【2019年6月6日 コックスバザール(バングラデシュ)発】
ブンデスリーガ(ドイツ・プロサッカーリーグ)で活躍し、仕事と生活の拠点を置くドイツの日常生活の中で直面した「欧州難民危機」。日々の生活の中で目にするようになった難民や移民の子どもたちの姿に、かねてから「何かできないか?」との思いを募らせていた長谷部選手は、昨年11月のギリシャ難民キャンプへの訪問に続き、6月5日から、バングラデシュのロヒンギャ難民キャンプを訪問しています。
© 日本ユニセフ協会/2019/tetsuya.tsuji |
主にミャンマー西部のラカイン州に暮らす約100万人のイスラム系少数民族ロヒンギャは、国籍を持たず、長年にわたり差別と激しい迫害に苦しめられてきました。国連が把握しているだけでも、1978年、1991年~92年、そして2016年に発生した武力衝突により、既に多くの人々が国外に逃れていましたが、2017年8月に発生した激しい武力衝突をきっかけに、現在までに、40万人を超える子どもを含む推定74万5000人が、隣国バングラデシュに避難しています。
長谷部大使は、今回、ミャンマーとの国境の町コックスバザール近郊に設置された、この新たな難民を含む約90万9000人のロヒンギャ難民が暮らす、世界最大級の難民キャンプ群を訪問しています。
難民が一気に押し寄せた場所は、仮の住まいとなる施設や医療施設はおろか、電気も水道も下水設備も無い“野原”。食糧も水も無い状況の中、大規模な感染症の発生と極度の栄養不足から、特に幼い子どもたちの命が大きな危険に晒されました。
ユニセフをはじめとする国際機関や人道支援団体は、直ぐに緊急支援活動を開始。日本(民間と政府)を含む国際社会からも大きな支援が寄せられ、当時は「世界最大の人道危機」と呼ばれた状況でしたが、“最悪のシナリオ”は回避されました。 そうした最大の危機から、間もなく2年の月日が過ぎようとしています。
国際社会の関心も薄れつつある一方で、未だに法的な身分証明や国籍を取得できていないロヒンギャの人々の前途は多難です。時に一日数十人にも上ると言われる難民キャンプで生まれる子どもたちは、公式な出生登録をされておらず、「難民」としての法的地位も与えられていません。「国」の制度や行政サービスの対象とならないため、国際社会からの支援だけが生命線です。
ユニセフをはじめとする支援団体は、現在、バングラデシュ政府の協力も得ながら、長谷部大使も昨年11月にギリシャで見た、“次につながる”支援、つまり難民の方々自身が今後どこへ行っても“持ってゆく”ことができる支援に力を入れています。
正式な学校教育が提供されない環境の中、非公式な形でも同等の内容を学ぶことができる学習センターを通じた教育活動。仕事に就くための職業技術訓練の機会の提供。スポーツやレクリエーションを通じて、子どもや若者が、生きる力、仲間と協力する力を育てる支援。また、2017年の“最悪のシナリオ”を回避できた要因の一つでもある安全な出産の確保や乳幼児や妊産婦の定期健診、予防接種、栄養分野も含めた適切な知識の啓発・普及活動などへの難民の方々自身の参加は、現在も続く重要な活動(戦略)の一つです。
また、これら一連の活動は、ともすれば“支援格差”が生じてしまう可能性もあった従前から貧困に苦しんでいたロヒンギャ難民の方々を受け入れた地域・地元の方々への支援にも繋がっています。
© 日本ユニセフ協会/2019/tetsuya.tsuji |
訪問1日目の5日、長谷部大使は、2017年の危機でミャンマーを新たに逃れた難民の方々の大半を占める60万もの人々が住む、現時点で世界最大の難民キャンプとも呼ばれる「クトゥパロン・キャンプ」を訪問。
低木が生い茂る丘陵地帯を切り拓いて作られたというキャンプの中を歩きながら、ユニセフなどの支援で設置・運営されている重度の栄養不良の子どものための治療施設や、24時間稼働する保健センター、学習センターなどを訪ねました。
「こんなに大きな難民キャンプに来たのは初めてです。実際に足を運んでみて、その巨大さを実感しました」
「みなさん、小さな子どもたちを連れて、何日もかけて徒歩であの山を越え、川を渡ってここに逃げて来られたんですね」
キャンプの背後に見渡せるミャンマーの山々を見つめながら、長谷部大使は、難民の方々が経てきた想像を絶する苦難に思いを寄せていました。
「でも、ここにいるみなさんは、一様に明るくて。世界中から寄せられている支援にも、本当に感謝されていました。」
「ここで見たこと、みなさんから伺ったことを、日本のみなさんに、しっかり伝えたいと思います。」
© 日本ユニセフ協会/2019/tetsuya.tsuji |
* * *
2019年の1年間の支援活動に必要な資金は、国連全体で1,000憶円あまり、ユニセフだけでも170憶円あまりに上りますが、これまでに国際社会から寄せられた支援はその半額にも達していません(ユニセフは4月29日現在46%、人道支援機関全体では4月28日現在17%に留まっています)。
ユニセフと日本ユニセフ協会は、長谷部誠大使の今回の訪問を通じ、日本でも忘れられかけている世界最大級の人道危機への関心を改めて喚起し、支援を訴えています。
シェアする