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財団法人日本ユニセフ協会




《南部アフリカ危機報告会》
南部アフリカにおける食料危機とHIV/エイズ:レソト王国の場合
日 時 2003年4月23日(水) 15:00〜16:00
場 所 ユニセフハウス 2F会議室
報告者 ユニセフ・レソト事務所 菊川 穣氏
 

講演1  4月23日、ユニセフ・レソト事務所の青少年育成担当官・菊川 穣さんの一時帰国に伴い、ユニセフハウスにて「南部アフリカ危機報告会」が開かれ、レソトにおける食糧危機とHIV/エイズの脅威、ユニセフの支援活動についてご報告いただきました。

概略  レソトは南アフリカ共和国の真中に位置し、人口約220万人でほぼ九州と同じ大きさの国です。1990年代に南アフリカ共和国が民主化されていく中、レソトの政情も不安定なものとなり、10代における妊娠率や失業率が高くなりました。現在、6割もの人が貧困ライン以下で生活を送っており、ユニセフは引き続き人道援助を行っています。

レソトにおける食糧危機  現在レソトでは、過去2年間における不安定な天候、小作農地の減少、南アフリカ鉱山業不況による出稼ぎの収入の減少等が原因で食糧危機に陥っており、全人口の3分の1以上もの人が影響を受けています。今回起こっている食糧危機は、80年代にエチオピアで起きたどこにも食糧がないという食糧危機とは異なります。レソトでは食糧が無いわけではなく都市部や地方都市の商店に行けば食べ物を買うことができますが、人々は現金収入がないため購入することが出来ません。さらに、今まで食糧危機で最初に犠牲になるのは子どもや老人でしたが、今回はHIV/エイズに感染している生産年齢にある成人男性や女性が犠牲になっている点においても性質を異にします。

レソトにおけるHIV/エイズ 講演2  レソトでのHIV/エイズ感染者数は、ボツワナ、スワジランド、ジンバブエに続き第4位であり、成人感染率は31%にのぼり、15歳から24歳の女性においては51%もの人が感染しています。エイズの影響を考慮した場合、レソトにおける2010年の平均寿命は45歳になると予想されています。生産年齢人口のHIV/エイズの拡大により農業技術を身に付けた人が農作業をすることが出来ないため、農業生産高は減少の一途を辿っています。現在では15歳以下の約3分の1が孤児であり、小学校中退者の数も急増しています。又、孤児に対する暴力、虐待、差別は後を絶ちません。ユニセフは、中期戦略計画に基づき以下に掲げた5項目を中心に活動を行っています。

ユニセフの活動 ●女子教育  他の開発途上国と異なり、レソトでは女子の識字率及び就学率は男子より高いです。これは男子は小学校を卒業すると南アフリカ共和国に出稼ぎに行き、残された女子が学校へ残るためだと考えられます。しかしながら、現在も女性はマイナーであるという考えが一般的であり、女性に対する強い偏見や差別はまだ残っています。そこでユニセフは、女子に対する偏見をなくすために教員を再教育したり、偏見がどういう形で残っているか調べるためにジェンダー分析を採り入れています。

●総合的な幼児教育  ユニセフは国連世界食糧計画(WFP)と協力し、幼稚園約500校でUNIMEX(栄養補助食)を供給しました。幼稚園を通して菜園キットを配布し、同時に農業のやり方についても教えました。防虫錠剤を子ども達約52万人に配り、幼稚園の先生方にはライフスキル教育の再訓練を行いました。

●予防接種「プラス」  約23万4千人の幼児を対象にはしかの予防接種、及び、ビタミンA錠剤供与キャンペーンを実施し、予防接種拡大担当者26人に対しても訓練をしました。又、日本政府と協力して新たな機材の供給もしています。

●HIV/エイズと闘う  小学校や識字教室において、教育に対するライフスキル教育の再訓練を行いました。又、娯楽を増やすことを目的に、多くの子ども達にスポーツの楽しさを知ってもらおうと、スポーツコーチに対してもライフスキル教育を実施しました。複合目的ユースセンターの建設を支援し、そこでレクリエーション、職業訓練、カウンセリングサービスなどを行っています。又、現地のNGOと協力して、母子感染予防プロジェクトを実施し、孤児家庭に菜園キットを配布しました。HIV感染者に対して食事栄養ガイドラインを作成し、感染者に対する差別や偏見を無くすことにも努めています。

●暴力、搾取、虐待、差別からの子どもの保護  人道ワーカーによる受給者に対しての性的搾取を防止するための啓蒙キャンペーンを実施しています。レソトでは法律が整備されていないため、出生登録と法改正を支援しています。さらに、最も支援を必要とするエイズ孤児を見つけ出し登録した上で、優先的に支援しています。

《Q&A》

Q: HIV/エイズ感染者に対する差別や偏見があるとおしゃっていましたが、障害者に対する差別や偏見はあるのでしょうか?
A: 障害者差別は伝統的コミュニティでは未だ色濃く残っています。しかし、学校では障害者も健常者も一緒に勉強しており、この点においては他のアフリカ諸国に比べて進んでいると思います。
Q: HIV/エイズに関する教育はどうなっているのでしょうか?
A: 教育省、国連機関、NGO等がHIV/エイズに関する教材を開発し、人々はHIV/エイズに関する情報を持っていますが、性交渉のパターンは変わらず又正しく認識している人も少ないため、残念ながら行動の変化には繋がっていません。
Q: 食糧危機及びHIV/エイズ対策に対して政府は関心を持って取り組んでいますか?
A: 講演3 レソトで起こっている食糧危機は今までの食糧危機とは違い、お金さえあれば食糧を買う事が出来るので政府が積極的に食糧危機問題に取り組んでいるとはいえません。HIV/エイズ対策においても、予防計画が存在しかつ成人感染率が31%という高い数字を表しているにも関わらず、行政が効率的に役割を果たしているとはいえません。これは、レソト人は比較的高レベルな教育を受けていても超自然的な解釈により物事を考える傾向がある為と考えられます。つまり、自然現象とHIV/エイズは相乗関係にあると考える人が多く、HIV/エイズを正しく認識出来ている人が少ないのです。
Q: ユニセフは、現金収入のない人々に対して何か支援をしていますか?
A: ユニセフとしては特に所得向上プログラムといったような現金収入のない人々に対しての支援は行っていませんが、栄養状態を改善するために菜園キットの配布、ライフスキルの再教育、エイズ孤児の保護等を焦点にあてて活動を行っています。現金収入のない人々に対しては、UNDP(国連開発計画)や他の機関が中心となって支援しています。

報告者プロフィール
菊川 穣(きくがわ ゆたか)氏
1971年神戸生まれ。
ロンドン大学ユニバーシィティーカレッジ卒業後(地理学専攻)、同大学教育研究所より、教育社会学修士取得。(株)社会工学研究所勤務を経て、1998年より国連教育科学文化機関(ユネスコ)南アフリカ事務所に教育プログラム担当官として従事。2000年よりユニセフレソト事務所にてノンフォーマル教育プロジェクト担当官、2001年より同事務所青少年育成プロジェクト担当官として勤務。現在は同プログラムセクションチーフ。