【2018年6月26日 東京発】
日本ユニセフ協会は2018年6月26日(火)、都市地理学の権威で、子どもにやさしいまちづくり事業(CFCI=Child Friendly Cities Initiative)にも造詣が深いリア・カーステン博士がオランダから来日する機会を活かし、千葉大学木下勇研究室と共同で、子どもにやさしいまちづくりミニシンポジウムを開催致しました。また、日本ユニセフ協会の子どもにやさしいまちづくり事業の進捗、今後の展開についての報告もなされました。
リア・カーステン博士
「子どもにやさしいまちづくり:オランダと日本の研究成果と実践の交流に向けて」
©日本ユニセフ協会/2018 |
カーステン博士は都市部での地理学の研究を最近のテーマとしており、その観点から子どもにやさしいまちづくり事業を見ると、都市部は子どもを疎外しているように見受けられますと、述べました。住宅・道路・近隣・学校などの場所で子どもの日常から外遊びを奪う状況は、子どもにやさしいとは言えません。都市部と子どもというのは互いに排他的な概念であるように思えますと、オランダの研究や実践事例から説明をしました。そして、オランダの経験が、日本でのCFCIの実践にうまく生かさる素晴らしいと思いますと、期待を込めました。オランダでの経験から見えてきたことは、都市部と子どもという対立概念を調和することにより子どもにとってやさしいまちが出来るということであり、それの重要な要素には、「住宅」、「学校及びその近隣」、「外遊び」そして、「家族での外出」の4つがあると話しました。通常、都市部に於いて子どものことは、当然に考慮される要素として扱われることは少なく、いつも論争の的となっています。これは世界的に普遍的に見受けられます。都市計画を行う際には、子どもの存在は無視されるかあるいはほんの片隅に置かれるかです。子どもにやさしいまちをつくるというのは、子どもたちの毎日の生活全般を扱うことであり、そうした生活全般には、前述の4要素等が含まれます。私たちは、都市部と子どもを調和させることを大切にしなくてはいけませんと、締めくくりました。
木下教授 ユニセフ協会のCFCIの進捗
©日本ユニセフ協会/2018 |
第2部では、日本での子どもにやさしいまちづくり事業の進捗及び今後の展開等に関して扱われました。先ず、日本ユニセフ協会CFCI作業部会部会長の木下勇氏(千葉大学大学院教授)から、CFCIとは何かを、その沿革から今日の世界的状況等に関して説明がなされました。次いで、日本でのCFCIの取り組みの背景及び、日本ユニセフ協会CFCI作業部会での討議の概要が報告されました。ユニセフ本部が提唱する「子どもにやさしいまち」の9つの構成要件を日本の状況に合うように修正を加え、日本型モデルの構成要件が作成された事も報告されました。今後、この日本型CFCモデルの構成要件の有益性に関し日本の自治体で検証作業に入る予定である旨も発表されました。
粕川秀人氏 :東京都町田市の取り組み
©日本ユニセフ協会/2018 |
町田市は長期計画の後期5か年(2017年~2021年)計画を促進しており。重点事業として子どもにやさしいまちづくりを進めています。その中心は「子どもの居場所づくり」と「子どもの参画」です。「子どもの居場所づくり」では、子どもたちが自ら居場所を選べる「まち」を目指しています。まちへの愛着を高めること事ができ、住み続けたいと思うまちになると思うからです。また、市内5か所の子どもセンターに「子ども委員会」が設置されており、運営に主体的に関わっています。そして、公園の一部を利用して冒険遊び場を開催し、自分の責任で自由に遊べるようになりました。その結果子どもたちの利用が活発になりました。さらに、「放課後子ども教室事業」では、体育館を活用した学内遊び、体験活動、学習活動など多彩な活動展開となっています。次に、「子どもの参画」の取り組みでは、子どもたちが自ら考え、決めることができる事を中心に取り組みを行っています。他に「市長と語る会」や「市民参加型事業評価」に、高校生にも評価人として入ってもらう取り組みも実施しています。
宮里 和則氏: "子どもを真ん中にしたまちづくり"
©日本ユニセフ協会/2018 |
NPO法人「ふれあいの家おばちゃんち」のミッションは、子どものやさしいまちを作ることです。そのミッションの実現のための一つとして「東海道忍者修業の旅」と題した取り組みを行っています。この忍者修業の旅は東京品川の湾岸部に建てられた、八潮団地で始まりました。この忍者修業の旅が始まる少し前までは、日本は世界で一番安全な国と言われていました。しかし、1988年から89年にかけて起きた大きな事件によって、その状況が一変してしまいました。子どもたちの姿が一斉に町から見られなくなりました。子どもたちとまちとの関係を取り戻したいという中で生まれてきたのが、忍者修業の旅です。団地と言うのは、密閉性の高い空間です。しかし、人々とつながりたいという思いを待っている人たちもとても多い場所です。子どもたちを守るには、家の中に閉じ込めるのではなく、まちの人たちとたくさんつながり、子どもたちを見守るまちを作るのがポイントです。そこで誕生したのが、この忍者修業の旅でした。子どもたちも大人たちも熱狂しました。これは子どものためだけのイベントではないからです。子どもを真ん中にしたまち作りです。子どもたちがもっとまちで遊び、まちの幸せを作っていかなければなりません。
カーステン博士はパネルディスカッションの冒頭で、「粕川氏と宮里氏の話を聞き、日本でも様々なCFCIの取り組みがある事を知ったと同時に、日本でも子どもの居場所が無くなってきているのはオランダと同様である」と述べました。そして、「似たような状況ではあるが、子どもの権利についての考え方が異なるので、解決策は異なると思う」と付け加えました。
この子どもの権利について、「オランダでは子どもの権利は認められているのでしょうか」との木下教授からの質問に対し、カーステン博士は「子どもの権利に関しては、法整備はされています。但し、多くのオランダ人は子どもを甘やかしてはいけないと考えており、子どもに権利がある事は当然ですが、親の権利、社会の権利もあると考えております。子どもは親の下でしつけを受け、規律を守る事を学ばなくてはならないのです」と答えました。そして、「子どもの権利については、オランダでも法的な面と個人的な面との感覚に少しずれがあるのかもしれません」と説明を加えました。
さらにオランダでは、子どもを社会にとっての資源として扱う考え方が出てきていることに言及し、「子どもたちは創造性に富み、そして社会的なスキルを持っており、子どもたちの才能を真の意味で扱う事が出来れば都市部はより良いまちになります。子どもたちは社会に参加者として貢献する存在となります。こうした側面は、子どもが参加している町田市の事業でも見受けられます」とカーステン博士は語り、町田市で子どもが事業評価に参加しているのは、子どもの社会貢献の具体的な事例だと評価しました。町田市の粕川氏は、「この取り組みは、町田市の高校生が市の事業評価に参画することで、市の事業に関心をもってもらうために行っている」と述べ、関心が無いのに、子どもたちに参画を求める事は出来ない、との事業背景が説明されました。
また、日本での子育ての側面に関し、宮里氏から「最近は家族中心になって来ており、いわゆる『まちのオジチャン』 、『オバチャン』の存在が少なくなって来ています。自分の子ども、親戚の子どもしかかわいがらないのは、CFCIの実践における課題として考慮しなくてはならない点です。自分の子どもだけでなく他人の子どももかわいがるような『オジチャン』、『オバちゃん』の存在が人間関係を豊かにするのに大きな役割を果たすのではないでしょうか」との見解も出されました。
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