イラクでの大規模な戦闘が終了して6ヶ月、バグダッドの国連本部事務所の攻撃からすでに2ヶ月が経過しましたが、イラクの状況は依然予断を許さない状態にあります。イラク警察や米英軍への爆撃が日常的に起こる中、イラクの再建にあたる支援団体で働く人たちも外国人、イラク人の区別なく攻撃の対象となっています。国連の国際スタッフ(外国人スタッフ)もイラクに戻ることはできず、現在バグダッドで活動を続けている残りの国際スタッフも、少なくともラマダン明けまでには、バグダッドから退避せざるを得ない状況です。
一方、イラク市民の安全は改善されつつあります。支援団体の国際スタッフにとっては危険な状態でも、イラク人にとっては状況が改善する方向にあります。
こういった状況をふまえ、ユニセフは9月上旬にヨルダンのアンマンに新しい事務所を開設し、イラク国内での支援事業が途切れないようにバックアップ体制を整えています。アンマンのイラク人スタッフがローテーションを組んでアンマン−バグダッドを行き来し、困難な状況下で活動する現地のスタッフを支援するとともに、情報ルートを確保しながら活動を続けています。さらにイラクの保健省、教育省、水道局、労働・社会問題省などのカウンターパートとの協力関係を促進し、ユニセフが主体で行う給水事業はもとより、あらゆる再建事業で地元企業との契約を進め、アンマンとバグダッドとのロジスティックス強化を行っています。治安が不安定なため実施できない事業があるものの、ユニセフはイラクの子どもと女性のための活動のほとんどを継続して行っています。
<活動ハイライト>
■ 水と衛生
給水:
バスラ、バクダッド、キルクーク、モスルでの給水事業は、ユニセフから地元業者への事業の引継ぎが順調に進められています。事業引継ぎにより、水の搬送時間が短縮でき(国境での待ち時間がなくなる)や、イラク国内の雇用促進などの効果がもたらされます。戦闘の最中に開始したユニセフのクウェートからバスラ州への水の輸送活動も10月15日に終了し、現在はバスラ州の地元業者が給水活動を行っています。31日までには200台のタンカーで毎日340万リットルの水を運べるようになり、シーア派イスラム教徒の地域への配給も可能となりました。すでに地元業者へ事業が引き継がれている、バグダッド、モスル、キルクークでは、毎日1,100万トンの給水活動が順調に続けられています。
設備の再建と必要物資の補給:
浄水場、下水処理施設、水道網の復興工事が続けられており、飲み水の確保が整備されるにともない、子どもの衛生状態と保健状態も改善してきています。
バグダッド市内ならびに南部・中央部の州で安定的に安全な水が確保できるよう、給水設備の設置、修復作業も進められています。バクダッドでは3台のコンパクト浄水装置(CU)が導入され、合計100万人以上に飲料水を提供できる60台のCU修理を予定しています。略奪によって衛生的な水の提供ができなかった浄水場の治安確保への取組みも強化されました。南部・中央部でも、同様に水の安定確保の環境が整いつつあります。学校における給水状況の評価と調査も、10月5日より始まりました。
衛生状態の改善として、下水処理場の修復や各地で下水ポンプ局の修復作業が行われています。これに並行して、ユニセフは上下水道施設の発電設備に必要な燃料、塩素ガス、硫酸アルミニウムの供給活動を続けています。
■ 保健と栄養
未接種者に対する予防接種キャンペーンと定期予防接種:
予防接種を受けていない子どもへの予防接種キャンペーンが順調に続けられています。4,000人の保健員、124人の監督者が、1週間に2日、1カ月間の割合で予防接種を実施し、合計140万人の未接種児への接種を目指しています。10月には、予防接種を受けていない子ども約25万人を対象とした予防接種を実施しました。
また定期予防接種は、保健省やユニセフの努力により戦闘前の状況まで回復してきています。社会動員キャンペーン(テレビ・スポット、横断幕、会合、セミナー)、ワクチン供給、全国規模のコールドチェーン・システムの復旧、南部・中央部全州へのワクチン配布の活動が進められています。
能力育成:
イラクの保健、栄養状況の改善には、保健員の育成が重要です。ユニセフは10月にイラク各州で行われた以下の保健員研修を支援しました。
—急性呼吸器疾患(ARI)の治療と予防について、準医療スタッフに研修を実施。
—3つの州で母子保健ケアについての研修を実施。
—基礎保健ケア(PHC)キャンペーンの促進を、保健員の実施研修として実施。18州の2,200の保健員が対象。
保健センター修復や医薬品の支給、各保健プログラムへの支援:
基礎保健ケア・センター(PHC)の修復や、分娩室の再建なども進められています。 80万人の女性と子どもを対象に緊急保健キットや緊急産科キット、必須医薬品を配布し、点滴5万袋、ORS(経口補水塩)100万袋を5つの州に配布しました。またケアセンター運営に必要な発電機などの備品、栄養&拡大予防接種プログラム実施のための車輌、対象絞込み方栄養プログラム実施のための体重計(15州に3,000個)と3,000本以上の巻尺、6州に身長計を配給しました。
■ 教育
ユニセフは、教育省と学校への学習教材の提供を継続しています。バック・トゥ・スクールはすでに成功裏に実施され、2003〜2004学年度に必要な学習教材は、ほとんどの学校と生徒のもとへ配給されています。イラク全土の小学校8,500校に毎日のように届く教材は、計画通りに進むと合計360万人以上の子どもへ届きます。
バック・トゥ・スクールと教科書の印刷・配布:
教科書は、各学年のニーズに合った5種類の教育キットが作られました。配布計画は、各州のニーズに応えられるよう教育省とともに立案されています。
教科書の印刷はイラク内外で行われています。国内では、11月までの配送分1,020万冊が製作され、隣国で印刷された教科書は、すでに1,100万冊以上がイラク中の各州の教育局に到着しています。年末までさらに2,500万冊の配送が予定されています。
学校の再建:
再建された学校数も急増しています。イラクの約120校の子どもたちは修復された学校で授業が受けられるようになりました。再建された学校では適切な飲み水を得られるようになり、トイレ、窓、ドア、電気、整備された校庭が揃っています。再建中を含め、あと178校の再建準備が進められています。
■ 子どもの保護
バグダッドでは他の地域の手本となるような子どもの保護センターが開設され、イラク国内への広がりを目指しています。センターは特に困難な状況にある子どもを支援し、イラクの子どもの状況と子どもたちの権利についての認識を高める場となります。
子どものための社会保護サービス:
○子どもの家:
ユニセフと国際NGOは労働・社会問題省本部とのパートナーシップのもと、チャイルド・ホーム(子どもの家)を支援しています。この家は、子どもたちを家庭に戻すことを目的とする一時的な保護施設で、ほかの孤児院の手本とされるものです。
○アル・サイディヤ地区でのシーズン・アート・セラピー専門学校:
ユニセフとNCAの支援の元、子ども向けのアート・セラピー専門学校を創設されました。子どもと社会の間に子どもの権利条約についての理解が広がり、民族、宗教、階級、ジェンダーの別なくすべての人たちが生まれながらにして持っている平等な権利を尊重し合える啓蒙の場となっています。またアート教育とセラピーを通して、子どもたちが自信をつけ、チームワークの大切さを学び、ストレスの多い、暴力的な状況の中でも創造的な方法で解決策を見出せるよう目指しています。劇団が結成され、学校や近隣コミュニティの公演が続けられる予定です。
○アル・バタウィーン地域での子どものためのドロップ・イン・センター:
戦闘により増加したストリートチルドレンが、児童労働や性的搾取に巻き込まれないように、ユニセフはドロップ・イン・センターの開設を支援しています。遊びと職業訓練のほか、ストリートチルドレンや困難な状況にある子どもたちには宿や基本的なサービスが提供されるなど、予防と治療の両面からストリートチルドレンへのケアがなされる予定です。
○ストリートチルドレンのファミリー・ケアへの再統合:
ユニセフは、ストリート・チルドレンを正常な生活に戻し、家族的な環境に戻すことを目的とした「ストリート・チルドレンのファミリー・ケアへの再統合」プロジェクトを開始しました。ストリート・チルドレンに心理的、身体的支援を行うこと、ストリート・チルドレンが、学校に戻ったり、いろいろな場所での職業訓練を受けられるよう、機会を提供すること、家庭あるいは縁戚関係にある家庭に戻るか、代替手段として家庭的な環境のもとで生活ができるようなプログラムの作成、働きかけを行うことが予定されています。
能力育成、関係省・児童施設復興への支援:
バグダッドでは「子どもの保護を担当するトレーナーへの研修」が行われました。ユニセフが支援団体の国際コンソーシアム(ICS)、労働・社会問題省(MOLSA)とともに、イタリアから専門家を招聘し、特別な保護を必要とする子どもにどう対処したら良いのか、イラクのソーシャル・ワーカー115人にスキルと専門知識への研修を行いました。またユニセフは、労働・社会問題省や児童施設の設備復興も支援しています。
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