2024年1月22日東京発
アフリカ教育支援にご協力をいただく毎月の募金プログラム「ユニセフ・マンスリーサポート・プログラム スクール・フォー・アフリカ」を通じた日本の皆さまからのご寄付は、現在、アフリカ西部のブルキナファソと南東部のモザンビークの子どもたちのために、大切に活用されています。
2023年12月7日、ユニセフ・モザンビーク事務所の大平健二教育マネージャーが、モザンビークの子どもたちへの教育支援について報告しました。
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報告会概要
モザンビークってどんな国?
アフリカ南東部に位置するモザンビークは、日本の2倍の国土を有し、それは南北2,000キロに伸びています。主要産業は農業で、主な農産物はとうもろこしですが、近年は豊富な鉱物資源を活用した資源開発も活発に行われています。また、モザンビークの国名は、同国唯一の世界遺産(1991年登録)であるモザンビーク島に由来します。
日本との関わりとして、1586年に、九州のキリシタン大名が派遣した天正遣欧少年使節の4人がヨーロッパからの帰路、モザンビーク島に寄港し、6カ月間滞在したことが挙げられます。また、1581 年、イエズス会宣教師とともに来日し、織田信長に仕えた「弥助」はモザンビーク人だったと言われています。
近年では複数の日系企業が、アルミニウム製錬事業への出資や、世界最大級のガス埋蔵量を誇る同国でのLNG(液化天然ガス)プロジェクトを行っています。
モザンビークの概要
世界で最も人口増加率の高い国の1つで、子どもの人口は全人口の約半分を占めます。主な社会指標は以下のとおりです。
- 人口の33%が慢性的な食糧不足(約1,000万人)
- 5歳以下の子どもの死亡数:73/1,000人
- HIV陽性率:13%(アフリカの平均は4%)
- 小学校就学適齢の子どもの約200万人が未就学または中途退学している
- 27% の家庭が屋外で排泄している
- 女性の約半数(48%)が18歳までに結婚している(20~24歳の女性を対象にした調査)
また、モザンビーク北部に位置するカーボ・デルガード州では紛争が起きており、これまでに最大100万人の国内避難民が発生しています(関連記事はこちら>)。
モザンビークの教育事情
1992年に内戦が終結し、1994年に民主的な選挙が実施されて以降、小学校の総就学率は徐々に改善され、現在は100%を超えています*1。また、国家予算の20%を教育予算が占め*2、この割合は開発途上国の中でも上位に位置しています。一方で、以下のように、システム・アクセス・環境・質の面で多くの課題が残されています。
*1 総就学率は年齢を問わず小学校に就学している子どもの人数が、小学校就学適齢の子どもの総人口に占める割合のため、100%を超える場合がある。
*2 日本の一般政府総支出に占める公財政教育支出の割合は 7.8%(出典:Source: OECD/UIS/Eurostat, 2022)。
ユニセフが支援を行っている地域・支援の内容
ユニセフは、日本の皆さまからのご寄付で、モザンビークの中でも特に初等教育の普及が遅れているナンプラ州とソファラ州を対象に教育支援を行っています。全般的に社会指標が低く、気候変動や自然災害、また、紛争発生のリスクが高いことも選定された理由です。
ユニセフは両州において、就学前教育と初等教育への支援を実施しています。モザンビーク政府による就学前教育に対する取り組みが不十分な状況を受けて、ユニセフでは3~5歳の子どもたちを対象に、11~1月の8週間にわたる短期集中就学準備プログラムを実施しています。同プログラムでは、小学校入学前の子どもたちが基礎的な学習スキルを身につけることを目標にしています。また、初等教育においては、教育水準の向上と学校環境の整備を進めており、その支援活動は、教員向けの研修の実施や学習教材・指導教材の提供、障がいのある子どもたちの教育推進、校長、教員、保護者、地域住民、児童が参加する学校運営委員会の能力強化、女の子の出席率にも大きく影響するトイレ・手洗い場の設置など、多岐にわたります。
<参考> モザンビークの学校年度:1~12月(2月から授業開始)
支援の進捗状況
これまでに皆さまのご寄付で実現した支援についてご紹介いたします。
① 就学前教育
- 子どもたち約2万人が短期集中就学準備プログラムに参加し、プログラム終了後にはすべての子どもたちが小学校に入学することができました*。就学前教育は子どもたちの学習意欲の向上にも繋がります。
- 同プログラムはモザンビークにおける成功事例として、教育省の年次会合でも発表されました。
*モザンビークにおける平均小学校就学率は71%
② 初等教育
- 教員約350人が算数や読み書きの教え方に関する研修を修了し、また、小学校約350校が算数・読み書き用学習教材の提供を受けました。より多くの子どもたちの能力向上が期待されます。
- 子どもたち約8万人がライフスキル*を身につけるための学校クラブに参加しました。暴力への対処方法や児童婚、早すぎる妊娠、月経衛生管理といった問題への対応力が向上すると同時に自発性が育まれます。センシティブな問題は劇や歌の中で取り上げることで、話題にしづらいテーマにも取り組んでいます。
- 学校運営委員会のメンバー約2,500人が子どもの中途退学などの問題に対応するための研修を受けました。より多くの子どもたちが小学校を卒業し、将来の選択肢が広がることが期待されます。
- ソファラ州とナンプラ州の両州で給水所を36カ所、手洗い場を備えたトイレを15基設置しました。手洗いなどの衛生習慣に関する学習会も実施しており、安全で清潔な環境での学習が可能になります。また、現在、ソファラ州で10教室を建設中です。
*ライフスキル:日常生活に生じる様々な問題や要求に対して、建設的かつ効果的に対処するために必要な力
③ 緊急下における教育支援(初等教育)
2023年2月に発生したサイクロン・フレディで大きな影響を受けたザンベジア州で、子どもたちの教育の機会が奪われることがないよう、学習キット2,200個を配布し、学習スペース20 棟を建設しました。
支援を実施する上での問題・課題
以下の理由による支援活動の遅れが懸念されますが、関係機関との連携等を通じて対策を講じる予定です。
- 北部カーボ・デルガード州の紛争の影響やサイクロンなどの自然災害が多発することで、パートナーである教育省が対応に追われ、教育支援が滞ること
- 教育省における有能な人材、当事者意識、省内・省間での調整などが不足していること
※地図上の国境線は図示目的であり、その法的地位についてユニセフやユニセフ協会の立場を示すものではありません。
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ユニセフは、今後も皆さまからのご寄付のもと、ブルキナファソとモザンビークの子どもたちのために教育支援を継続していきます。引き続き「ユニセフ・マンスリーサポート・プログラム スクール・フォー・アフリカ」を通じてあたたかいご協力を賜りますよう、お願い申し上げます。
大平健二
英国Institute of Education(IOE)で教育および国際開発の修士号を取得。ザンビアでNGOのインターン後、三菱商事(ザンビア、モザンビーク)、大使館(モザンビーク)を経て2007年にユニセフ・モザンビーク事務所、2010年よりJICA専門家としてモザンビーク、ケニアで勤務後、2014年内戦前のイエメン事務所にユニセフ職員として復帰。アンゴラ、トルコ(ガジアンテップ)事務所を経て、2018年末よりモザンビークに再勤務。
同氏に関する記事はこちら>
*大平教育マネージャーは、ユニセフ・イエメン事務所で教育専門官を務めていた2017年にも、イエメンの子どもたちの状況や紛争下の教育支援を中心にユニセフの取り組みを報告しました。
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