財団法人日本ユニセフ協会




調査結果は、子どもの健康悪化を伝える

〜ユニセフの調査により、子どもの急性栄養不良が昨年の倍になったことが判明〜

【バグダッド/ジュネーブ/ニューヨーク 2003年5月14日】
 イラク戦争がはじまって2ヶ月、ユニセフは、イラクの子どもの栄養状況の急激な悪化を食い止めるために、緊急の行動を取るよう呼びかけました。

 本日、ユニセフは、バグダッドで行われた緊急栄養調査の結果について発表しました。これによると、5歳未満の子どもの急性栄養不良の割合は、2002年2月に行われた前回の調査の結果の2倍になっていることがわかりました。

 「状況は、イラク全土の他の都市と同程度に悪いものです」とユニセフ・イラク事務所代表カレル・ドゥ・ルーイは述べています。「戦争に突入しイラクの子どもたちが栄養をとれない状況になることはわかっていました。これらの調査結果はこの状況を好転させるために十分なことはなされておらず、むしろ状況を悪化させているのだ、ということを明らかにしています」

 国中で治安が不安定だったため、ユニセフの緊急栄養調査はバグダッドに限って行われました。5歳未満児の急性栄養不良の割合は、昨年は4%だったにも関わらず、今回は7.7%という数値を示しました。急性栄養不良は、実際に子どもたちが消耗しつつあることを示唆しています。

 緊急調査は、緊急事態の直後に人道機関によって行われました。もととなったサンプルは限られたものですが、この結果は、初期の支援を考える上で十分に信頼に足るものと思われます。

 ユニセフは、水の供給システムの崩壊によって安全な水が手に入らなくなったことが、この調査結果の中で重要な要素となっているのではないかと考えています。不衛生な水は、ここ数週間、子どもたちの下痢発症が急激に増加している原因として指摘されています。

 バグダッドから、ユニセフの保健・栄養担当官ウィサム・アル・ティミニは、調査結果によって、子どもの10人にひとりは、脱水症状の治療を必要としていることがわかったと述べています。

 「これは、私たちがすでに知っていることを正確に示しています。安全でない水と不衛生な環境が下痢を発症させ、脱水症状と栄養不良をもたらすのです。こうした子どもたちは、消耗を防ぐ治療を受けることが必要です。通常の食事からビタミンや栄養素を吸収したり保ったりすることができなくなっているからです。深刻な栄養不良に陥っているのに治療を受けられない子どもたちは、非常に高い割合で死の危険にさらされるのです。

 何万トンもの未処理の汚物が、毎日、チグリス川とユーフラテス川に流れ込んでいます。多くのイラク人はこれらの川から飲み水を得ているため、まず、水は処理施設(イラク全土に1000箇所以上はある)を通さなければなりません。

 しかし、略奪者たちが、多くの水道施設を丸裸にしてしまいました。重機まで持ち去り、施設を使い物にならなくしてしまったのです。浄水剤も盗まれたり、破壊されたりしています。略奪者たちは、商業目的で水道管に穴をあけ、広い都市地域への給水に必要な送水機を破壊してしまいました。この結果、家庭で使われている水の質は非常に悪いもので、子どもたちの病気や消耗の原因となっているのです。

 「この調査の対象となったバグダッドの子どもの4分の3近くが、それまでの1ヶ月間に少なくとも1回は下痢になっています」とアル・ティミニは述べます。「これらの結果を以前のもの比較してみると、ここ数年の間、栄養状態が改善されて普通に成長してきた子どもたちが、急に、そして劇的に、消耗してきていることがわかります。これは、戦争と社会サービスの崩壊と同時に起こっています。まだ結論ではありませんが、それでも、ここ最近、子どもたちが急性栄養不良に陥っていることを示しているのです」

 2週間前、ユニセフは、水による病気が広まる乾季を前に、塩素の備蓄が失われたことによって、健康上の危機が近づいていると警告しました。、戦争、病院の略奪、保健システムの崩壊、水サービスの崩壊、そして治安の悪化が、支援物資の輸送を困難にし、略奪を横行させています。こうしたことすべてが、原因となっているのです。

 水のサービスの崩壊による悲劇的な結果がより多くの子どもたちの命を奪い、南部では爆発物によって子どもたちが負傷しています。水を煮沸するための燃料が不足していることから、爆薬の詰まった箱が保管されている何百箇所もの地点の間をぬって、子どもたちはたきぎを探して歩き回っているのです。

■ユニセフの対応
 ユニセフは、毎日、200万リットル以上のきれいな水をイラク国内に輸送しています。そして、塩素ガスや塩素錠剤などの物資も運んでいます。国中で、コミュニティごとの給水ポイントが病院や保健センターに設けられています。ユニセフは、NGOと協力し、子どもの死亡を防ぐため、栄養不良の状況を調査し、治療を行っています。栄養強化ミルクや高たんぱくビスケットなどが、トラックや飛行機で輸送されています。水道局を緊急修復するためのチームがつくられていますが、ユニセフは、日常的に略奪が行われているような状況では、この活動は制約されてしまう、と述べています。

 「私たちは、イラクの子どもたちが直面している危険と、何をすべきかを承知しています」と、ドゥ・ルーイは述べます。「しかし、私たちは人道支援のスタッフで、警察ではありません。支援を安全に届けられることが、効率的な支援につながります。何週間も、私たちは、こうした安全をもたらしてくれる何者かを求めつづけているのです」

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【報道関係の皆様へ】

 “イラク戦争後の子どもたち”というタイトルのユニセフ映像が本部より届いています。4月の終わりに撮影され、爆弾で被害を受けた学校のようすや、ユニセフの給水事業、爆発物で負傷した子どもたち、ユニセフのスタッフのインタビューなどが含まれています。お問い合わせは、日本ユニセフ協会広報室(03‐5789‐2016)まで。

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募金のお願い

 ユニセフによるイラクへの緊急支援を求める発表を踏まえ、日本ユニセフ協会では、今後さらに必要とされるイラクの子どもたちへのユニセフの人道支援活動を支援するため、イラク緊急募金の受付を開始します。多くの皆様のご支援をお願い申し上げます。