最大級の洪水被害−3,300万人が被災
バングラデシュは、メグナ、ジャムナ、パドマ(ガンジス川下流部)という3つの大河が流れ込むデルタ地帯に位置し、世界で最も自然災害の影響を受けている国のひとつです。サイクロン、竜巻、地震、日照りなどもときに深刻な被害をもたらしますが、とくに洪水は最も広範囲に、そして長期間にわたってバングラデシュの人々を苦しめています。毎年、少なくても国土のおよそ21%が洪水に見舞われています。1998年の大洪水の際には、その数字は68%にのぼりました。しかし今年の洪水被害は、これをも上回ると予測されています。こうした災害は、この国で最貧の生活を強いられている人々の困窮に拍車をかけています。
モンスーンがもたらす激しい雨が、6月の末から相次いでいました。記録的な豪雨、それに伴いネパール、インド、中国、ブータンから流れ込む大量の水、そしてヒマラヤからの雪解け水も被害を悪化させました。バングラデシュ政府の発表によると、今年の洪水によって、すでに3,300万人の人々が、家屋や基礎インフラの破壊、農作物や家畜の損失などの深刻な被害を受けています。倒壊した家屋はおよそ100万戸、何らかのダメージを受けた家屋は300万戸以上、その結果数百万人が家を離れ避難生活を送っています。200万エーカーの農地が浸水し、作物の被害は計り知れません。農民の約半数が短期〜中期的に収入源を失うことになります。
モンスーンによる雨は9月頃には落ち着くと思われます。しかし、11月にはサイクロンの季節を迎えます。すでにこれまでの洪水で物理的、経済的に大きなダメージを受けている都市や村落では、厳しい生活が今後6カ月間は続くと見られています。
ユニセフの活動
国連は、バングラデシュの洪水被害の支援を拡大するための今後6カ月間の緊急支援計画を発表し、国際社会への支援を訴えました。
この中でユニセフは、水と衛生、教育、保健・栄養、子どもの保護の分野での緊急プログラムを担っています。ユニセフ担当分野の必要資金は、US$54,946,770(およそ63億円)と見積もられています。
ユニセフの支援分野概要:
水と衛生 − 必要資金:US$35,459,170 |
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<概況>
- 公共の井戸約20万基と多くの個人の井戸が水没。
- 雨水の地下貯水タンクなどその他の水源設備も、機能していない。
- 公衆衛生施設も水浸しになっており300万のトイレに影響
- 5000の仮設シェルターのうちトイレが設置されているのは1000のシェルターのみ
安全な飲み水へのアクセスが制限されていることや公衆衛生施設の崩壊によってバングラデシュの人々は下痢のような飲料水から伝染する病気にかかる確率が高くなっています。コレラのように主要な下痢性の伝染病が蔓延することで、二次的な被害者が増えることが予測されています。
<ユニセフの対応>
- 洪水の間、3000万の人々へ安全な飲み水の給水を支援する
- 洪水が弱まり次第すぐに、安全な飲み水を給水できるシステムの再構築を支援する
- 洪水の間、シェルターや避難所に仮設の公衆衛生施設を提供する
- 洪水が弱まり次第すぐにコミュニティにおける公衆衛生施設の再構築を支援する
現在進めている具体的な支援内容は以下のとおりです。
- 洪水の水かさ以上まで井戸を引き上げる
- 井戸の消毒
- 浄水タブレットの配布
- 避難所の人々へさらに多くの井戸を提供
- シェルターや避難所にトイレを設置
- 安全な水の使用や公衆衛生についての意識を喚起
<概況>
食糧・災害管理省の査定によると、8月7日現在で、1万7000校の初等学校を含む、公立、私立、宗教学校2万3187校が何らかのダメージを受け、1166校が完全に倒壊しました。多くの学校と学習センターは、浸水のため閉鎖されそして1600校以上がシェルターとして使用されたので、学習の機会を求める動きは特に強くなっています。基本的な生活支援と併せて、教育の整備も急務です。
<ユニセフの対応>
- 洪水の被害を受けた地域にすむ400万人の子どもたちのために教育へのアクセスの復旧
- 都市部のスラムで働く子どもたち1000家族のために基本物資の調達
現在進めている具体的な支援内容は以下のとおりです。
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教育ニーズ調査と行動計画の準備
- 避難シェルターの中の仮設学習スペースの設置
- 崩壊した学習センターや学校のかわりとなる仮設学習センターの設置
- 教員用資材、学習資材、学用品、学校設備の調達
- 学校やコミュニティレベルの学習スペースにおける保護環境の確立
- 被災した学校の補修と改修
- 都市部のスラム街で労働に携わる子どもたちの家族への基本的な物資の供給
保健・栄養 − 必要資金:US$6,860,000 |
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<概況>
保健分野において一番懸念されるのは、衛生設備や安全な水が手に入らなくなったことによる病気の蔓延です。8月6日時点ですでに103,000件の下痢が報告されており、さらに一日に9,000件の勢いで増加しています。また、呼吸器系疾患の増加も深刻で、洪水が始まって以来、4000件の肺炎が報告されています。それらの主な被害者は子どもで、治療体制の構築が急がれます。
乳幼児や妊産婦は、こうした災害において病気や栄養不良に陥りやすく、特に緊急の支援を必要としています。
<ユニセフの対応>
- 緊急の医薬品の提供によって、汚水による疾患や皮膚病の蔓延を抑える
- 必要な医薬品や治療資材の確保
- 病院や保健センターの修復
- 保健調査チームの派遣と早急な保健状況調査の実施
- 被災住民に対する予防接種事業
- 妊産婦へのケアと緊急の出産ケアサービスの強化
- 6〜23カ月の乳幼児100,000人および妊娠中の女性150,000人を対象とした栄養補助食の配布
- 被災した1〜5歳の子どもを対象としたビタミンAカプセルの配布
子どもの保護 − 必要資金:US$1,427,600 |
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<概況>
洪水で家屋が破壊され仮設シェルターに避難せざるを得ない子どもや女性は、虐待、暴力、搾取の危険にさらされています。政府は、約160万人の避難民の家として被災地域に5000の仮設シェルターを設置しました。この1カ月非常に人口密度の高い地域で暮らす人々の中には、まだ修復された家に戻るまでの数週間、避難生活を余儀なくされる人もいます。
また、大人が洪水が原因で職探しに出かけ家やシェルターをあけることが多くなると、子どもは安全でない場所に取り残され、身体的、精神的、感情的、性的な虐待や搾取の危険にさらされることになります。また労働に携わる子どもたちの数も増えていきます。人身売買を含む、暴力、虐待、搾取の報告数は増加しています。
<ユニセフの対応>
- シェルターで暮らす子どもと女性、そしてコミュニティに戻った子どもと女性に対する虐待、暴力、搾取を阻止するプログラムの実施
- 子どもに優しいスペースなどの子どもと女性にとって安全な環境の確立の支援と教育、保護の分野で心理社会的な支援を実施する
- 社会的に疎外された子どもを支援する
短期的(緊急)プログラム:
- 特に保護を必要としている孤児、ストリートチルドレン、性産業で働く子ども、先住民グループ、身体障害者等の迅速な状況調査
- 被災地域の子どもと女性にとって安全で優しいスペースの設置
- レクレーション用品の調達と子どものストレスを軽減し日常の感覚を創造する活動の実施
- 特に保護が必要な子どもに対するサービスと物資の提供
- 緊急時の心理社会的な支援を実施するNGOのトレーニング
- 子どもの保護と権利の分野で働く支援要員の強化・育成
- 子どもの保護と権利に関する意識喚起
- シェルターや学習スペースで子どもの権利が侵害されていないかをモニターする指導者や心理ケア要員の活用
中期的(洪水が弱まり人々が各自の家に戻った後)プログラム:
- 緊急時の心理社会的な支援を実施するNGOへの支援継続
- メディアや子ども、支援要員を通じた、子どもの権利促進のためのアドボカシー活動の継続
- シェルターや学習スペースにおいて子どもの権利が侵害されていないかをモニターする指導者や心理ケア要員の活用
- 洪水の結果社会的から疎外されてしまった子どもへの物資や支援の調達
- 中途退学、性産業への従事、早期婚、人身売買、暴力等の増加を防ぐため家族支援
- 教育を基盤としたライフスキルの発達を支援
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