2024年9月18日ゴンべ州(ナイジェリア)発
「教育は明るい未来への鍵――」。
ナイジェリア北東部ゴンベ州にある小さなコミュニティ、クワドンで暮らすサフィヤ・モハンマドゥさんは、保健施設にやってくる子どもたちのケアを行う保健員の姿を見ながら、そう強く感じていました。
「ここにいる保健員の人たちが命を守る保健サービスを提供できるのは、教育を受けたからこそ」。
教育を受けられなかった自身の過去を振り返り、サフィヤさんの表情には後悔の念が浮かびます。
専業主婦で2児の母であるサフィヤさんは、自身も学校に行っていたら、違う人生を送っていただろうと思うのです。そんなサフィヤさんは、娘には自分と同じ運命をたどらせないようにしようと強く心に決めています。「私が経験したことを娘のアイシャには直面してほしくありません」と、サフィヤさんは話します。
サフィヤさんには4歳になる娘のアイシャちゃんがいます。サフィヤさんは娘が学校に入学する日が来るのを心待ちにしていました。そんなある日、サフィヤさんはラジオで、あることを耳にしました。「出生証明書を持っていない子どもは学校に入学できないかもしれない」、という内容でした。それを聞いて、サフィヤさんの希望は打ち砕かれました。というのも、アイシャちゃんは出生登録をしていなかったからです。
出生登録をしていないということは、法的には存在しないということです。そうすると、教育などの社会サービスも享受できず、未来が危ぶまれてしまいます。アイシャちゃんはどうなってしまうのでしょうか――。
出生登録率が低いナイジェリア
出生登録とは、政府が子どもの出生を公式に記録することです。子どもの出生登録がされたときに受け取る出生証明書は、生涯にわたって、教育や保健などの社会サービスにアクセスするために必要となります。また、年齢証明や児童婚などの虐待や搾取から子どもを守る上でも役立ちます。
ユニセフの複数指標クラスター調査(MICS)によると、2021年時点で、ナイジェリアの5歳未満の子どもの人口約3,400万人のうち、半数近くは出生登録をされていませんでした。出生登録率が低い原因としては、出生登録の重要性が保護者に十分に認識されていないことが挙げられます。また、出生登録の作業を行う人員の不足など、構造的な問題や運用上の課題もあります。
こうした課題に対して、ユニセフはナイジェリアの国家人口委員会との協力体制の下、出生登録を乳児の定期的な予防接種時に合わせて行える仕組みをつくりました。それは、最寄りの登録施設までの距離が出生登録を妨げる要因となっている地域の人々に配慮して、農村部にも遍在している診療所などの一次医療機関で出生登録サービスを受けられるようにするというものです。そのために、予防接種とともに出生登録を行う担当職員を州全域の保健施設に配置しました。
これまで登録の窓口であった国家人口委員会の事務所に出向かなくてもよくなったことは、出生登録に対する実際の障壁を取り除くことになりました。また、既存の保健インフラを活用して出生登録サービスを提供することは、子どもの出生登録の重要性に対する保護者の認識を高めることにもつながりました。クワドンにあるプライマリ・ヘルスケアセンターの予防接種担当職員ジルファ・ピーターさんは、「出生登録と予防接種を組み合わせることによって、うちの施設でも出生登録を行う子どもの数が増えた」と話します。取り組みが功を奏して、2023年には同州で38万500人(一日あたり約1,000人)の子どもの出生登録が行われました。
すべての子どもが明るい未来への第一歩を踏み出せるように
2023年11月、サフィヤさんはアイシャちゃんの生後3カ月の妹ファティマちゃんの予防接種のために保健施設を訪れました。その際、合わせてアイシャちゃんの出生登録もし、出生証明書を取得しました。
ナイジェリアは「持続可能な開発目標(SDGs)」の下、2030年までにすべての子どもの公的な出生登録を行うという目標の達成に向けて取り組んでいます。出生登録はアイシャちゃんのような子どもたちにとって、明るい未来への道の大きな第一歩になるのです。