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東日本大震災緊急募金 第173報
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大船渡市の研修会。説明するのは大牟田市の子ども家庭支援センターあまぎやまの主任相談員坂口氏。その左は、別府市の光の園子ども家庭支援センター副所長の久志氏。 |
研修では、まず、大分県別府市にある光の園子ども家庭支援センター副所長の久志氏が、児童養護施設に併設された子ども家庭支援センターの事業活動について説明をしました。活動の一つである「別府子ども福祉塾」は、毎月一回、事例の検証、ミニ講座、グループディスカッションをおこない、別府市による地域協議会の運営を実質的にサポートしています。年2回開催される地域協議会の大半は年間の報告の時間に費やされます。
久志氏によると、事例検討は、ネットワークを広げるのが目的であり、それぞれの立場で与えられた事例にどう関わっていくかという意見交換をします。このプロセスを通じて、お互い「顔の見える関係」になることで、各々の持ち場に戻って子どもたちに対応するとき、特定のニーズが発生してもどこに事前に相談すれば良いかを考えられるようになります。「重要なのは、一人で抱え込ませないための“ヨコのつながり”」と久志氏は言います。
「安心して子どもを育てられる環境を整えるため、支援員を育成していくことは時間がかかるけれども大切です」と陸前高田市民生部社会福祉課菅野課長。 |
次に、福岡県大牟田市の子ども家庭支援センターあまぎやまの主任相談員坂口氏が、同市の地域協議会である「大牟田市子ども支援ネットワーク」の状況を説明しました。親による児童虐待が多い中、同ネットワークは、「単に親を責めるのではなく、虐待せざるを得ない環境にある親が多い背景を見据えて地域で関わることの大切さ」を訴えます。
また、本質的に異なる「福祉」と「教育」の視点を踏まえた連携の必要性や、「要保護」だけでなく「要支援」の取り組みの重要性についても指摘されました。「地域協議会が必要な理由は、一つの機関では援助が進まない子どもと家族の支援の問題に対して、子どもに近い立場にいる複数の当事者や機関で対応をした方が効率的だからです。身近な人だからこそできる支援というものがたくさんあります」と語る坂口氏。
そして、「みんながスーパーマン(スペシャリスト)にならなくても良いのです。専門家とつながれば解決します。そのための一つの仕組みとして地域協議会があるのです。連携とはバトンタッチではなく支え合う仲間を増やすようにすること。支援者こそ、困ったときには困ったといえる仲間作りが大切です。」と付け加えました。こうした、わかり易い説明に対して、参加者の多くは「地域協議会の必要性を再認識した」と感想を寄せました。
その後、陸前高田市と大船渡市で活動する児童家庭支援センター大洋の大和田氏と船野氏から、それぞれの市の地域協議会の状況について報告があり、参加者の方々と今後の課題が共有されました。
研修を終えて、陸前高田市民生部社会福祉課菅野課長は、「子どもを育成支援することは、将来のまちづくりにつながります。安心して育てられる環境を整えるため、支援員を育成していくことは時間がかかるけれども大切です。日本ユニセフ協会のご支援もあり、被災から1年でここまで出来たのは、大きな成果だと思っています」とシリーズ研修を終えた感想をくださいました。
一方で、「震災後は住環境の変化もあり、家庭のストレスが大きくなっています。児童虐待リスクも高まってくるでしょう。対策として、個々の家庭や子どもに関する情報をどれだけ早く集められるかが鍵です。」と、行政側がアンテナを高めておく必要性に言及しました。
また、大船渡市生活福祉部地域福祉課の山岸係長は、「別府市や大牟田市の事例は大変参考になりました。協議会のあり方については、以前から存在する地域のネットワークをいかに再構築していくかの問題であり、一層の改善を図っていきたいです」と語りました。
効果を高めていくうえでも、こうした研修プログラムが各自治体において継承されていくことが理想であり、日本ユニセフ協会はそのための支援を引き続き行っていきます。そして、今回の研修で交換された情報や認識された課題の再検討を踏まえて、虐待防止のための地域ネットワークが一層強化されることを期待しています。
写真クレジット全て:© 日本ユニセフ協会