財団法人日本ユニセフ協会



ケニア:暴動の発生から間もなく1ヶ月
新たな危機に直面する25万の国内避難民
ユニセフ現地事務所 日本人インターンの報告

【2008年1月23日 ケニア・ナイロビ発】

© 日本ユニセフ協会
永田有花さん略歴:京都府出身。1999年に東北大学を卒業した後、1年半ほど海外を放浪。オーストラリア、インド、ネパール等でNGOの活動に参加する。東京での会社勤務の後、2005年よりカリフォルニア大学国際農業開発学部(国際栄養学専攻)修士課程(2007年9月修士号取得)。2007年10月から12月まで、日本ユニセフ協会の国際協力人材養成プログラムを通じユニセフ・ケニア事務所の栄養担当部にてインターン。2008年1月より同事務所の緊急支援担当部でインターン研修中。
 
© UNICEF/2007/Sittoni
ユニセフは、ケニアの避難キャンプでの生活を余儀なくされている女性と子どもたちに、少しでも安心できる環境を提供できるよう、人道支援活動を続けています。

12月27日に行われた大統領選挙に端を発し、ケニア全土に広がった暴動の発生から、まもなく1ヶ月。国内各地に作られた一時避難所(キャンプ)での不自由な生活を余儀なくされている、推定25万の避難民に、新たな危機が迫っています。

現地の最新情報を、ユニセフ・ケニア事務所の緊急支援担当部でインターン研修中の永田有花さんが伝えてくれました(日本ユニセフ協会まとめ)。

今のケニアの現状ですが、25万人と推定されている避難民のキャンプが次々と閉鎖されようとしています。

キャンプの維持にかかる費用の負担が多大なことや、避難民以外の人が食料支援の恩恵を受けようとキャンプに紛れ込むなどがその理由とされているようです。しかし、帰る場所のない避難民も多く、また帰る場所がまだ危険な状態にあるなど、行き場のない避難民が溢れています。

ユニセフをはじめ国際援助機関は、政府や関係者と話し合い、何とかして閉鎖の期限を遅らせようとしていますが・・・。実は今日も、ナイロビのジャムフリ公園で、避難民がキベラなどのスラム街に送還され、顔に傷をつくって公園に出戻ってくるという事態も発生したと伝えられました。

子どもたちの多くは、まだまだ学校に行ける状態ではなく、キャンプの子どもたちの間には、食料やテント等が与えられていても、精神的ダメージ(トラウマ)が広がっているようです。また、キャンプ内でレイプ等の事態も多々発生しているようです。

子どもたちの叫び

ユニセフ・ケニア事務所では、避難民キャンプの子どもたちにテントや医薬品、水、衛生用品などの支援物資の配布などの支援活動を進め、子どもたちの状況を確認する中、子どもたちを中心に被害者の「声」を集めました。

ポール君(8歳) エルドレット市
「お父さんが家に駆け込んできて、あいつらが殺しに来るぞって叫んだんだ。僕にはあいつらって誰だか分からなかった。だからお父さんに聞いたら、お父さんは僕らがキクユ族だからって答えた。お父さんについて近くのポール教会に行ったんだけど、荷物を持っていく時間もなかった。教会は僕達の他にも逃げてきた人達でいっぱいだった。次の日、早起きして家が大丈夫かどうか見に行ったんだけど、家は跡形もなく焼かれていた。何もなかったんだ。悪いやつらが来た時、誰も家にいなくてよかったと思うけど、もう帰る家もないし、学校に着ていく服もないんだ。」

エゼキエルさん(18歳) エルドレット市
「選挙前は投票するのがとても楽しみだったの。初めての選挙だったし、集会があれば必ず参加したわ。選挙が待ちきれなかったのよ。もちろん、友達とも自分の支持者が大統領になるだろうって冗談言い合っていたし、こんな風に選挙が終わるなんて思いもしなかった。選挙日には私も友達も6時に起きて投票に行ったわ。投票結果が発表されるまでは、とても仲のいい友達だったのよ。大統領の発表があってすぐに事態は一転したわ。私が友達だと言っていた人達はなたをもって私の家に来た。明らかに私を殺しに。何とかして教会に逃げこんだわ。子どものころから知っている近所の人が、大勢の人を連れて襲ってくるのも見た。私の家は焼かれて、仲間内の男の子も殺された。こんなことで生活がよくなるっていうの?これで?もう選挙には二度と行かないわ!」

フェイスさん(15歳) エルドレット市
「選挙の途中結果が発表され始めてすぐ、私達が勝つんだって思ったわ。疑いもしなかったの。私のお母さんはルオ族だけどお父さんはキクユ族。でもお父さんはODM(オレンジ民主党)に投票したの。キバキが勝ったって発表されてすぐ、それは選挙委員の代表の人から発表があってから30分後のことだけれど、家のドアがドンドン叩かれるのを聞いたわ。乱暴に誰かがドアを壊して入ってきて、そしてその人に叩かれたの!何の罪もない6歳の弟も叩かれたのよ。出て行って二度と帰ってくるなって言われた。そして子どものころからずっと住んでいる家も焼かれたの。誰に投票したかは聞かれなかったわ。お父さんがキクユ族だからキバキ側なんだろうって、彼らは勝手に思ったのよ。本当に腹が立ったわ。もう何も残されていない。スーダンみたいに他の国でこんなことが起こっているって聞いたことはあったけど、ケニアでこんなことが起こるなんて予想もしなかった。できるなら、この国を離れてもう思い出したくもない。」

アンさん(14歳)、エルドレット市
「とにかく、今この国でこんなに人々が憎しみあっているっていうことにショックを受けているの。こんなに人々が殺しあっているのは見たことがないわ。男であろうが、女であろうが、子どもであろうが、関係ないの。教会に逃げる途中に、老人と彼女のお孫さんが男の人に殴られているのを目の前で見たわ。その光景が夢にも出てきて、夜も眠れないの。投票結果が発表されてから、お父さんともお兄さんとも会っていない。今教会はとても込み合っていて、ここにいるからといって安全でないことも分かっている。近くの教会が焼かれて、避難していた人達も殺されたって聞いたわ。いつになったら普段の生活に戻れるのか、実際に戻れるのかも分からない。選挙で勝った人もそうでない人も、国のリーダーなのだから今の事態に対して何かしないといけない。今の状況を変えることができるのは彼等なのだから。あと何人の人が死ななきゃならないの?私が悲しくなるのは、こんな事態を引き起こした彼等が何もしないで、貧しい私達が全てを失っていくってことなの。」

マリーさん(26歳)
ナイロビ市 キベラ地区

「7歳と5歳の子ども達と、キベラのキアンダ村に住んでいます。私の村の人達はほとんどがキクユ族です。大統領キバキの発表があった後、近くに住むルオ族の人達が『ライラなしに平和はない』と叫びながら街に出始めました。彼等はキクユ族の家をノックして回り、家からキクユ族の人達を引きずり出しました。彼等はなたや材木を使って、キクユ族の人達を叩いていました。近所にお祖母さんがお孫さんと一緒に住んでいるのですが、ルオ族の人達が来た時、彼女は嫌がって出て行かなかったのです。お孫さんは逃げましたが、彼女は叩かれ、後に病院で亡くなりました。私は彼らが来る前に、荷物をかき集めて公園に逃げ込みました。近所にはまだルオ族の人達が住んでいて、一緒に生活しなければならないのです。彼らが皆悪い人達だとは言いません。金曜にキバキとライラが話をするようなので、ただそれだけを待っているのです。彼らにちゃんと話し合ってほしい。今被害を受けているのは私達国民なのだから。彼らが黙っている限り、今の状況は変わらないのです。」

ジョン君(16歳) エルドレット市
「お父さんは目の前で殺された。近所の人に。その人は友達のお父さんだったから、僕は殺されずにすんだんだ。このことについてはもう話したくない。もううんざりだ。寒くてもお腹が空いていても、誰も助けてくれないよ。食料は届くたびに取り合いになるから、僕は殆ど何も食べていない。選挙なんかなかったらよかったのに。」

ジェーンさん(13歳) エルドレット市
「お父さんは騒動に巻き込まれて、今病院にいるの。お父さんに会いに行くことが安全かどうかも分からない。お父さんのお店からは物が全て盗まれて、お店は焼かれた。お父さんはなたで頭を叩かれて怪我をして、従業員さんも殺されて取り残されていたの。その時お母さんは家にいて、お父さんの友達から何が起こったか電話で聞いたわ。お父さんに会いに行ったら、お父さんは血まみれで意識もなかった。なんとかして車の手配をして、急いでお父さんを病院に連れて行ったの。お母さんは今お父さんのところにいるけれど、私とお姉さん達は危なくて家に戻れないから教会にいる。あまり食べてなくて、夜もとても寒いの。こんなこと、二度と起こって欲しくない。学校に月曜から戻れるとも思わない。今年で小学校も終わりだから、頑張って勉強して中学校に行きたい。でも、いつ行けるようになるかまだ分からないの。」

サロメさん(20歳)
ナイロビ市 ジャムフリ公園

「私は孤児です。キベラに住んでいましたが今はジャムフリ公園にいます。キクユ族から部屋を借りていましたが、近くのルオ族達が来て私を部屋から引きずりだして、そして火を点けたので、ここに来ることになりました。ここでの生活は、キクユ族とルオ族との共同生活なので、とても厳しいです。彼等はお互いに悪口を言い合っています。キクユ族たちは私たちのせいで避難しなければいけなくなったと言います。彼等は私たちのことを嫌っているんだと思います。時々食料支援もあるのですが、私達はほとんど食べることができませんし、届いた支援物資も貰えません。今手元にあるのは、毛布1枚だけ。その毛布に寝転がるか、それを被って寝ることができるだけです。今の生活がいつになったら良い方向に向かうのか、分かりません。私はただ以前の生活に戻りたいだけなのです。」

マーティンさん(23歳)
ナイロビ市 ジャムフリ公園

「22歳の弟とキベラのキアンダ村に住んでいました。弟は古着を売って生活をしていました。選挙結果が発表された日、近所のルオ族の人が来て私達を追い出した後、すぐに火をつけたのです。私は家と仕事を同時に失いました。今キベラに戻ることはできません。キベラには彼らが待ち受けていて、戻れば必ず殺されます。」

ジョシュアくん(7歳)
ナイロビ市 ジャムフリ公園

「お母さんが危ないから家には戻れないって言ってた。学校に行きたいよ。ご飯も食べられるし。」

最低限の「安心」を確保するために

© Sara Cameron
ケニア西部ケリチョの避難民キャンプにたどり着いたルシア・アグダさんと子どもたち。

25万人の避難民の多くが、心と身体に傷を負った子どもたち。ユニセフは、昨年末の暴動発生直後から、避難民キャンプも含め、被害にあった子どもたちを守る環境を整える緊急支援活動を展開しています。

これまでに、防水シート、毛布、調理器具などの生活必需品を含むファミリーキットと呼ばれる緊急支援物資を6万人以上に届けました。このほかに、医薬品、栄養補助食品、飲料水や衛生資材の支援も展開。女性や女の子1万人に、石鹸、歯磨き粉、生理用品などを配布しています。

事態が複雑化、長期化のきざしを見せる中、避難生活を余儀なくされている子どもたち、女性たちが、少しでも安心できる環境を確保するために、より慎重な、そしてより包括的な支援活動が、中長期的に求められています。