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ベトナム:包括的な衛生プログラムが成果を生む【2011年5月5日 ベトナム/ヴィン・タン発】 ヴィン・タン村は、ベトナム南部のメコン・デルタに広がる稲作地帯に位置しています。ある晴れた日、村人たちは、地元の保健員たちが主催した特別な行事に参加するために集まってきました。 「今日は、みなさまに、特別なものをお見せしたいと思います。このコミュニティで大きな問題となっている下痢性疾患の原因と対処法です」にぎやかな聴衆を前に語るのは、保健員のビンさんです。でも、本題に入る前に、ビンさんは村人たちに村の地図を描くように言いました。 「恥ずかしい道」
志願したひとりの村人が地図を描いていきます。村の主要な道路は糸で、地元の川は青いリント布で印をつけていきます。田んぼは葉っぱです。 ビンさんが、ユーモアたっぷりに聴衆に語りかけると、次から次へと村人たちが名乗りを上げ、地図にランドマークとなるものを、あれこれ追加していきます。印は紙と砂岩でつけます。家、仏教寺院、学校・・・。 いよいよ本題です。「みなさんは、毎日、何かしらの食べ物を口にしますよね? で、それを排出しているはず。どこでやってますか?」とビンさん。聴衆はばつが悪そうです。でも、それも束の間、聴衆からくすくす笑いが聞こえます。「みなさん、どうしましたか? さあ、この黄色い粉を手にとって、どこで用を足すか、地図に印をつけてみてください!」 村人たちは次から次へと、自分たちが排泄する場所に印をつけていきます。後に、村人たちは、田んぼの回りで、排泄の場所となっているような場所を見てくるように言われます。そういう場所こそ、食べ物や水に細菌が混ざる場所なのだ、というのです。 この「恥ずかしい道」をたどってみたことにより、村人たちは、自分たちの排泄習慣がどのような形で健康や福祉に被害をもたらしているのかを、実感として感じ取ることができました。非衛生的な習慣のせいで病気になり、それがもとで医療費がどれくらい多くかかってしまうのかという試算も行われました。 「村の『恥ずかしい道』をたどってみたおかげで 、田んぼで用を足すと、いかにリスクが高いかが分かり、ショックでした」と稲作農家のヴォー・ヴァン・ンガンさん。「おかげで、子どもたちが健康に育つために注意すべきことが良く分かりました」 彼は、1カ月前に600米ドル近くを費やして、自分の家にトイレを設置したばかりです。「女房が路上で物売りをしているのですが、稼ぎはあまりありません」と彼。「もちろん、トイレがいかに高いかを実感しましたが、その価値はあると思います」 コミュニティ主導型のプログラム
ヴィン・タン村で実施されたワークショップは、ユニセフとベトナムの3つの省のパートナーが、試験的に行っている包括的衛生プログラムのひとつです。ほかの国ではすでに成功をおさめています。 ヴィン・タン村では、5世帯に2世帯しかトイレを設置していません。安全な飲み水の確保の面では、大きな前進が見られるベトナムですが、水と衛生に関してはまだ出遅れています。特に、国の人口8800万人の70%が住んでいる農村部では、遅れが激しくなっています。 「コミュニティ主導による包括的な衛生(CLTS)」プログラムは、ここベトナムで2年目を迎えていますが、これにより、何百ものコミュニティが、自らの衛生状況や習慣を分析するようになりました。各コミュニティは、これを終えると、「外では用を足さない」コミュニティとしての宣言がもらえるよう、研修を受け、必要な処置をとっていきます。 「CLTSプログラムでは、コミュニティ自身がオーナーシップを持ち、この手法を積極的に展開しています。これにより、衛生状態が良くなるだけでなく、自尊心も培われています」と語るのは、ユニセフ・ベトナム事務所の「子どもに優しいプログラム」の州担当責任者、ラジェン・クマール・シャルマさんです。彼の部署では、ベトナムの6つの省で、子どものための包括的なサービスの提供を行っています。 「目から鱗」
ヴォー・ティー・ミットさんはヴィン・ビンに住んでいます。ヴィン・タンの隣村です。すでに、6カ月前に行われた会合で衛生の重要性を知り、近代的なトイレを設置しました。「目から鱗でした」と彼女。「田んぼで用を足すなんて、もう絶対にしないわ!昔の習慣がいかにひどかったか分かっているから」 「コミュニティ主導型の包括的衛生」プログラムを通して、農村部の「包括的衛生」は格段に向上しています。2009年以来、5省の33の村で「外で用を足さない村」が宣言されました。この成功に基づき、ベトナム政府は、ほかの地域でもこのプログラムを導入し始めています。
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