© UNICEF Sierra Leone
エイミーと息子のサリュー(12歳)
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子どもたちは汚染された水を媒介にした感染症 や下痢などに簡単にかかってしまう。シエラレ オネでは、安全な水源へアクセスできる人たち は人口のたったの47%です。
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住民ボランティアたちが
ユニセフの支援物資の配布にあたった
エイミーは、首都フリータウン近郊のトンコリキという地区に、夫と6人の子どもたちと暮らしています。ブリキで作った小さな掘っ立て小屋が一家の住まいです。夫はダウンタウンの鍛冶屋で仕事をし家族を支えています。
エイミー一家が暮らす地域は貧しく、社会のインフラが整っていません。とくに問題なのが衛生環境です。安全な水源を利用できる人々はほとんどいません。改善された衛生施設(トイレ)の利用も限られています。基礎的な衛生環境が欠如する中で、子どもたちは汚染された水を媒介にした感染症や下痢などに簡単にかかってしまい、中には命を落とすケースも少なくありません。
ここ数年、シエラレオネではコレラを含む下痢性疾患が毎年のように流行しています。この年、エイミーたちが暮らす地区でも、多くの子どもたちが感染しました。エイミーの息子のサリュー(12歳)もその一人でした。
「サリューは、朝元気に学校に出かけて行ったんです。でも夕方、息子はとても具合の悪そうな顔をして家に戻りました。“どこか痛いの?”との問いに“お腹がすごく痛い”と言いました。私は、“きっとお腹が空きすぎているからに違いない“と思いました。朝、家には何も食べるものがなく息子は何も食べずに学校に行ったからです。 だから私は息子に乾パンを与え、夕飯の食材を買いに出かけました。」エイミーは続けます。
「買い物から戻ると、サリューはひどい下痢と嘔吐で床に倒れていました。目を白黒させて、高熱を出して…。この地域では下痢が原因で亡くなる子どもたちもいるから、息子も同じように死んでしまうのではないかとパニックになりました。息子をすぐにクリニックに連れて行きました。祈るような気持ちでした。クリニックでは、経口補水塩=ORS(*)を処方されました。すると、なんということでしょう。息子の下痢と嘔吐は瞬く間に止まりました。そして、まるで魔法にでもかかったかのようにみるみる元気になりました。息子は幸運でした。本当に良かった。」
下痢性疾患流行のパターンは決まっています。川沿いの村から発生し首都のフリータウン近郊にまで感染が拡大します。しかし、この年の流行は過去に前例がなく、地域の医療サービスが追いつかない状況に陥りました。
ユニセフは、下痢とコレラの流行の原因を突き止めるため、WHO、および政府の保健・衛生省のエキスパートと共同で水質調査を実施しました。調査の結果、11箇所の水源のうち井戸を含む5つの水源が人間の排泄物とバクテリアで汚染されていたのです。ユニセフは保健衛生省と協力し、公共ラジオ、ポスター、チラシなどを通して適切な衛生習慣と水の管理を呼びかける大々的な衛生キャンペーンを実施しました。ORSの処方の仕方などについてトレーニングされている住民ボランティアたちは、ORS、バケツ、ボール、それに塩素バックなど、ユニセフからの支援物資の配布にあたりました。街角に設置された“ORSコーナー”でも住民ボランティアたちが動員されました。
シエラレオネでは、安全な水源へアクセスできる人たちは人口のたったの47%(都市では84%、地方では32%)。改善された衛生施設(トイレ)を利用している人たちは人口の30%しかいません。
シエラレオネは世界でも乳幼児と妊産婦の死亡率がもっとも高い国のひとつであり、5歳の誕生日までに死亡する子どもは1,000人中167人、出産時の妊婦死亡率は10万人中1,300人といわれています。
“この悲しい現実を変えるために、私たちは保健と教育の領域で子どもの生存に対する総合的なアプローチを行っています。全ての子どもの命を守り、支えることが、私たちの仕事です。”
——ユニセフ・シエラレオネ事務所長ギアート・カペラエレ氏
*経口補水塩(けいこうほすいえん:Oral Rehydration Salt, ORS)は、主に下痢、嘔吐、発熱等による脱水症状の治療に用いられます。食塩とブドウ糖を混合したもので、これを水に溶かして飲むことで、体に水分が補給されます。ユニセフは各地でこの経口補水塩を提供しています。1リットル用のORSは1袋約6円で調達することができます。