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財団法人日本ユニセフ協会

世界の子どもたち

≪2003年3月5日掲載≫

子どもの性的搾取:生きるにはこの手しかなかった…
<ガンビア>

 売春を初めて3年。ビンタ(仮名)は、はきはきとした人なつっこい女性です。この道に入ったのは16歳のとき。19歳の今は女の子というより女性ですが、子どものときに受けた性的搾取による深い心の傷を負って生きています。両親と姉妹弟とでセレクンダという町の郊外、マンジャイ・クンダ地区に住んでいます。レストラン、バー、モーテルがあり、地元の男性、海外の男性を客にするセックス・ワーカー(売春婦)がたくさんいることでも有名な場所です。

 ビンタは、5人姉妹弟の中で、学校に行くことができた唯一の子です。世帯主である父親には今仕事がありません。生活が困難なので、セレクンダ市場で物を売っている父方の親戚からお金を借りて生活しています。

 ビンタが11歳のとき、たまたま母のお使いで行った店の近くで、ナイジェリア人の女性と白人に会いました。「手招きされたの。ナイジェリア人は自分をプリンセスだと呼んでいたわ。連れの男性は夫のデビッドだと」彼らのもとで住み込みで働かないかと言われたのです。少し戸惑いましたが、うれしかった、とビンタは言います。「白人の男性のもとで働けるなんて、すごく光栄だったんです。神様のおかげだと思いました。こんなにいい機会を捨てる人なんていないですよ」二人はさっそくグラスに残ったビールをあおり、ビンタに両親のもとへ連れて行くよう言いました。

 家事労働のメイドとして、住み込みで人を雇うことはバンジュール地域ではごく普通のことでした。ビジネスマン、専門家、働く女性、そしてお金持ちの女性に雇われることが多いのです。こうしたところで働くメイドは、隣国のセネガルのカサマスやギニアビサウから来ます。小さい子だと10歳位から。お金をためて物を買ったり、結婚衣裳を買うために貯金したりするのです。もちろん、学校には通っていません。学校のお金やそのほか必要になるお金を支払うために、雨期(夏の休暇の間)に仕事を探しに来る学生もいます。メイドは家族の雑用をし、女性主人のための使い走りをします。その家の主人やほかの男性に性的虐待を受ける話は後を絶ちません。

 ビンタのお母さんは、娘が外国人と庭に入ってきたのを見て喜びました。セレクンダに住む人たちは、白人の友達を持つことに誇りを持ち、子どもたちも白人からもらうおもちゃやプレゼントに大はしゃぎします。「お母さんは、私がしとめた『獲物』を見てびっくりしていたわ。家族の中で白人と友達になったのは私が初めてだったから」ビンタは胸を張って言いました。プリンセスは片言の英語で、訪問の目的、ビンタを即座に気に入ったこと、自分がどこに泊まっているのかなどを説明しましたが、ビンタには彼らが何を言っているのかさえほとんど分かりませんでした。

 「お母さんは、ほとんど涙ながらに、うちの家族がどれほど貧乏で困っているかを説明しました。お父さんが失業中であること、そして学校の費用も払えないことを訴えていました」とビンタ。プリンセスとその夫は、ビンタを住み込みで雇い、1カ月ごとに給料をあげると言いました。「話をするのはプリンセスのほうで、デビッドのほうは、たったひとつ質問しただけでした」

 ビンタのどこが気に入ったのかは、はっきり分かりませんでした。若さか、あるいはセクシーな体つきか。デビッドがしつこいからプリンセスは仕方なく彼女を雇ったのか。ビンタには分かりませんでした。言えることは、最初に会ったときから2人はビンタにすごく興味を持っていたということです。でも、ビンタにすれば、まさか学校に行くことすらできなくなる、とは思ってもいなかったのです。

 ビンタはプリンセスとデビッドのもとに住み込みで働きに出ることになりました。年月はあっという間に過ぎました。デビッドは、最初の週からプリンセスには内緒で小遣いをくれるようになりました。「1カ月後、プリンセスがいないのを見計らって、デビッドは私の部屋に来るようになりました。体中をなでまわすのです。でもそうやって“遊ぶ”ことを許しました。だって、たくさんのお金と洋服をくれて、プリンセスが私に辛くあたるのをやめさせてくれたから」

 母親は、娘とデビッドとの間の関係を察していましたが、何事もなかったかのように無視していました。ちょっとした遊びだと思って気にしなかったのです。ほとんどのガンビア人にとってはどうということでもありませんでしたし。それに相手は白人男性。「お母さんは白人の2人目の奥さんになればいいのよ、と言っていました。そして英国に連れて行ってもらえばいいって」ビンタは言います。

 そうこうするうちに、プリンセスがビンタとデビッドの仲を疑り始めました。ある日、デビッドがビンタの部屋で彼女を愛撫しているところを見てしまったプリンセスは、彼と大喧嘩になりました。それでもビンタがその家に留まっていられたのはデビッドのおかげでした。

 あるとき、デビッドは休暇で故郷に帰ると言って、国を出たまま戻ってきませんでした。そうしたら、ほかの男性(彼はおじさんと呼ばれていました)がプリンセスのところに転がり込んできました。おじさんは西アフリカの国から来た人でした。

 「プリンセスがいなくなると、おじさんはお金をもってきて、私の体を弄ぶようになりました。これはプリンセスも気づくことなく、長く続きました。私が処女を失ったのも、このおじさんのせいでした」ビンタは後悔しながら言いました。ビンタは、しかし、2人の関係を母親には言いませんでした。アフリカ人男性と関係を持つことに母親が賛成するとは思えなかったからです。

 プリンセスは海外に出かけ、おじさんは突然いなくなりました。今までの「支援者」をなくしたビンタは、家族と自分の生計を何とかしなければならなくなりました。残された道は売春しかありませんでした。プリンセスとその愛人たちが教えてくれたことが役に立つのではないかと思ったのです。ビンタは売春婦として働き出しました。外国人でもだれでも、相手は問いませんでした。

 ビンタは、自分の生き方をひどく呪いました。学校を退学せざるを得なかったことについては両親を恨んでいます。一番必要としているときにそばにいなかった父親のことも恨んでいます。売春の道を選ばざるをえなくなったことについては、母を恨むというよりは、貧困とこうした傷つきやすい子どもたちに対する安全ネットがないことを恨みました。

 ビンタの話はガンビアではよくある話です。貧困と消費社会の行き過ぎ、家族の安全ネットの欠如がガンビアの若い女の子たちをこうした性的商売に走らせてしまうのです。残念なことに両親や保護者はそれを分かっていながら、見過ごしてしまうのです。

 ユニセフ・バンジュール事務所とガンビア政府は、子どもの性的搾取のひどさと実態について共同調査を行っています。調査を基にした助言が出されれば、子どもの保護、性的搾取の防止、犠牲になった子どもの社会復帰、リハビリ、統合などを可能にする法律改正や政策の立案が期待されます。

 ユニセフは国内法と「子どもの権利条約」との整合性がとれるよう支援しており、そのほかにも、その国が批准する子どもに関連するそのほかの国際条約との整合性を求めています。ほかに、社会福祉省、若者と子どもの組織、子どもの保護同盟、そのほかのサービス提供者に技術的、財政的支援を行っています。ソーシャル・ワーカー、医療専門家、警察官、先生たちにも虐待をどう見分けるか、子どもの性的搾取とどう闘うかについて、研修を行っています。また、子どもの保護について学際的なマニュアルを作る計画も立てられているところです。

 ビンタの逃避は、社会福祉省の知れるところになりました。セネガムビア・ホテルの海岸でビンタに会ったヨーロッパ人女性がソーシャル・ワーカーに匿名の電話を入れたのがきっかけでした。小さい背格好のビンタが、観光客を相手に声をかけ、客探しをしているのが気になったというのです。社会福祉省はビンタと家族に面接をし、必要なカウンセリングを行い、ビンタがほどよく生活費を稼ぎ、小さな店を出すことができるよう計画を立ててくれました。ビンタの社会復帰、社会回復プログラムは間もなく始まります。

 ビンタはたまたま社会福祉省の目にとまり、支援を受けることができましたが、子どもがこのように性的搾取にあっている例はたくさんあるはずです。戦略、法案、プログラムが適切に立てられ、効率的に実行されていかなければ、ガンビアの多くの子どもたちは、人知れず、性的搾取に遭い続けてしまうのです。

2003年2月21日
ユニセフ ガンビア事務所 (バンジュール)

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