≪2004年12月6日掲載≫
HIV/エイズを含め、生きるためのスキルを学ぶ
〜一党独裁制の過去と決別するアルメニアの子どもたち〜
<アルメニア>
輸血によってHIVに感染し、本人の責任ではないにも関らず友だちや同級生、教師から差別扱いされる10代の若者。
この若者があなたの友だちだとしたら、あなたはどうしますか? 心の支えになってあげられますか? HIVに感染したのがその若者ではなくて、あなた自身だったらどうしますか? みんなにどう接してほしいですか?
アルメニアでは、国が制定した教育カリキュラムの一部として、ライフ・スキルの授業が多くの学校で教えられています。今挙げた一例は、このカリキュラムのなかで使用されているケーススタディの1つです。これらの授業は、子どもの権利に基づいて、対話型・参加型の教育システムとしてユニセフが開発した枠組みの一部です。
「すべての子どもたちの参加・健康・保護」を目標とする一連の授業では、「実社会」と関係のあるスキルを身につけることができます。ほかの授業では取り上げられなかったり、不適切に取り上げられたりする問題でも、ライフ・スキルの授業では自分の考えをまとめ、それを表現する機会が与えられます。
例えば、アルメニアの首都エレヴァンのエレブニ地区にある第120学校では、HIV/エイズの感染の危険性について学ぶ機会が提供されていますが、これはこのあたりでも初の試みです。ライフ・スキルの授業は、子どもたちに健康的なライフスタイルを広めるのにとても役立っています。 さらに対話型授業は、子どもたちが将来必要とする、意見を主張したりコミュニケーションを図るスキルを磨いてくれます。
実際、2001年に行われた調査報告でのライフ・スキル授業の成果を見ると、「子どもたちが人生における困難や課題を肯定的に受け止め、それを乗り越えるには、ライフ・スキルが必要不可欠である」ということが分かり、ユニセフの主張が正しいことを裏付けています。その結果、2005年までにアルメニアの学校すべてでライフ・スキルに関する授業が行われることが決まりました。
ライフ・スキルの授業にメリットがあるとは言え、アルメニアの人々がみな最初からこれを歓迎していたわけではありません。例えば6年前、子どもたちが話し合っているテーマを知ったとき、第120学校の生徒の保護者たちはショックを受けました。
学校の先生であるカリン・ハルティウニアン先生さんの話によると、校長を含めて、教師のなかにはライフ・スキルを教えることに抵抗を示す人もいたそうです。環境だけでなく、人身売買やアルコール、薬物使用などの微妙な問題を題材にしていたので、カリン先生は「回し者」と糾弾されたのだそうです。
「初めのころは反対も多かったのですが、今は全くありません」とカリン先生は語ります。「授業のことを初めて知ったとき、保護者は文句を言いましたが、今は参加したいという人までいるほどです」
カリン先生はケーススタディを読み上げ、4つのグループに分かれて議論するよう子どもたちに指示を出しました。先生が使っているマニュアルは、ユニセフが製作したものです。
グループ討議の後、子どもたちはザクロの実を回して、順番に自分の意見を述べていきます。これには正解や不正解はありません。子どもたちは考えをまとめ、それを表現する。それが授業の狙いなのです。これこそカリン先生が重きを置きたいことなのです。
ザクロの実はアルメニアの象徴であるだけでなく、民主主義の象徴とも言われています。「硬い皮の下にはたくさんの種があり、その種はどれも皆平等なのです」とカリン先生は語ります。子どもたちは自分の権利だけでなく、他人の権利についても話し合う必要があるとも言います。
一党独裁制の過去と決別する長く、難しい道のりを歩み始めたアルメニアにとって、対話・参加型授業をすることはとても重要なことです。
「この授業では、自由な発想が許されます」と14歳のサムエルさん。「点数がつけられないので、後で自分の意見が間違っていたと言われる心配がないのです」
「自分の意見を聞いてもらえないなんて頭に来ますよ」と同じクラスの14歳、アヌシュさんは付け加えました。「意見を表現する権利を奪うことなんて誰にもできないはずですから」
2004年11月23日
ユニセフ・アルメニア事務所
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