公益財団法人日本ユニセフ協会
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アフリカ干ばつ緊急募金 第47報
チャド:負のサイクルを絶つ唯一の望み

【2012年2月17日  チャド・ンジャメナ発】

© UNICEF video
チャドの首都ンジャメナ郊外の貧困地区に暮らすアイシャ・アドウムさんと孫。ユニセフは、パートナー団体と共に、このコミュニティに清潔で安全な水を届ける井戸を設置した。

焼け付くような日差しが照りつける、チャドの首都ンジャメナ。アイシャ・アドウムさんは、ある日の昼下がり、この照り付ける日差しを利用して、市場に出すトマトやオクラ、種などを天日干ししていました。乾期を迎えたこの地域では、あらゆる所が土埃で覆われています。水位が低くなり、水も汚れている湖や川では、業者がカーペットを洗うその横で、子どもたちが遊ぶ姿が見られます。

多くの人々が、清潔な飲料水を求めています。しかし、「カルティエ」と呼ばれている首都ンジャメ郊外の地域で暮らす貧しい人々は、市街地では普及している公共上水道の恩恵を受けていません。その代わりに人々が使っているのは、浅井戸。若干でもお金を持っている家では、水の行商人から水を買っています。それでも、そうして得た水が清潔であるという保障はありません。チャドでは、昨年、1万7,000人以上の人々がコレラに感染。首都だけでも、その数は数千人に上りました。

アドウムさん一家は、カルティエ地区のダル・サラムで暮らしています。アドウムさんは、以前は、収入の大半を使って、週に一度、ポリタンク1つか2つ分の飲料水を購入していました。しかし、収入の全てをつぎ込んでも、家族が必要な分の量を賄うことはできませんでした。

「水はとても高価でした。」「(家族が必要な)全ての量を賄えるだけの十分な水を買う余裕はありませんでした。飲み水と調理用に、ポリタンク一つか二つ分を買えるだけでした。洗濯などの他のことには、汚い水を使っていたのです。子どもたちは、常に病気や下痢に苦しんでいました。」

貴重な機会

© UNICEF video
チャドの首都ンジャメナの貧困地区では、清潔な水が不足していた。ユニセフの支援によって、太陽光を利用した7つの上水道設備が設置され、地域の人々が、その運営にあたっている。

ユニセフは、昨年、パートナー団体と協力して、首都ンジャメ周辺の貧しい人々が暮らす地区に、上水道設備の設置を始めました。(取水地となる)井戸は、60メートルあるいはそれ以上の深さに掘られるため、この地域で広く使用されていた浅井戸や手押しポンプ式の井戸よりも、さらに清潔な水が確保されます。また、太陽光式のポンプで水が汲み上げられて、給水タンクに貯水されます。貯水された水は、二箇所の給水所に順番に供給されます。

アドウムさん一家は、この給水所のひとつが設置されている道の向かい側に住んでいます。この給水所は、アドウムさん一家の生活を一変させました。

「以前は、高くて水を買うことができませんでした。」「でも、この給水所が出来てから、娘や孫たちと一緒にいつでも水を汲みにくることができます。何て素晴らしいことなんでしょう。」 アドウムさんは、微笑みながらこう話しました。

ユニセフは、カルティエの一つのハブベナ地区でも、パートナー団体と共に、上水道の設置場所探しに苦心していましたが、この地区の代表のアブバカカ・ティドジャニさんが、このプロジェクトのために、自分の農地を提供してくれました。

「カルティエの代表のひとりですから、この地域で水がどんなに重要なものなのか良く知っています。」「住民たちは、いつも、水を得るために苦労してきました。ですから、私の土地をこの上水道設備のために提供したのです。もしこの機会を失ったら、もう二度とこんなチャンスはなかったかも知れませんから。」

首都周辺のカルティエ地区で、この上水道が導入されたのは、これで7箇所目。給水所は、地域の人々の手によって設置され、管理されています。水は、各家庭には無料で提供されていますが、水の行商人には、僅かながら対価を求め、こうして集まった資金でサービスやメンテナンス、塩素消毒などに関わる費用が賄われています。水の行商人も、この施設が出来たために、長い距離を移動することなく、より清潔で健康的な水を得ることができるようになり、転じて、人々に、そうした水を提供することができるようになったのです。

清潔な水こそが命

モハメド・モハンメゼン・ドゥマさんは、アドウムさんも暮らしているカルティエ地区のダル・サラムの給水所を管理する水の委員会で、委員長を務めています。ドゥマさんは、清潔な水が行き渡ることは、この地域の人々がより健康的になることだと話します。

「このカルティエに住む人々は、長年、下痢やコレラで苦しんできました。でも、この上水道設備ができてから、コレラに感染した人は一人もいません。」(ドゥマさん)

ユニセフは、パートナー団体と共に、こうした上水道設備の設置と並行して、コレラのような感染症が蔓延する原因ともなっている屋外での排泄の習慣を減らすべく、市場や学校などに、公共用のトイレも設置しています。上水道設備と同様、こうしたトイレも、地域の人々が管理しています。人々は、わずかな利用料を払ってトイレを利用。そのお金は、メンテナンスや石けんの購入費用などに充てられています。

チャドは、清潔な飲料水や衛生施設(トイレ)を利用する人の割合が、世界で最も低い国のひとつで、ポリオや髄膜炎、コレラのような感染症が頻発する主な原因となっています。設備の整った衛生施設(トイレ)を設置し、そして最も大切な清潔な飲料水を提供することが、チャドでこうした病気が再発する負のサイクルを絶つ唯一の望みに繋がるのです。

「命(の問題)を語るなら、水の問題をまず解決する必要があります。」「でもそうして得る水は、どんな水でも良いわけではありません。清潔な水でなくてはならないのです。私たちには、今、清潔な水があります。」(ドゥマさん)