的な慣習とみなされるとともに、ほとんどの場合、未成年者に対して行われるため、「子どもの権利条約」に違反します。
ユニセフをはじめとする国連10機関は2008年に「FGMの根絶を求める共同声明」を発表しています。
根絶に向けた取り組み
SDGs(持続可能な開発目標)目標5「ジェンダー平等を達成し、すべての女性及び女児の能力強化を行う」、およびターゲット5.3「未成年者の結婚、早期結婚、強制結婚及び女性器切除など、あらゆる有害な慣行を撤廃する」でうたわれている通り、国際社会は2030年までに女性器切除(FGM)の慣習を完全に根絶することを目指しています。
2008年以来、ユニセフは国連人口基金(UNFPA)と共同で、FGMの根絶を加速させるための世界最大のプログラムを主導しています。この共同プログラムは現在、アフリカと中東の17カ国に焦点を当て、地域的・世界的な取り組みも支援しています。
これまで大きな成果を上げてきたこのプログラムの2023年のテーマは、「Partnership with Men and Boys to transform social and gender norms to End FGM(男性・男の子との協働:FGM根絶のために、社会規範・ジェンダー規範を変革する)」です(#MenEndFGM)。
FGMの根絶を促進するためには、男性や男の子たちを含むコミュニティ全体を巻き込み、共に考え、根絶に向けて協調的かつ体系的に取り組むことが必要です。深く根付いた慣習によって損なわれている女の子と女性の権利を守り、よりよい社会をつくっていけるように、より一層の努力が求められています。FGMの根絶は、現在リスクにさらされている女の子たちを守るだけでなく、将来生まれてくる女の子たちがこの慣習から解放されることでもあるのです。