EYE SEE TOHOKU in 宮城県石巻市
3日目 11月26日(土)
9:00
最終日:写真のレビューからスタート:
前回のワークショップから1週間。「ボンジョルノ」とジャコモさんのイタリア語の挨拶でワークショップがスタートしました。
最終日のこの日は、撮影した写真にキャプションをつけていくことが主な作業となりますが、まずは、子どもたち一人ひとりが撮影した写真からジャコモさんが選んだ写真を全員で見てゆきます。
亜美さんの写真から:
ホエールランドの写真を見ながら、ジャコモさんが質問します。「ここには昔、何があったの?」
亜美さん「お祭りのお店とか。建物の中では映画を観たりしました」
友だちのお母さんと弟を写した写真を見て、「子どもと同じ目線で、被写体に気づかれないで自然に写しているのがいいね」とジャコモさん。のれん街で働く朱里さんのおじいさんを写した理由は「一生懸命働いていたから」。
千尋さんの写真から:
ココストア(コンビニエンスストア)の駐車場に描かれた「HELP」の文字。震災の時、このコンビニに妊婦さんがいて、そこに居合わせた漁師さんたちが病院にいくための助けを求めて描いたものだそうです。被災した郵便局・のれん街の雑貨屋さん・鯨の肉の寿司・絵を描いている人・防寒用に壁に当て足れた毛布・干し柿・友達のお父さんなど。
遥樹君の写真から:
瓦礫、撮影クルーのお兄さん、美しい海の風景・・・。
「角度を変えて何枚もとっているのがいいね」とジャコモさん。
「震災の時にも、地域の人たちが集まることはあった?」と質問されると、「震災の後で増えた気がする・・・」と答えました。
海利君の写真から:
「近くまで近づいていって写したのがいいね。表情まで分かるね」とジャコモさん。
花を写したのは「頑張って生きているなと思ったから」と答える海利君。ジャコモさんは、「仮設住宅の花は、人々が普通の生活を取り戻そうとしていることの象徴のようにも思えます。それを写したんですね」と。
未来さんの写真から:
写真を撮る先生・お母さんの顔に光があたっているところ。未来さんの家は、高い所にあったのに津波で流されてしまいました。「焼きそばマン」「ラーメン」と呼ばれ親しまれているボランティアの人がいるそうです。
真菜さんの写真から:
名札を忘れた海利君に弟が名札を届けに来たという「証拠写真」など。もの静かでありながら、しっかりと状況を抑えた写真を写していた真菜さん。
朝陽君の写真から:
弟とお父さん・煙草を吸うおばあさん(朝陽君は家族をじっじ、ばっば、おっとう、おっかあ・・と呼んでいるようです)。
残念ながらピンぼけしてしまってジャコモさんには選んでもらえなかったものの、朝陽君が一押しと思っていた一枚は妹の怒っている顔の写真だったそうです。
花音さんの写真から:
背の小さな花音さん。写真のアングルに「撮影のために高いところに登ったんだね」とジャコモさん。「ズームで撮った」という猫のアップの写真・仮設のおばあさんのところで遊ぶ優菜さん・クリスマスの準備をしているお父さん・大原の学校・柵で囲まれた木の写真など。
麿香さんの写真から:
みんなが写真を撮っているところ。仮設の床屋さん。猫のアップ。貝殻の向こうに瓦礫というコントラスト。フェンスから夕陽を覗き込んで写した幻想的な風景写真など。
優菜さんの写真から:
お気に入りの「妹の変顔」・倒れた看板・漁師のおじいちゃんが新しい船を受け取っている写真(このことに気づいて写真を撮ったのは彼女だけでした)。鯨のネックレスを売っているところ・倒れた木と生き残った木のコントラスト・仮設住宅に暮らすおばあちゃんとおばあちゃんのところで過ごしていることが多いといういとこなど。
「写真を撮るとき、何を写し、何を切り取るかを真剣に考えているね」とジャコモさん。
連君の写真から:
下からみあげた大人たちの顔。インタビューされている人を写した写真(こういうところを写しているのは連君だけでした。いい気付きです、とジャコモさん)。
誰よりもたくさん写真を撮っていた連君。木の枝を川に投げて、その水しぶきを写してみたり。好奇心旺盛です。船をつなぎとめる線。夕陽の海岸。夜の仮設住宅。
「連君は誰よりもたくさん写真を撮って、一枚一枚に楽しんでいる気持ちが込められていました」とジャコモさん。
涼太君の写真から:
「涼太君はとても情熱的で、アドバイスを受け入れて気を付けてカメラを使っていました」とジャコモさん。
海の水にビルが反射している写真。カメラを下において撮ったアスファルトの写真。雑貨屋さんのおばさん、ハッピーという名の犬。
「他の子が遊んでいる間も、涼太君はずっと写真を撮っていたね」
朱里さんの写真から:
弟、家で撮った家族の写真。床に寝転んだ自分を写した写真。紺色のお土産品と壊れたまちのコントラスト。凹んだ面のクロースアップ。くじらの髭、はんこ。朱里ちゃんは特別にインタビューをしたんだよね。構図も、とてもよく考えられているね。
夕陽の海。新しくつくられている家。新しく送られてきたという消防車。
ランチタイム
「ご飯を食べたら、外で遊んでいいよ」といわれ、大はしゃぎの子どもたち。鬼ごっこしたり、鉄棒で遊んだり、小学生のパワーがはじけます。
13:00
キャプション作成:
午後はキャプションをつくる作業をしました。
小学生なので、なかなか集中力も続きません。
「どうしてこの写真を撮ったのかな?」と聞いても「なんとなく・・・」となかなか言葉が出てきません。
それでも、リーダーにアドバイスを受けながら、一生懸命何かを書こうとする子どもたち。つたないのは当たり前。素直な言葉のなかに、時折はっとするような言葉がまぎれています。
終わらなかった作業はみんなに家に帰ってからやってもらうことになりました。
投票タイム
いよいよワークショップも終わりに近づいてきました。
各賞の投票と発表です。
「一番おもしろかったで賞」に選ばれたのは、優菜さん。
「妹の変顔を写すのが大好き」といっていた彼女の渾身の一枚でした。
一番かわいい動物賞は千尋さんのハムスターの写真が選ばれました。
この賞は、子どもたちのリクエストで作られました。子どもたちは本当にたくさん生き物の写真を撮っていました。各国で写真ワークショップを何度もやってきたジャコモさんもこんな賞を作ったのは初めてだそうです。
そしてベスト写真家賞に選ばれたのは涼太君でした。
* * *
その後、ジャコモさんが用意してくれた子どもたちの写真のスライドショーをみんなで鑑賞しました。ずっと賑やかにはしゃいでいた子どもたちでしたが、この時ばかりはしんと静まってスクリーンに見入っていました。鮎川のたくさんの表情を写した写真を眺め、いろいろな思いが湧いているようすです。
子どもたちを迎えにやってきたお母さんたちからも写真を見てこんなコメントが寄せられました。
海希さんのお母さん: 「自分たちもあまりカメラを持とうという気になれなかったんですけれど、子どもたちが撮ろうとしているのを観て、感動しました。レンズから見た景色は早く忘れてほしいと思う反面、こういうことがあったっていうことも覚えておいて欲しいと思います」
遥樹君のお母さん: 「こんなきれいなまちの感じも残っていたんだなと思って、とても感動しました。ありがとうございました」とコメントがありました。
最後にジャコモさんから、フレームに収めたみんなの写真がプレゼントされました。一人ひとりに宛てて手書きでメッセージを添えたジャコモさん。
「みんなと会えて本当に素晴らしかったです。世界中のどこに行く時も、みんなの心と共に旅をすると思います。みんなが写真に込めた想い、笑顔、みんなの撮った写真を、忘れないでくださいね」
そして、子どもたちから「ありがとうございました!」と大きな声で挨拶があり、3日間のワークショップは終了しました。
担当してくださった鈴木先生は、「子どもたちが成長した3日間だったと思います。教師たちにも成長がいると思いました。学ばせてもらった3日間だったと思っています。子どもたちの撮った写真は、これから1枚ずつ、学校のホームページに掲載していきたいと思います」と話してくださいました。
校長先生からも「子どもたちが学んだものは人生できっと役に立つと思います。本当にありがとうございました」というお言葉をいただきました。
鮎川小学校のホームページにはEYE SEE TOHOKUのようすが鈴木先生の写した写真と共に紹介されています。これから先、この鮎川のまちに、そして子どもたちの心にはどのような記憶が刻まれて行くのでしょうか。