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財団法人日本ユニセフ協会

世界の子どもたちは今

ウガンダ:世界一、革新的な技術が集まるところ

【2013年2月8日 ウガンダ発】

2011年12月に日本ユニセフ協会の日本ユニセフ協会の国際協力人材養成プログラムを通じ、ユニセフ・ウガンダ事務所にインターンとして派遣され、現在はコンサルタントして同事務所で勤務している小宮理奈さんからの報告。

© UNICEF/R.Komiya
カラモジャ地方のとある商店においてあるソーラーパネル

飛行機のタラップを降りて、私は初めてアフリカの大地を踏み、その空気を吸った。高地にあるウガンダの首都カンパラは、アフリカといえども気温は大して上がらず、気温はせいぜい23℃程度。空気はぬるく乾いており、少し埃っぽい。雨季には、雨が大気中に舞う砂埃を全部流してくれるので、晴れているときはとても美しい空が見られる。どこまでも続く青い空に、白い雲。強い太陽の光を受け、様々な緑色の木々が土埃舞う茶色いコンクリートに濃い影を残す。私はすぐに、アフリカに存在する自然の美しさに心を奪われた。
ウガンダへの派遣が決まるまで、私はウガンダについて何も知らなかった。おそらく多くの日本人にとって、ウガンダは、遠い世界にあるアフリカの一国にすぎないだろう。ウガンダとは、東アフリカにある小さい内陸国で、周りを右横から時計回りに、ケニア、タンザニア、ルワンダ、コンゴ民主共和国、南スーダンに囲まれている。1962年に英国支配から独立を得たウガンダは、1986年に現大統領のムセベニ氏が政権を取るまで、数々の暴動やクーデター、内戦を経験している。1971年にアミンがクーデターを起こしてから、1986年に市民戦争が終わるまで、およそ80万人のウガンダ人が殺された。また、ウガンダ北部のアチョリ地方では、1986年に始まった、ジョセフ・コニーを中心とした神の抵抗軍(LRA)との内戦により、アチョリに住む80パーセントを占める18万人が家を失い、国内避難民となった。推定3万人の子どもがLRAにより誘拐され、子どもの兵士や性的な奴隷とされた。

紛争が終わり、海外からの援助や投資が盛んになっても、人々の生活は苦しいままだ。小学校を卒業できるのは、わずか56パーセント。平均寿命は54歳。一人当たりのGDPは、日本の33,805ドルに比べて、1,151ドルに過ぎない。日本に生まれ育った私には信じがたい過酷な生活環境が、ウガンダにはある。

しかし、貧しく、国家が脆弱だからこそウガンダに存在する意外なものがある。それは技術だ。
ウガンダ北東部、ケニア国境沿いのカラモジャ地方は、ウガンダの中でも貧困率が高く、80パーセント以上の人が1ドル以下の生活を強いられている。そんな地方で数多く見られたのは、太陽光発電技術。すなわち、ソーラーパネルの存在だった。
ウガンダにおけるエネルギーの92パーセントは薪などのバイオマス燃料で、電気が占めている割合は2パーセントしかない。88パーセントの人々が地方に住んでいるにもかかわらず、国営電力会社が配給している電力の恩恵を被れるのは、1パーセント未満。田舎に行くと、ほとんど電気がない。経済成長に伴い、電気の需要が増えている現在、どのように電力を確保するかが大きな問題となっている。ここで注目されたのがソーラーパネルだった。日本の平均年間日照時間が、1500時間から2000時である一方、ウガンダの平均年間日照時間は2500時間から3200時間。太陽光発電はウガンダに適した技術体系である。素人でも少し勉強すれば簡単に使える技術のため、政府や援助機関は太陽光発電を普及させようと躍起になっている。実際、ウガンダ政府は2001年に「地方における電気の戦略計画(RESP)」を打ち出し、太陽光発電に力を入れることを決定した。(2012年までに、世界銀行や民間会社の援助を受け、8万もの太陽光発電システムを導入することを目標にしている)。その結果、町を歩けば、学校や保健所に設置されているソーラーパネルを簡単に見つけることができる。

© UNICEF/R.Komiya
小宮理奈さん略歴:早稲田大学法学部卒業。ロンドンスクールオブエコノミックス社会学部人権修士課程修了。2011年12月に、日本ユニセフ協会の国際協力人材養成プログラムを通じ、ユニセフ・ウガンダ事務所にインターンとして派遣され、現在はコンサルタントして同事務所で勤務。

太陽光発電の他にも、日本ではあまり見ることのできない技術がウガンダにはある。特に私が驚いたのは、携帯電話を利用する様々な技術である。
まず、日本にはない技術として、携帯電話のショートメッセージ機能を使ってお金を融通する、いわゆるモバイルマネー技術が挙げられる。道沿いによく見受ける小売店などが、モバイルマネーのエージェントとなって、現金のやりとりを代行する。このことにより、送り手と受け手は、携帯電話上のショートメッセージを送り合うだけで金融取引ができる。この携帯電話技術は、個人で銀行口座を持たない貧困層でも安全な形で家族や取引先に送金できる点から、アフリカ全土で爆発的に浸透した。ウガンダには、モバイルマネーサービスを提供している通信会社が5社あり、インドおよびナイジェリアの9社についで世界で2番目の多さを誇る。主に21歳から40歳までを対象として行われた2010年の調査によると、調査対象者の44パーセントがモバイルマネーを使って金融取引をしているという。
「最初はペーパーベースでお金の貸し借りをやっていましたが、モバイルマネーの存在を知って、すぐに使い始めました」そう言うのは、ウガンダで独自の農畜産業融資プロジェクト(マイクロファイナンス)を行う、在ウガンダ歴4年の宮本和昌さん。宮本さんが対象としている農家150件中ほとんどが、モバイルマネーを使って宮本さんに資金を返済するという。「銀行送金よりも手数料はかかりますし、金融機関ではないため信頼性は劣りますが、交通の便の悪い地方に住む人にとっては、便利なツールだと思います」

また、日本にはない便利な携帯電話を使った技術として、出生登録技術が挙げられる。日本では、出生届と死亡届は必ず提出しなければならない。しかし、途上国ではこの当然のことが行われていない。ウガンダでは、毎年推定150万人の子どもが生まれるが、出生登録がされるのは、5人に1人である。結果として、ウガンダでは正しい人口のデータをとることが難しい。また、子どもたちは、教育や福祉などの社会サービスを受けることができなかったり、法律上禁止されている16歳以下での強制結婚や、児童労働の危険に晒されている。子どもの保護のために重要な証明となる出生登録を促進させるために、生み出された技術が、携帯電話を使っての出生登録およびデータ管理である。この「Mobile VRS(モバイル・ヴィーアールエス)」と呼ばれる技術を使用するのは、村の酋長や病院関係スタッフ。彼らは、政府から配られた携帯電話を使って、生まれた子どもの出生番号、子ども、父親、母親の名前、生まれた日付と場所、父親と母親の国籍にまつわる情報をショートメッセージでデータベースに送る。それらの情報はオンライン上にそのデータが保存され、出生登録は完了する。保健省は随時データをオンライン上で見ることができ、様々な福祉政策や計画を立てられるようになった。現在、67副州でMobile VRSが実施されており、今までに、100万人以上の新生児が出生登録された。

オンライン上で何人の子どもがどこで生まれたか分かるようになっている

 同じように、「人を登録する」という携帯電話の使い方として、難民の登録を行う「Rapid FTR(ラピッド・エフティアール)」が挙げられる。Rapid FTRとは、人道支援を行っている国際機関やNGOが、災害や紛争時などの緊急事態において、親と離れ離れになってしまった子どものデータを効率よく集めるための携帯電話アプリケーションだ。今までは、親と離れ離れになってしまった子ども一人を登録するために、30分から45分かかっていた。これでは、1万人の子どもを登録するために、一人の援助関係者は11ヶ月間、一日24時間働かなければならないことになる。一方で、Rapid FTRのアプリケーションを、携帯に取り込み使用することで、子どもの情報を10分から15分で簡単に登録することができる。情報はオンラインデータベースにすぐに送信されるため、情報が記載された書類を失うなどの心配もない。この技術により、効率良く子どもの情報をデータベースに登録し、その情報に基づき、子どもの家族を特定したり、子どもへのケアを提供したりできるようになるわけだ。この画期的な技術は、緊急事態における子どもの保護の効率化を図るために、ニューヨーク大学で2010年に開発された。そして、この技術が世界で始めて実用されているのが、ウガンダなのだ。まだテスト段階であり、多くの子どもたちが登録されたわけではないが、今後、世界のロールモデルとしてウガンダが注目されることは間違いない。

日本には存在しない携帯電話を使った技術が、ウガンダにはまだまだある。若者の意見を政策に反映させるU-report(ユー・レポート)も、携帯電話を使ったユニークなイノベーションだ。
U-reportは、ウガンダにいる若者が地域でどのようなことを経験し、どのようなことを考えているか発言する機会を与えるために開発された。U-report の使い方はいたってシンプル。電話番号「8500」にメッセージを送って、その場でU-reportの登録は完了。登録した若者は、週に1回ほどアンケートがショートメッセージで登録者に届けられ、登録者はその答えを「8500」に返信する。アンケートの内容は、「HIV/エイズをなくすために国は何をすればいいか」や「政府は女児を守るための努力を十分に行っているか」など社会問題に関するものが多い。投票や集められた結果は、「8500」を通じて登録者に伝えられるとともに、ウェブページにも載せられる。U-reportの登録者は2012年12月現在16万5千人に上る。

誰もがオンライン上でアンケートの統計結果を見ることができる

U-reportで集められた若者の意見やアンケートの結果は、随時、国会議員に提出されるため、U-reportはウガンダの政策決定にも大きな役割を果たす。国家予算を何に費やすべきか、どのような政策が必要か、などについて、U-reportはウガンダの将来を担う若者の意見を聞く機会を与えているのだ。

貧しさから人々を救おうとする熱意、努力がウガンダに集まり、結果として技術が生まれる。インフラが整えられていないからこそ、太陽光発電技術や、携帯電話を使った技術が発展するのだ。「かわいそうなアフリカ」そんなイメージが先行しがちなウガンダだが、技術革新を通じて、人々の生活は確実に良くなっている。人々を貧困から救おうと考える、技術者の想いがウガンダにある。

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ここに記載した携帯電話技術のうち、mobile VRSおよびU-reportはユニセフ・ウガンダ事務所が開発した技術であり、Rapid FTRはニューヨーク大学がユニセフのために開発したものである。

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