難民キャンプの幼い命を守るためにユニセフ・タンザニア事務所 秋山 直子 |
現在タンザニアには12の難民キャンプがあります。隣国ブルンジやコンゴの紛争を逃れてきた40万人以上の難民たちが暮らしており、その40%以上が子どもたちです。
これらの国の虐殺や紛争のようすは時々ニュースで目にされていると思いますが、子どもたちの命を奪うのは虐殺・紛争ばかりではありません。紛争・混乱を逃れようと、長い長い道のりを歩いて安全な隣国にたどり着けるのは体力のある者だけです。たどり着いても体力が果て、栄養不良や下痢といった防げる病気で亡くなる子どもたちが多数います。大勢が密集してくらしているため伝染病も広がりやすく、弱っている子どもたちはすぐに感染してしまいます。ユニセフはこうした子どもたち、特に5歳未満の子どもたちを救おうと活動しています。
中でも重要なのが、こうした混乱の中で生まれた子どもたちの命を救うことです。紛争・混乱のショックで出産が早まり、未熟児で生まれたり、訓練を受けた助産員などの助けもなしに出産しなければならなかったり、未熟児なのに必要なケアを受けられなかったり。そのために亡くなる赤ちゃんがたくさんいます。何日も歩き続けてようやくタンザニアにたどり着き、疲れ切った体で赤ちゃんを産むお母さん。赤ちゃんも弱り切っています。ユニセフは、一人でも幼い命を救うため、安全なお産のための助産員キットを提供し、助産員や保健員を緊急事態に対応できるよう訓練し、生まれた赤ちゃんに必要な医療を提供できるよう取り組みを進めています。
難民が入ってくるということは、国境を超える人の行き来が激しく、病気も容易に伝染する、ということを意味します。2002年、隣国ブルンジで始まった脳膜炎は、難民キャンプを抱えるタンザニア西部に急速に拡大してきました。この病気は、健康で治療を受けた人でもかかったら15%近くが死に至る危険な病気です。子どもやお年よりなど抵抗力の弱い人の死亡率はさらに高いのです。残念なことに地元の村で子どもの死亡が報告されました。ユニセフは、急ぎUNHCRやNGOと協力して大規模な予防接種を行いました。その結果、この病気の大流行をおしとどめることができ、死者もわずかですみました。
ユニセフはこうした緊急予防接種キャンペーンと同時に、はしかやポリオ、三種混合ワクチンなど、子どもたちを病気から守るために必要な基本的な予防接種を難民キャンプのすべての子どもたちに施しています。
こうした緊急支援活動は地元の開発支援とも密接に関わっています。難民を受け入れる地域は国の中心部から離れていることが多いため、開発が遅れ、非常に貧しい地域であることが多いのです。タンザニアも例外ではありません。タンザニア自体、生まれた子どものおよそ5人に1人が5歳の誕生日を迎えることなく亡くなっています。難民を受け入れているカゲラ地方はタンザニアの中でも特に子どもの死亡率が高く、重度の栄養不良の子どもが多くいます。親は貧しく、医療どころか子どもに満足な食事すら与えられない状況です。それに、そもそも地元には利用できる医療設備がないのです。
最近、ムヨヴォシ難民キャンプから10キロほど離れた村に住む女性が重度の低タンパク症の幼い子どもを難民キャンプ内の栄養治療センターに連れてきました。子どもの髪の毛は灰褐色色に変わり、肌はあたかも火傷をしたようにただれ、この病気特有なのですが顔は満月のように腫れていました。母親によると子どもは1ヶ月も前からこうした状態でした。
この子どもは併発していた病気の治療のため小児科病棟に入院し、同時に、栄養治療センターにも登録されました。子どもは1週間後には回復に向かい、2週間後には全快して退院することができました。
感極まった母親は、「この子のこんな姿が見られるなんて信じられない」と言いました。
栄養師が「私たちがお子さんに何をしたかご存じですか」と聞くと、母親は「知らない」と答えました。栄養師は母親に「私たちはお子さんに食事を与え、感染症の治療をしたのです。奇跡ではありませんよ」と説明しました。
残念ながらこうした基礎的なことを知らず、また簡単な栄養指導や治療が受けられないために亡くなる子どもは非常に多いのです。この子も、ユニセフが活動する難民キャンプが近くにあって、近隣に住むタンザニア人の子どもも差別なく活動の対象になっていたために、命が救われました。
ユニセフの活動によって命が救われた子どもはたくさんいます。1ドルで10人の子どもに3つの病気を防ぐ三種混合ワクチンを接種でき、2ドルあれば21人の子どものポリオを予防することができます。
少しのことでどれだけ大きなことができるか、今、それを切実に感じています。