【2021年9月22日 カトマンズ(ネパール)発】
© UNICEF/UN0399562/Filippov |
新型コロナウイルスの世界的流行の影響により、これまでの日常は一変しました。学校の休校、都市封鎖、人と人との交流の制限など、感染予防のためにとられた対応策は、同時に、世界中の子どもと若者のメンタルヘルス(心の健康)に大きな影響を及ぼしているとされています。
ユニセフは昨年3月、世界の子どもと若者向けに「メンタルヘルスを保つ6つのヒント」を公表するなど、不安や孤独、失望を感じている子どもや若者へ支援の必要性を早くから認識し、メンタルヘルスへのサポートの重要性を訴えています。
また、各国の現地事務所もメンタルヘルス支援を実施してきました。ネパール事務所の支援の様子をお伝えします。
© UNICEF/UN0472878/Nepal |
ネパールの首都カトマンズのカンティ小児科病院で勤務する臨床心理士のラム・プカール・サーさんは、子どもと若者の治療やカウンセリングにあたっています。
「昨年、COVID-19が私たちの生活にもたらした不安やさまざまな制限、大きな変化が、子どもや若者のメンタルヘルスに与えた影響は、非常に具体的で懸念されるものです」とラムさんは言います。
「子どもたちはCOVID-19を怖がり、外に出掛けることができず、家に閉じこもっています。そして、多くの子どもたちが一日中、電子機器を触って過ごしています。こうした生活が、子どもたちの全般的な発達に影響を及ぼしており、特に6歳未満の幼い子どもたちの間では顕著です。一方、年上の子どもたちも、勉強や将来に対して不安を抱き、かなりのストレスを感じています」(ラムさん)
ユニセフは、新型コロナ危機に関連して、子どものメンタルヘルス支援の喫緊の必要性を認識し、カンティ小児科病院と協力して、2020年に「子どもと青年期のメンタルヘルスプログラム」を開始しました。これは、ラムさんのような子どもの精神医学と心理学の分野の専門家が中心になり、子どもたち自身のために作られたプログラムで、全国の心理社会的カウンセラーを対象にしたトレーニングや、教師、看護師などの最前線の医療従事者、子どもの保護者のためのメンタルヘルス研修会などを実施します。
わずか7か月の間で、2万人以上の保護者と教師、1,900人以上の看護師と最前線で働いている医療従事者、そして2万1,000人以上の子どもたちに、このプログラムを提供することができました。
© UNICEF/UN0472876/Nepal |
今年の春、国内の流行第2波に伴い、子どもの陽性者数が増加傾向にあるなかで行われた取り組みとして、COVID-19陽性となった子どもたちを対象にしたプログラムがあります。40人の子どもと若者が、カトマンズにある国立アーユルヴェーダ研究・研修センターに隔離され、ラムさんを含む専門家チームが、多数のサポートセッションを行いました。
「長期間何もしない状態が続くことは誰にとっても困難を伴います。子どもにとっては、特にです」と語るラムさんは、チームメンバーと共に、多くの若い患者の間で蔓延する、不安やうつに関連する症状を特定しました。「症状を早期に発見することが重要です。それができれば、不調や障害のリスクを減らすことができ、症状の改善に向けて子どもたちをサポートすることもできるのです」
©UNICEF Nepal/2021/ASingh |
センターで行われた3回のセッションで、子どもたちや若者は、グループでのディスカッションや交流に加えて、ストレスをコントロールし落ち着いた状態を保つために役に立つテクニックとして、さまざまなリラクゼーションと深呼吸のエクササイズを学びました。
さらに、ユニセフは、滞在中の子どもたちが心と体の健康を保てるよう、衛生用品に加え、さまざまなおもちゃ、本、文房具、屋内ゲームを含む多くのレクリエーションキットを支援しました。
その後、40人の子どもたち全員が回復し、退院しました。
© UNICEF/UN0472880/Nepal |
ラムさんは、今回の新型コロナ禍が若者のメンタルヘルスに影響を及ぼしたことで、支援サービスの必要性が明確に示され、「メンタルヘルスについてもっとオープンに話し合うべきだ」という人々の理解が進んだと考えます。また、カウンセリングと治療がどのように効果があるかについても、人々の理解が深まったとも考えています。
「一般的に、悩んでいる人に前向きになるためのアドバイスをしたり、習慣を変えるように指示したりすればいいと思われている、画一的なアプローチがあります。けれども、このようなアプローチは一般的なストレスをコントロールする際には役立ちますが、より深い問題を抱えている人にとっては十分ではありません。
ラムさんの元には、治してくれると期待して自分の子どもを連れてきながら、子どもに「明るくしなさい」「もっと勉強しなさい」とプレッシャーをかけている親もいたといいます。しかし、これでは何の解決にもならず、「すぐに治る」ということもない、とラムさんは語ります。
「不安やうつを抱える子どもや若者は、自分が感じていることを伝え、その気持ちは当然のものであることを知り、それぞれが直面している状況をもとに話を聞いてもらう必要があります。私たちがどのように支援をしていくかを提案する前に、これらのプロセスを踏む必要があるのです。」(ラムさん)
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