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財団法人日本ユニセフ協会

世界の子どもたち

タイの僧侶
HIV/エイズのケアと予防を語る
<タイ>

ジュネーブ、2001年11月23日(ユニセフ)

プラ・アティカルン・ソミア・ブニャカンモさんは、タイ北部を本拠地とするマエチャン仏僧ネットワークの一員です。このネットワークは、タイのサンガ・メッタ・プロジェクトに属しており、HIV/エイズの予防とケアにあたる仏僧に技術的な支援を行なっています。
サンガ・メッタ・プロジェクトはユニセフおよび国連エイズ計画の支援と資金援助を受けています。

この僧侶とのインタビューは、スウェーデン国際開発機関が主催したHIV/エイズ関連会議への出席にあわせて、ジュネーブに立ち寄った際に収録されたものです。サンガ・メッタ・プロジェクトのプロジェクト・マネジャーであるローレンス・モーンドが立ちあい、通訳を務めました。

◆Q&A◆

Q: マエチャン仏僧ネットワークとはどんなものですか?それはどこを本拠地として、いつから活動しているのですか? 参加している僧侶は何名でしょう?尼僧は含まれているのでしょうか?
A: このネットワークはタイ北部、チェンライ県のマエチャンを本拠地として、マエチャン地域の高僧が設立しました。この僧侶がHIV/エイズのセミナーに参加して意識を高め、HIV/エイズの予防とケアにあたるネットワークを作るよう、地域の下級僧侶に団結を呼びかけたのです。設立から今年で10年になり、87名の僧侶が現在活動しています。マエチャン地域に尼僧はいないので、ネットワークにも女性はいません。マエチャン・ネットワークは地元の病院と協力体制にあり、病院に新しい棟が建設されたときは、僧侶たちも資金集めを行ないました。新病棟の建設への参加がきっかけとなって、私たちはHIV/エイズをはじめとする病院の活動に、より積極的に参加するようになりました。現在4名の僧侶が定期的に病院を訪れ、AIDS患者にカウンセリングなどを行なっています。
Q: あなた自身は、HIV/エイズ関係の活動にたずさわってどのくらいになりますか?ま たその動機は?家族に患者がいるのですか?
A: 私は8年間活動しています。関わるようになった理由は、ネットワークの活動が、地域における僧侶の役割と義務にぴったりだと思ったからです。仏僧は地域の人びとの苦しみをやわらげ、幸福を後押しする役目があるのです。私の家族は誰も感染していません。ネットワークでは活動の一環として、エイズフリー・ファミリーの証明書を発行しています。家族全員で、感染の危険が高い行為はしないことを誓うと、その証明書がもらえるのです。この試みは、地域の行政代表と病院長、それに僧侶の代表が共同で6年前に始めました。寺院の仏像の前で、危ない行ないを避けると誓った一家には、この3名の署名が入った証明書が交付されます。これは人びとにとって、とても大きな意味を持つのです。
こうした誓いは、親族全員に効力が及ぶわけではありません。親戚のなかには、首都など遠くに働きに出て、そこでHIVに感染する者もいるでしょう。しかし近縁で、この地域に暮らしている者は、みんなHIVに感染していないことになります。この試みはマエチャンだけのものです。
Q: HIV/エイズだけが、マエチャン住民の最大の健康問題なのでしょうか?
A: 私たちのプロジェクトでは、HIV/エイズだけが健康面の問題だとは考えていません。
もちろんHIVに感染し、エイズに苦しんでいる人はたくさんいます。
しかし地域の人びとを苦しめているのはエイズだけではありません。マエチャンはミャンマーとの国境に近く、たくさんの民族集団が混在しています。正規の書類を持ち、合法的に暮らしている集団もあれば、身分証明書がなく不法に滞在している集団もあります。そのためマエチャンには、社会経済的な問題も山積みです。また薬物常習も深刻で、多くの住民が苦しんでいます。これらの問題すべてが地域にのしかかっており、僧侶はそうした苦痛を軽減するために努力しなければなりません。
Q: HIVへの感染を防ぐには、教育がとても大事だと思われますね。ネットワークとしては、教育にどのくらい重きを置いていますか?とくに若い人たちには、どんな形で教育を行なっていますか?
A: 教育はやるべきことの一部にすぎません。意識の向上も必要です。エイズの知識がいくらあっても、自分が危険な行為をしていることを意識せず、行動を変える気持ちがないかぎり、感染を防ぐことはできません。つまり教育と意識向上の両方を推し進める必要があるのです。そのために私は、学校やラジオ番組を通じて啓蒙活動を行なっています。
Q: あなたの活動は、どこから資金が出ているのですか?ネットワークでは、困っている子どもや女性たちのために資金を割り当てていますか?
A: ネットワークは、最北地域公衆衛生局から資金提供を受けています。かつてはタイ=オーストラリア・エイズ予防ケアプログラムからも資金提供がありました。私自身の活動には、資金面の後ろ盾はありません。僧侶として儀式を執り行なうとお布施がもらえるので、それを使っています。ラジオ番組用に、カセットテープを寄付してもらうこともあります。ラジオ局も地域のために無料で録音してくれます。すべて協力で成り立っているのです。マエチャンには中国寺院があって、若い僧が修行をしています。彼らが属する民族集団は、9つもあるのです。彼らはタイ語も操れるので、それぞれの言語に翻訳してもらってテープをで作ります。こうして作ったテープは、修行僧たちがそれぞれの地域に配布します。
地元の病院と提携することで、私たちはユニセフからも資金援助を受けられるようになりました。病院には、HIVに感染したりやエイズを発病したりした子ども、エイズ孤児の記録があるので、病院と協力することで、支援を必要とする子どもたちを選びだし、ユニセフから得た資金を振り向けることが可能になります。
Q: あなたが活動する地域では、HIV感染率は減少していますか?
A: マエチャンでは、HIV感染者の数は減っており、それにはいくつか理由が考えられます。まず、流行が始まった初期に感染した人が、すでに亡くなっていること。そして、私たちの活動が効果をあげて、HIV感染者が体力を維持できるようになり、地域外に働きに出ていること。そしてもちろん感染する人自体も減少しています。これも活動の成果の1つです。エイズが流行しはじめたとき、マエチャンはチェンライ県でもHIV感染者がいちばん多い地域でした。現在は14番目です。しかし最近では、薬物使用が深刻な問題となっており、コンドームなしでセックスする若者たちの感染率が高くなっています。
Q: エイズになった人たちを助けるとき、仏僧だからこそ果たせる特別な役割があるので しょうか?
A: 一般の人びとの生活は、誕生から死まで僧侶と深く結びついています。仏教および仏僧は、人生のあらゆる段階で関わってくるのです。人びとは僧侶を信頼し、尊敬しています。地域のなかで、僧侶はこのように信頼され、尊敬を受けているので、僧侶の活動が効果をあげるのです。ここタイでも、僧侶たちは特別な訓練を受けて、山岳地帯や国境周辺に派遣され、少数民族の人びとに布教活動を行なっています。この訓練を通じて、僧侶は言語やコミュニケーション能力を身につけ、指導技術を学び、媒体を作りだしたり、資源を有効活用する方法を会得しています。
Q: マエチャン・ネットワークは、他の同様の組織とどの程度連携しているのですか? タイ全土で、HIV/エイズ関係の活動に従事する僧侶は何名くらいいるのでしょう?
A: 現在私たちは、活動範囲を地域から地方レベルに拡大しようとしています。地方を代表する高僧の呼びかけを受け、地方の僧侶がHIV/エイズのケアと予防活動に参加することになっており、そのための支援とトレーニングをマエチャン・ネットワークが提供しています。マエチャンの僧侶は、他の地域にもトレーナーとして派遣されています。さまざまな地域や村で活動する小さな組織が、密接に連絡を取り合って、ともに活動を展開しているのです。私自身は村単位で活動しています。村にあるすべての寺がHIV/エイズ活動を行なっていますが、僧侶全員が参加しているわけではありません。全国的に見ると、少なくとも2,000名の男女僧侶が、HIV/エイズのケアと予防に携わっています。
Q: HIV/エイズの撲滅をめざす努力のなかで、いちばん誇りに思うことは何ですか?
A: 誇りに思うかどうかは問題ではありません。これは私たちの責任です。もし誇りを感じれば、僧侶としての責任を果たせるということです。大きな希望や野望があるけではありません。ひたすら自分の責任を果たそうと努力します。それがうまくいけば満足ですし、だめなら残念に思うのです。
Q: タイはHIV/エイズの問題を解決できるでしょうか。それとも単に抑制するだけでしょうか。
A: 問題は解決します。なぜならすべてのものごとは、生じては消えていくものだからです。エイズも一時的なもので、永遠に続くことはないでしょう。たとえばここに、HIV感染者が1人、非感染者が2人いるとします。感染していない2人が適切な行動をとっていれば、感染せずにすむ人間が2人増えるわけで、非感染者が増えれば、それだけ感染者も減ります。しかしそれには時間がかかります。エイズ問題を解決するいっぽうで、悪化を食い止める努力も続ける必要があります。すべてはひとりひとりの行動にかかっています。エイズは人から人へ感染しますが、感染者の数が減れば、感染率も低くなり、いずれゼロになる日が来るはずです。

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