ベッキー、人生最良のスタートを切る
〜アマゾンのジャングルで貧困と闘う〜
<ペルー>
ベラ・マルガリータは、ペルーのアマゾン地域パリナリー州のサンタ・リタ・デ・カスティーヤに住む28歳の母親です。マラニョン川沿いの小さな農村。電気も、保健ケアも、きれいな水も、衛生サービスもありません。
ベラがここサンタ・リタに移ってきたのは、妊娠したと分かり、赤ん坊の父親ハイメと一緒に暮らすためでした。21歳の彼はまだ両親とその孫と一緒に住んでいました。ここに移ってからの生活はベラにとっては悪夢のような毎日だったのです。
「家には台所はありましたが、家と言えるものではありませんでした」とベラ。「雨水をためる洗面器を置いた小さな空き地といった感じで、雨水にはいつもドロと蚊の死骸が浮かんでいました」台所は粗末な木でできていて、周りは囲ってあるものの、ハンモックを吊るして寝るといった具合です。ベラは毎日、魚を釣って、猟をし、家族のために水くみに行きました。
仕事は体力的にもきつく、粗末な食事や栄養不良に加え、家族からも、ほかの誰からも協力が得られない毎日は、身重のベラにとっては辛い日々でした。ハイメは定職がなく、たいがいは家を留守にしていました。そして、家にいるときは、ベラが魚をとりに川に行くのはほかの男と浮気をしているせいではないかと言い、彼女に暴力を振るうのでした。
ベラに助け船
でも、妊娠7カ月のとき、ベラに転機が訪れました。シスター・ロザに出会ったのです。シスターは、地元の教会組織ブエン・イニシオ(「良いスタート」という意味)の一員でした。チームにはほかに看護師、保健技師がいます。3人ともブエン・イニシオで研修を受け、ほかの保健普及員やコミュニティの動員役とともに、赤ん坊の両親、家族に働きかけをおこないます。ユニセフは0〜3歳の子どもへの「愛情あふれる育児」を推進するために、研修と財政面で支援をおこなっています。
ブエン・イニシオのチームは小さな子どもに対する保健、栄養、衛生、知的刺激といった包括的なサービスを提供しています。そのために、3歳未満の子どもと妊産婦を探し出し、鉄分やビタミンAの補給、ORS(経口補水塩)の提供をおこなったり、リスクの高い家族を訪問し、1対1で助言をしたり、心理社会的なカウンセリングを行ったりしています。そのほか、ラジオ番組やコミュニティ新聞を通して、地元に情報を提供するキャンペーンも繰り広げているのです。
ブエン・イニシオが提供するサービスのおかげで、地域の500世帯が恩恵に預かっています。さらに、より遠い地域に住んでいる1000家族が、広報活動の対象になっています。
ベラは、赤ん坊の頭が下に向いていないと知ると、実は、頭痛が度重なり、食事もろくにとれないないのだ、とシスターに打ち明けました。「食べようにも、食べるものがなかったりしたんです」とベラは思い出しながら言います。シスター・ロザは妊産婦検診に行くようすすめましたが、ベラは医療費が払えないために、怒られるのではないかと怯えていました。しかし、結果的に万時がうまくいき、カウンセリングを受け、保健面でのアドバイスももらい、鉄分の補給も受けることができたのです。そして、頭痛も消え、自尊心もよみがえりました。
2001年1月1日の朝、出産の徴候が見えたベラは、シスター・ロザに連れられて保健センターに行きました。数時間後、2800グラムの女の子、ベッキーが生まれました。出産時の体重は比較的軽かったのですが、6カ月間、母乳育児をしたおかげで今や健康に育ち、保健センターで定期的な診察を受けています。「アドバイスを受けたことはすべて行動に移しているのよ」とベラ。
ベラはベッキーの将来を気にしています。ハイメはまだ定職が見つからず、ベッキーのために物を買うこともできません。ベッキーが着る物はすべてブエン・イニシオからの贈り物です。「ジャングルに住む利点は、ほとんど着る物がいらないことかしらね」とベラは言います。
ベラは、家を建て、ベッキーに質の高い教育を受けさせてやりたいと思っています。そうしてベッキーが尊敬され自信を持って自分のことを表現できるようになってほしいと思っているのです。ベラとハイメは小学校を終えていません。「ベッキーが重要な人物になれればいいなと思っているんですよ」。
残念ながらベラの夢は夢のままに終わってしまう可能性が高いでしょう。地域一帯のこの貧しさの中で、夢を実現するのは困難です。でも、ひとつだけ確かなのは、ブエン・イニシオがベッキーに人生最良のスタートを切らせることに成功し、これによってベッキーは考え、学ぶ力を伸ばし、少なくとも辺境地ジャングルでの貧しさに対処するだけの力は身に付けられるようになる、ということです。
2003年7月, サンタ・リタ・デ・カスティーヤ発<ペルー>
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