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財団法人日本ユニセフ協会
 



シリア緊急募金 第28報
銃声が無い場所でも・・・

【2013年1月25日 シリア発】

ユニセフ中東・北アフリカ地域事務所のバスチェン・ビニョー緊急支援アドバイザーは、先日、武力紛争によって避難を余儀なくされた子どもやその家族が直面するニーズを確認し、ユニセフの支援活動を拡大するにあたっての課題を洗い出すため、地中海に面するシリアの主要な港町のひとつタルトスを訪問しました。

静けさの中の苦境

© UNICEF/NYHQ2012-1299/Romenzi
武力紛争が続くシリアのアレッポで、瓦礫の傍に佇む男の子。

タルトスは、今のところ、シリアの他の多くの地域で激化している武力紛争は発生していません。そのため、タルトスに足を踏み入れると、他の地域にない“静けさ”のようなものを感じるかもしれません。船舶産業で栄えた沿海都市ですが、シリア赤新月社によると、現在、主に、武力衝突が激しく続くアレッポやホモスなどから避難を余儀なくされた15万人以上の人々を含む2万5000世帯以上がここで暮らしています。こうした人々の流入が、既存の社会インフラに多大な圧力を掛けてしまっています。

タルトス市は、いまだに戦闘が続くホムスから車で約45分の場所に位置しています。ここに避難を強いられた人の大部分は、地域の人々のところに身を寄せたり、収容センターに避難したりしています。また、高い湿度と寒波にさらされるなど、厳しい生活環境に置かれています。特に、山岳地域で避難生活をおくっている人々の大部分は、お湯も、適切な衛生設備(トイレ)もない中での生活を強いられているのです。

また、私が出会った人の中には、定住する場所が見つからずに、廃墟と化した歴史的な建物の中、鼠がはびこる暗い穴で生活している人もいました。現地当局は、こうした避難民の家族の支援に出来うる限りのことをしていますが、人々が生活できるような場所は、公共の建物を含めて他に無く、ほとんど成す術が無い状況です。

子どもたちの状況

© UNICEF/NYHQ2012-1294/Romenzi
アレッポで、給水の列に並ぶ子どもたち。タルトスでは、これまでのところ武力衝突は起こっていない。しかし、アレッポやホムスから逃れてきた2万5,000世帯以上の人々が、厳しい状況の中で避難生活を送っている。

例えば、収容センターで私が目にしたのは、ほとんど絶望的な状況でした。約40世帯の家族が、ひとつのトイレとシャワーを共有していました。気温が低く、湿度が高い厳しい天候のために、多くの子どもたちが急性呼吸器感染症に罹っています。故郷を離れ、学校に通えなくなった子どもたちにも会いました。地元の学校がすでに収容人数を大幅に上回っていたり、家族を手伝わなければならなかったり、入学登録の期間を逃してしまったりして学校に通えなくなってしまったのです。

アレッポの戦闘から逃れるため、大学を退学せざるを得なくなったというある若い女性に会いました。彼女は、今、同じ廃墟に暮らしている学校に通えなくなった子どもたちに、アラビア語と算数を教えています。また、夫が行方不明の女性は、11歳の息子を学校に通わせることができなくなったと話しました。幼い弟や妹たちのために、生活費を稼ぐ手助けをしてもらっているのです。また、9歳の男の子に、学校で好きなことを二つ教えてほしいと質問しました。彼は、「ひとつは、勉強すること。ふたつ目も、勉強すること!」と答えました。

子どもたちの教育サイクルが途切れないようにするための支援が、切実に求められています。ユニセフは、パートナー団体と共に、学用品や机、いす、学校用かばんなどの支援物資を提供している他、さらに多くの教室を確保できるよう準備を進めています。

厳しい冬にさらされた人々への支援

タルトスはじめシリアの様々な地域で暮らす26万人以上の人々に、防寒着、毛布、マット、調理用コンロ等の冬用の支援物資を提供しました。

タルトスでは、今週、家庭用衛生キットと厚手の毛布が到着。パートナー団体を通じて、4000世帯に配布されているところです。また、今後数日の間に、山岳地域や収容センターで避難生活を送っている5,000人の子どもたちに、冬用の衣類が届けられる予定です。この衣類には、防水の冬用上着、暖かいセーター、靴、帽子、下着等が含まれています。

また、ユニセフは、安全な飲料水へのアクセスの確保のための支援や、安全な環境の中で子どもたちが、子どもらしい日常生活を送れるよう支援しています。学校に通うこともままならない子どもたちのために、補習クラスを開く支援も行っています。

しかし、私たちの活動は決して順調ではありません。急速に高まるニーズと拡大する危機に対応しなければならず、私たちは、常に様々な課題に直面しています。こうした状況を乗り越えるためには、現地で活動する様々な支援団体や市民社会とのパートナーシップを強化するための資金が、今すぐ必要です。ユニセフは、支援を必要としている全ての子どもたちに手を差し伸べるため、支援活動の場を拡大し、より多くのパートナーと協力して活動しています。多くの人々がユニセフの支援に頼らざるを得ない状況に置かれているのです。

緊急支援活動を求めている人々は、実際に戦闘が行われている地域だけでなく、私がタルトスで目にしたように、シリア全域に及んでいることを忘れてはなりません。