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子どもたちのアイディアが活かされた学校が
大槌町に完成しました

【2016年11月12日  岩手県大槌町発】

岩手県の大槌町に今年4月開校した町立小中一貫校の大槌学園で、11月12日、新校舎の完成を祝う落成式が開催されました。

完成した学び舎

9月に完成、共用が始まった町立大槌学園の新校舎。使用した木材の約8割は町内産。

© 日本ユニセフ協会

9月に完成、共用が始まった町立大槌学園の新校舎。使用した木材の約8割は町内産。

東日本大震災の津波で被災した町立の大槌、大槌北、安渡、赤浜の小学校4校と大槌中学校は、プレハブづくりの合同仮設校舎で活動を再開。2013年4月に小学校4校が統合され、今年4月には、旧大槌中学校も統合した小中一貫の義務教育学校「大槌学園」として新たなスタートを切りました。そして今年9月、大槌町や建築に関われた方々が被災した学校に通っていた子どもたちの声やアイディアも聞きながら建設が進められていた新校舎が、県立大槌高校に隣接する土地に完成しました。

復興計画の一環として、大槌町が小中一貫の創設とそのための新校舎づくりの考えをまとめていた2012年、日本ユニセフ協会は、都市計画・まちづくり学習専門家の佐藤慎也 山形大学地域教育文化学部教授と、子ども環境学会が震災直後に開催した「東日本大震災復興プラン国際提案競技『知恵と夢』の支援」コンペで最優秀賞を受賞した㈱竹中工務店との協働で、子どもたちを対象に「未来の教室」ワークショップを実施しました。同年10月から3回にわたって開催したワークショップには、当時合同仮設校舎で学んでいた4つの小学校の5年生約90人が参加。「こんな環境で勉強したい」「こんな所で読書をしたり、遊んだりしたい」「また避難所として使われるかもしれないから、こんな設備があると良い」など、理想の教室や施設を考え、話し合い、模型で表現しました。

真剣に向き合ったおとなたち

各教室の前には、洗い場も備えた広い廊下が広がります。教室との境の引き戸を全開すれば、巨大なワークスペースに。「教室以外の休憩・交流・活動スペース」「避難所として使いやすい教室」を提案する子どもたちのアイディアを元に設計されました。

© 日本ユニセフ協会

各教室の前には、洗い場も備えた広い廊下が広がります。教室との境の引き戸を全開にすれば、巨大なワークスペースに。「教室以外の休憩・交流・活動スペース」「避難所として使いやすい教室」を提案する子どもたちのアイディアを元に設計されました。

子どもたちのアイディアは、佐藤教授と竹中工務店が技術的・専門的観点から咀嚼し新校舎のデザイン指針案(「復興提言」)を含めた報告書にまとめ、大槌町に提出しました。ワークショップに関わった方々や日本ユニセフ協会の支援担当者らは、他の被災地と同様、震災から1年を経ても復旧・復興に向けた取り組みに町の方々が不眠不休で取り組まれている状況の中で、子どもたちの声を聞くという機会をつくっていただいたことだけでも大きな成果だとする認識が主流でした。しかし、報告書をご覧になった大槌町教育委員会は、「新校舎の設計仕様書に子どもたちのアイディアをどうにか反映させたい」と、2013年春に設計者を公募した際、「応札にあたり参考にすべき資料」としてこの報告書を応札予定事業者に提示。さらに、落札した事業者からも、子どもたちのアイディアを具現化するにあたっての助言を求められ、佐藤教授と竹中工務店がアドバイスを提供しました。

それから3年余。山の上から海を望む場所に、町内産の木材をふんだんに使用した校舎が完成しました。木の香りとぬくもりに溢れた校舎には、随所に子どもたちのアイディアが活かされています。例えば、「大木が真ん中に生えている」というアイディアをヒントにデザインされた図書館「本の森」。「教室とは別にクッションが置かれた休憩スペースや昼食スペースがあると良い」というアイディアからは、学校の中心にランチルームを設置するデザインや、洗い場を備えた広い廊下やディスカッションコーナーが生まれ、図書館の横には、直接床に座って友達とお話したり本を読んだりできるカーペットの床の吹き抜けスペース「つつじルーム」もできました。理科の野外実験や図工の作業にも使える大きなベランダも、子どもたちのアイディアです。

震災からまだ1年余りしか経っていなかった時期に子どもたちに制作してもらった模型の中には、「教室の中に手洗い場やトイレを設置する」というものもありました。子どもたちが、自らが経験した避難生活で得た教訓を形にした提案でした。こうしたアイディアを元に、実際の校舎では、家庭科室や理科室が、体育館と広い通路を挟んで向かい合うように配置されることになりました。学校が再び避難所になった時、多くの方の居住空間となる体育館と炊き出しや洗い場を近づける工夫です。各教室を繋ぐ洗い場のある広い廊下や、引き戸を開くと教室と廊下の区切りが無くなる設計も、子どもたちのアイディアも参考に学校全体を避難所として活用し易くするために施された工夫です。

復興の記憶

多くの方を収容する避難所となる体育館(写真右)の直ぐ隣には、家庭科室などが入る建物(写真左)を設置。震災発生直後、当時小学校3-4年生だった子どもたちから出された避難所として使いやすい学校のアイディアを元に考えられました。

© 日本ユニセフ協会

多くの方を収容する避難所となる体育館(写真右)の直ぐ隣には、家庭科室などが入る建物(写真左)を設置。震災発生直後、当時小学校3-4年生だった子どもたちから出された避難所として使いやすい学校のアイディアを元に考えられました。

震災から5年半が過ぎ、全国自治体からの応援派遣の方々は地元に戻られ、教育関係の方々の多くも、県内各所に異動されるなど、「未来の教室」ワークショップを知る方は一握りになってしまったため、11月12日の落成式では、校内の一角をお借りし、4年前に子どもたちが作った模型と資料を展示しました。「新しい校舎に入ってすばらしいとは思っていたけれど、子どもたちが考えた教室のアイディアを見て、実際の建物に子どもたちのアイディアと似ている部分をたくさん見つけて、とても驚き感激しています」 大槌学園の先生方はじめ、当日展示をご覧になった方々から、こうしたご感想を頂戴しました。

大槌学園には、「ふるさと科」という授業があります。郷土愛や生きる力、災害時の判断力や実践力を育てるために、地域の方を講師にした授業を行っているそうです。体育館の一角には、「ふるさと科」を運営される地域の方が常駐する「いどばた会議室」もあり、日常的に地域と学園をつないでいます。地元産の木の香りに包まれたぬくもりあふれる新しい学校は、地域の方々の力も借りながら、復興への取り組みが続く町で子どもたちを見守り、育てていきます。

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