2021年12月27日東京発
2021年12月1日(水)、ユニセフ報告会『子どもたちの栄養危機 ~コロナ禍の危機から子どもたちを守るために』をオンラインで開催しました。
12月7-8日に日本で行われた「東京栄養サミット2021(Nutrition for Growth Summit 2021)」の公式サイドイベントとして開催した本報告会では、栄養分野で活動するユニセフ日本人職員がアフリカや中東から参加し、各国の子どもの栄養の現状や新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響、ユニセフの活動について報告したほか、企業や国内の専門家の参加も得て、日本を含めた先進国の子どもの栄養課題や企業が果たしている役割や取り組みについてもご報告しました。
開会ご挨拶
UNICEF東京事務所代表 ロベルト・べネス
非常に多くの方が、子どもの栄養と保健に関する権利に関心を寄せてくださっていることを、大変うれしく思います。
「東京栄養サミット2021」は、食習慣・食料システム・健康分野の連携を強化し、2030年までにあらゆる形の栄養不良を終結させるための歴史的機会となります。ユニセフは、本サミットのアウトリーチグループの中心的なメンバーとして、各国政府の栄養に関するコミットメントの作成を支援し、公的機関や民間企業の協力を得て持続可能な栄養の成果の実現を支援してきました。日本はユニセフにとってあらゆる形の栄養不良と共に戦うための重要なパートナーです。
本イベントで、これまでの子どもたちの栄養に関する重要な成果をお伝えするととともに、みなさまに新しいアイディアを提案できれば幸いです。
ビデオメッセージ
デジタル大臣・ユニセフ議員連盟事務局長 牧島かれん 衆議院議員
世界の女性や子どもたちを取り巻く状況は、一昨年からの新型コロナウイルス感染症拡大により悪化しています。特に栄養不良問題において大きな負荷がかかっているのは、最も貧しい、疎外された子どもたちです。本日の報告会では、世界各国の支援現場から報告いただくとうかがっており、こうした問題に日本がどのように貢献できるのかを考える良い機会だと思います。
また厳しい状況は日本など先進国も例外ではなく、打撃を受けた観光・飲食・サービス業界には数多くの女性が従事しており、シングルマザーやその子どもたちなど、弱い立場にある方の状況が悪化しています。学校休校により子どもたちの栄養バランスを保つのが難しいということも聞いております。
デジタル庁では、子どもたちの貧困や虐待など様々なデータを連携することで素早く問題を見つけ出す取り組みをスタートさせています。声を上げることができない子どもたちに寄り添う日本型のモデルを構築できれば、世界と共有したいと考えています。どのような国に生まれても、子どもたちが自らの夢を叶えることができる世界を目指して、国際社会における日本の役割を果たしていく所存です。
ユニセフ事務局長 ヘンリエッタ・フォア
2021年も、ユニセフへの継続的なご支援をいただいた日本のみなさまに感謝申し上げます。
新型コロナウイルス感染症の深刻な影響下においても、みなさまからのご支援のおかげで、世界の最も厳しい状況の子どもたちが栄養ある食事をし、栄養サービスを受けられるよう、支援することができました。
日本とユニセフの歴史は長く、その始まりは第二次世界大戦後の日本の子どもたちへの栄養支援でした。日本で開催される「東京栄養サミット2021」は、各国政府・国連機関・ドナー・市民社会・民間企業などあらゆる当事者から、栄養不良という世界的な課題への革新的な約束を得る歴史的な機会となります。栄養は、ユニセフの活動の中核をなしています。すべての子どもたちの「栄養を摂取する権利」を守ることは、子ども自身のためだけでなく、より健康的で生産的な社会を形作ります。
今後も、子どもたちの成長を支えるため、みなさまのご支援をよろしくお願いいたします。
日本と世界の子どもの栄養課題
世界の子どもたちを取り巻く栄養
ユニセフ・中東・北アフリカ地域事務所 子どもの生存と発達専門官 木多村知美
栄養はすべての子どもの生存・成長・発達の基礎であり、質の良くない栄養や食事は子どもの命・将来に深刻な影響を与えます。
「世界子供白書2019」によると、子どもの3人に1人は栄養不良で十分に成長できていません。栄養不良には、食事摂取量の不足や病気により低体重になる消耗症、胎児・幼児期の栄養不足や感染症が原因で低身長になる発育阻害、身長に対して体重が重すぎる過体重という3タイプがあります。
これらの栄養不良は、脳の認知機能の低下、免疫システムの弱体化、発達障害や病気・死亡のリスクの増加などを引き起こし、子どもの学校成績や将来の収入、メンタルヘルスにも長期的に悪影響を与えます。また、2人に1人は外見からは判断しづらい必須微量栄養素不足と言われ、亜鉛・鉄・ヨウ素といったミネラルやビタミンの不足も、先と同様のリスクを高めています。
つまり世界の子どもたちは、消耗症や発育阻害、過体重、微量栄養素不足の3重苦に苦しんでいると言われています。さらに、新型コロナウイルス感染症の流行で、保健・食料・社会的保護システムなどのサービスが中断し、低中所得国118カ国では、5歳未満児の中度から重度の消耗症が14.3パーセント増加する可能性があると推定されています。
ユニセフはこうした状況の中で、すべての子ども、若者、女性が適正な食事やサービスを受け、日常生活の中で実践できるよう支援しています。
日本の子どもたちの栄養問題
東京家政学院大学 人間栄養学部 教授 原光彦 氏
栄養不良は途上国だけの問題ではありません。日本以外の先進国の子どもの5人に1人は過体重と言われ、2016年のデータでは、肥満小児の割合が41.86パーセントの米国を筆頭に、先進国で肥満の割合が高くなっています。
日本は14.42パーセントときわめて低い数値ではあったものの、コロナ禍で栄養に関する諸問題が噴出しています。学校給食の停止による栄養バランスの悪化、テレワークの影響による食事の簡略化・マンネリ化、外出制限による運動不足・メンタルストレスの増加、貧困による栄養素不足などがあげられます。肥満傾向の子どももコロナ禍で増えており、高血圧や糖尿病といった身体的問題に加え、自尊心の低下やいじめといった心理的問題も子どもたちを苦しめています。
一方、神経性やせ症の子どももコロナ禍以前より増加しています。若年女性のやせは胎児の栄養不足につながり、摂取する栄養が少ないことを想定して低体重で生まれてくる子どもは、少しの食べ過ぎで肥満やメタボになりやすい身体になってしまいます。コロナ禍によって日本でも子どもの栄養に様々な問題が生じていることを受け、ウィズ・コロナ時代の子どもの食事に関して、十分な水分を摂る、自然な食物を選ぶ、砂糖や食塩の摂りすぎに注意するといった提言を発信しています。
シエラレオネにおける栄養課題とユニセフの対応
ユニセフ・シエラレオネ事務所 保健・栄養チーフ 末廣有紀
シエラレオネは、西アフリカに位置する人口800万人弱の国です。シエラレオネの5歳未満児の死亡率は出生1,000人あたり109人と、世界で5番目に高い水準です。
子どもの死亡数の約半数には、栄養不良が直接的・間接的に関わっています。5歳未満児の30パーセントが慢性的な栄養不良状態である発育阻害に、5パーセントが急性的な栄養不良状態である消耗症に陥っています。完全母乳率の低さ、最低水準を下回る食事、貧血・ビタミンA不足などに加え、栄養不良における地方と首都圏の地域格差や、母親の教育水準・所得による格差も大きな問題となっています。
ユニセフは、保健省の栄養プログラムの予算増額に向けたアドボカシー支援などの政策強化を推進しながら、消耗症の治療、医療栄養物資の配布、医療従事者の能力強化などを行っています。家庭レベルでは、食事と栄養習慣の改善のためのリサーチに基づき、コミュニケーション戦略を策定したり、養育者へのケアなどを行っています。日本からのご支援では、2019年以降の1万6,000人を超える重度の消耗症の子どもの治療、母親のカウンセリングによる栄養不良の予防などを実施することができました。
ガーナにおける栄養課題とユニセフの対応
ユニセフ・ガーナ事務所 保健・栄養担当官 川勝義人
ガーナの5歳未満児の発育阻害の割合は18パーセント、消耗症は7パーセントです。完全母乳率の低さ、貧血を患う女性の多さも課題で、過体重の割合も増えてきています。
ユニセフは、多言語対応のラジオ番組や教育ツールを使った、妊婦・母親に向けた母乳栄養・離乳食に関する栄養教育の全国規模での実施、10代の貧血対策として学校での鉄・葉酸タブレットの配布、学校現場での栄養教育・衛生環境の評価・給食のガイドライン作成の推進などの活動を行っています。また、日本政府の支援を受け、2020年より母子手帳プログラムの全国展開を開始しました。母子手帳の普及を通じて、妊娠から出産、子どもの成長にいたるまで包括的にモニタリング・評価を行い、適切な栄養教育や治療を提供するプロジェクトです。
今後は、ユニセフのサポートがなくとも政府が単独でこのサービスを継続していけるようにするためのアドボカシーの推進、デジタルコンテンツの作成等を行っていきます。
ユニセフと民間企業とのパートナーシップ
味の素(株)執行役(サステナビリティ・コミュニケーション担当) 森島千佳 氏
味の素グループは、1909年以来の創業の志「おいしく食べて健康づくり」を継承し、栄養改善の取り組みを通して2030年までに10億人の健康寿命を延ばすとともに、次世代の健やかな成長を支えることを目指しています。おいしさを損なわず、誰もがアクセス可能な、地域の食文化を尊重する「妥協なき栄養」がアプローチ方針です。
具体的な取り組みとしては、途上国の食と栄養の改善事業を行う団体へ資金援助・ノウハウ支援を行うAINプログラムを1999年に開始しました。
創業100周年の2009年には、ガーナにおいて、伝統的なコーンを用いた離乳食のKOKOに混ぜて食べることで不足している栄養素を補えるKOKO Plusという商品を開発しました。さらに、急性栄養不良への取り組みとして、独自のアミノ酸技術を活用し、安価で入手しやすい大豆・コーン等の原料を使用した新たなRUTF(Ready-to-use Therapeutic Food)の開発も進めています。
国際機関・各国政府・地方自治体・教育関係者など、多様なステークホルダーとのパートナーシップのもと、子どもの栄養改善に取り組んでいきます。
ディスカッション (敬称略)
〇 栄養問題の解決には、食に関することだけでなく、衛生や教育など様々な分野、また様々なパートナーとの連携が効果的だと思いますが、そのような事例があったらお聞かせください。
木多村:様々な分野を巻き込んで栄養を改善していくことはユニセフも重要だと考えています。たとえば、予防接種に来た子どもたちに栄養スクリーニングをしたり保護者に栄養カウンセリングをするなど、保健・医療サービスを受けに来た機会を逃さずに栄養に関しても介入していく、といったことを行っています。
原:例を挙げると、福島県で学校、地域、家庭を巻き込んだ『さわやかダイエット』という標語を使った食育活動をしています。日本の和食を基盤にした魚(さ)、和食(わ)、野菜(や)、海藻(か)、大豆やだし(ダ)を推進するもので、その結果、子どもたちの脂質異常症や肥満の頻度が下がるなどの効果がありました。
森島:食料の安定は、豊かな地球環境のうえに成り立つもので、環境、衛生、水などの問題とつながるという意識はとても大切だと思います。また健康に生きる力を養う点で教育も重要です。ベトナムで実施しているスクール・ミールプロジェクトでは、栄養バランスの良い給食や栄養教育のためのツールを提供するなどの支援をしています。
〇 現代の栄養不良は、痩せている状態ではなく必要な栄養素が不足している状態も含みますが、どのように栄養不良の子どもたち、もしくは最も栄養支援を必要としているところを見つけていくのでしょうか
末廣:医療施設だけのスクリーニングだけでなく、家庭で保護者に定期的に子どもの状態をチェックしてもらったりしています。また栄養リスクの高い家庭や地域をリアルタイムで見つけられるよう情報なシステムの強化が必要だと思います。
川勝:ガーナには地域の保健施設がたくさんあるので、そういった場所を拠点に栄養状態の確認をしたり、妊産婦健診の際に予防的に養蚕タブレットを配布するなどしています。
閉会メッセージ
外務省国際協力局国際保健政策室 室長 江副聡 氏
現在多くの国が、低栄養と過栄養を併せた栄養不良の二重負荷という深刻な課題を抱えています。また、新型コロナウイルス感染症の影響で、子どもたちを含め栄養不良が世界的に悪化しています。
「東京栄養サミット2021」では、健康・食・強靭性・説明責任・財源確保の5つのテーマに焦点を当てて、幅広いステークホルダーが戦略を見直し、新たなコミットメントを発表します。
栄養改善には、保健、水・衛生、教育、女性のエンパワーメントなど分野横断的な取組が必要であり、ユニセフもこれらを推進しています。日本政府は、保健・栄養分野の重要なパートナーであるユニセフとの連携により、ガーナやシエラレオネへの技術協力、その他多くの国への無償資金協力を通した栄養改善支援を行っています。今後もユニセフを含む国際機関や民間企業と協力し、SDGsが掲げる「誰一人取り残さない」取組を進める決意です。
閉会ご挨拶
日本ユニセフ協会専務理事 早水研
栄養は、ユニセフの活動の原点です。ユニセフの最初のロゴマークが、ミルクを飲む子どもの姿だったことにそれが表れています。日本も戦後の1949年から15年間、ユニセフからのミルク支援を受けました。現在、年間520万人の5歳未満児が亡くなりその半数には栄養不良が関係しています。その一方で、日本以外の子どもの5分の1が過体重という栄養のアンバランスが起きています。こうした問題の解決には、グローバルかつ社会全体での取り組みが必要です。
本日のお話で、様々なステークホルダーとのパートナーシップによる栄養課題の解決や予防が重要であることを感じていただけたかと思います。栄養は、人類の将来に関わる重要な課題です。多くのみなさまに知っていただき、引き続きご支援を賜れれば幸いです。