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財団法人日本ユニセフ協会

世界の子どもたちは今 報告会レポート

報告会レポート

キャロル・ベラミー ユニセフ事務局長 講演レポート

■2003年3月18日(火)14:00−15:10

■ユニセフハウス 1階 ホール

 3月16日から京都において開催されている「世界水フォーラム」出席のため来日したユニセフ事務局長キャロル・ベラミー氏が、ユニセフハウスにおいて、講演会を行いました。
 折しもイラク情勢がさらなる緊迫度を増し注目を集める中、ベラミー事務局長は、イラクにおいても、また注目を集めにくいほかの国ぐにでも、ユニセフは決して逃げることなく子どもたちのための活動を行っていると話し、具体例をまじえながら、現在ユニセフが取り組んでいる課題を説明しました。

キャロル・ベラミー ユニセフ事務局長 講演録

 ここで、ユニセフの活動についてみなさまと共有できることを感謝します。いつもご支援いただき、本当にありがとうございます。今日は、ユニセフを代表して、本日は、みなさまがどのようにユニセフをご覧になっているか、率直なところをおうかがいしたいと思っています。ユニセフはいつも最善の活動を実施できるように努力していますが、みなさまのフレッシュな目で見たご意見などをうかがいたいと思います。

イラク危機に対するユニセフの活動

 多くのみなさまが、今、イラクの戦争の可能性について考えていらっしゃると思います。1990年に湾岸戦争が起こったときにも、ユニセフは逃げ出さず、とどまって女性と子どもたちへ支援を届けました。今回も、とどまって女性と子どものために活動を継続します。

 1983年にユニセフがイラクで活動をはじめたとき、イラクは中進国とも呼べるような国でした。しかし、過去15年の間に2回の戦争があり、また経済制裁のために、状況は非常に厳しくなりました。現在では、8人にひとりの5歳未満児が亡くなっています。

 ユニセフは、イラク国内に4ヶ所(バグダッド、アルビル、ドホーク、スーレマニア)の事務所を設けており、万が一戦争がはじまっても、これらの拠点が継続して活動を続けます。
 私たちは、イラク国内のインターナショナルスタッフは国外に退去させなければなりませんが、国内に残るイラク人スタッフの退避までは許されません。彼らが自分の家族や自分を守って生活していけるよう、給料も何か月分か前払いしたりしています。

 イラクにおいて、これまで私たちが何をしてきたかをお話ししたいと思います。まず、200万人の子どもたちへの基礎医薬品、ワクチンなどを備蓄しています。そして、水の浄化剤、水タンクなども用意しています。また、ポリオとはしかの緊急予防接種キャンペーンがちょうど終わったところです。栄養不良対策のための高たんぱくビスケットやできるだけ子どもが早く学校に戻れるために教材なども用意して運び入れられました。 国連の機関同士で調整がおこなわれ、ユニセフは、水、保健、栄養、教育、子どもの保護の5つの分野で主導的な役割を果たすことになっています。

中期戦略計画に基づくユニセフの活動

  難しいときでもユニセフは活動を続けています。それは、イラクのように新聞の見出しをかざるような国でも、そうでない忘れられたような国でも同じです。

 それでは、ユニセフが全体としてどのような分野で活動を優先的に取り組もうとしているかをお話ししたいと思います。ユニセフは、中期戦略計画(MTSP)を定め、それに基づいた活動をおこなっています。MTSPでは5つの優先課題を明記していますが、それぞれに国情が異なるため、すべての国で5つの分野すべてをおこなっているわけではありません。それぞれのニーズに合わせて、専門的・技術的な支援をおこなうことができるように準備しています。

■予防接種プラス

 予防接種プラスは、対費用効果が高く、効果的な子どもの命を守る活動のひとつです。非常に貧しい国にあっては、予防接種の機会が、子どもの命を守る活動をする唯一の機会となっています。たとえば、予防接種の機会をとらえて、マラリアから子どもの命を守るために蚊帳を配ったり、子どもの栄養強化のためのビタミンAを提供したり、母親にも予防接種をおこなったりしています。だから単に予防接種事業と呼ぶのでなく、予防接種プラスと呼んでいるのです。

■総合的な早期幼児ケア

 総合的な早期幼児ケアも優先課題のひとつです。これまでは、生まれた赤ちゃんがとにかく健康に生存できるように、という考え方が中心だったかもしれません。しかし、子どもは生まれてから3歳までがもっとも重要な成長時期だということがわかってきました。この時期に、水も栄養もその他の保健に関してもすべての分野で重点的にこの時期をサポートする必要があります。

■女子教育

 3つ目は女子教育です。もちろん男子も女子もすべての子どもに学校は必要ですが、現在、学校に行けない初等教育就学年齢の子ども推定1億2000万人のうち6割が女子です。女子も男子と同じように初等教育を受けられるようになること、これに主眼を置いています。


 ちょうど世界水フォーラムのために来日しましたので、女子教育と水に関連したことをお話しましょう。
 貧しい国の女子にとって大きな脅威となっているもののひとつに、水汲みの重労働があります。彼女たちは、家族のために、毎日遠くまで水汲みに行かなければなりません。それで学校に行けない子どもたちもいるのです。ユニセフは教育担当官と水と衛生担当官が一緒になって問題に取り組みます。どこの小学校でも水が手に入り、男女別のトイレを設置します。すると、女子も学校に通えるようになります。女子を学校に通わせたいという目標があるときにどうしたらいいのか。このように、ユニセフのそれぞれのスタッフが持っているスキルを一緒にすることで、本当に子どもを学校に通わせる具体的な活動ができあがるのです。

■虐待・暴力・搾取からの子どもの保護

順序があるわけではありませんが、4つ目が子どもを虐待と暴力、搾取から守ることです。
 これまでも、私たちは、子どもの兵士の部隊解除や、子どもの人身売買の防止、児童労働からの保護、女性性器切除(FGM)撲滅などの問題に取り組んできました。 1ヶ月半ほど前に、スリランカで、反政府側のLTTEと子どもの兵士について話し合う機会を持ちました。ユニセフの現時事務所はすでに基礎的な作業を終え、これからフォローアップを行うところですが、最終的に、今後、子どもを徴兵しない、現在いる子どもの兵士を解放して家に帰す、という合意を取りつけることに成功しました。

■HIV/エイズとの闘い

最後の課題は、HIV/エイズとの闘いです。先進国に住んでいると、この恐ろしい病気のことはあまり見えません。いつのまにか解決されるだろうと思ってしまいます。しかし、HIV/エイズは、戦争や自然災害と比べても非常に破壊力があり、世界中を不安定にする脅威です。
 推定では、3〜4万人が毎日新たにHIVに感染し、そのうちの半分は若者です。現時点で、1100万人のエイズ孤児がおり、2010年までに2000万人を超えるだろうと予想されています。
 エイズはアフリカ、特にサハラ以南のアフリカを最悪のかたちで襲っています。人口の3分の1がHIV/エイズに苦しめられているような国もあります。 しかし、エイズはアフリカだけの課題ではなく、世界全体の課題なのです。アフリカではもっともひどい被害がおこっていますが、次に感染者の人口が多い地域はアジアです。 インドや中国には、すでに多くの感染者がいます。こうした国は人口が大きいので、アフリカの小さな国で感染率30%という場合の感染者数と比べると、こうした国の感染率1%というほうが、感染者数では上回る場合もあるのです。
また、数は多くありませんが、ロシアやウクライナなどでは1年間に感染率が2倍になっています。重ねて言いますが、これは世界的な問題なのです。

 この影響は単に人びとが死んでいるということにとどまりません。仮にエイズが今すぐ治せるようになったとしても、エイズ孤児の数は増え続けます。
 エイズのために国全体が崩壊の危機に瀕しているようなところもあります。アフリカ南部のザンビアでは、新たに養成できる人数を超えるほど多くの教師が亡くなっています。 また、ジェンダーの問題もあります。サハラ以南のアフリカでは、若い女子は男子と比べて、感染率が2倍以上高くなっています。

 ユニセフはHIV/エイズに対処するために次の3つの分野で活動を続けています。
  ・出産時など母子感染を予防するための活動
  ・エイズ孤児に対する支援活動(ユニセフは主導的な役割を果たす国連機関です)
  ・若者たちの感染を予防する活動

 悲観的な現実を述べてきましたが、しかし、希望はあります。若者が変化に対応し、一部の地域では、若者(15〜24歳)の感染率の上昇に歯止めがかかっています。これはよい兆候です。

不安定が増す世界の中で

 最後に、ユニセフは、イラクでも、ボリビアでも、マレーシアでも、マリでも、それについてみなさんが毎日のように聞かれることはなくても、毎日活動を続けています。
 世界は変化の中にあり、多くの地域で不安定化が進んでいます。ユニセフのスタッフはこれまで以上に危険な地域で活動しています。この週末にも、中央アフリカでは、戦闘があり、ユニセフのスタッフの家(オフィス)に2度にわたって兵士が略奪に来ましたが、スタッフは何とか説得してやめさせることができました。
 支援活動をしているスタッフすべてにこうした危機が毎日ふりかかっているわけではありません。昔は開発支援や人道支援活動をしている人が攻撃の対象になることはありませんでしたが、今は、そうした例外はなくなり、攻撃の対象になりうるのです。

 私たちユニセフは、このように、いろいろな国、難しい国でも、活動をおこなっていますが、みなさまの支援がなければ成り立たないことです。あらためて感謝申し上げます。

質疑応答

Q:

 アフガニスタンでも支援物資を届けるキャラバンが強奪の危険に遭ったり、今回、イラクについても事前に予防接種を実施したりしたと聞き、前向きで危険を怖れない活動に敬意を表します。平和的解決を求める、というベラミーさんのコメントを読みましたが、ユニセフは政治的なことについては、強く言えない立場にあるのでしょうか?

A:

 まず、アフガニスタンで現在も実施されている素晴らしい活動「バック・トゥ・スクール」について触れておきたいと思います。3月23日には2年目の新学期がはじまるので、そのための準備が進められています。
 おっしゃる通り、とても難しい環境は残っており、私たちのスタッフだけでなく、学校に通う女の子も危険にさらされています。たとえば、学校に爆弾がしかけられていたりといった事件もありました。
 しかし、報告したいのは、始業式より終業式のほうが、出席している女子の数が多かったということです。昨年の3月に学校がはじまったときには150万人が学校に来ましたが、終業式の頃にはその数は、300万人に増えていました。来週の始業式には、350万人の子どもが学校に通うと、期待しています。
 当初は教材を配るという仕事が多かったのですが、今は学校の修復、1万人の教員のトレーニングなどを実施しています。

 政治的なコメント、についてですが、ユニセフは独立したNGOとは違います。国連の一部なのです。ですが、ユニセフの使命の中で、私たちの考えることを表明することは許されています。安保理のような非常に政治的なことについては少し距離をおきますが、子どもの兵士や人身売買など、センシティブなテーマについては勇気をもって発言しています。

 ユニセフのボスでもある国連事務総長は、イラクについて、戦争は避けられないものではなく、戦争を避けるために可能なあらゆる手段を取ると述べており、その点で完全に意見が一致しています。

 おかしなことですが、「もし何かがあったら」という前提で、何かあったときの計画をつくるのですが、それについて、誰も資金を供与しないという状況が続いてきました。多くの先進国は、ユニセフや人道支援機関に「準備をしなさい」と言うくせに、小切手を切れば何かがはじまると思われるので、資金は出せませんよというわけです。そして、「準備をしなさい、でもそれを言ってはいけない」とも言われるのです。それを言うと、私たちが何かを知っていると受け取られるからです。

 「さっさと戦争をやって早く終わってしまえばいい」というようなことを何度も言われました。でも、戦争が子どもたちにいい影響があったという例はこれまでありません。政府が変われば子どもにいいことが起こる、これはわかります。しかし、戦争が起こって子どもたちの状況がよくなるとは思えません。

Q:

人口が爆発的に増えています。この問題についての取り組みはありますか?

A:

 HIV/エイズのために人口が減っているところもあり、国によって状況が違いますが、人口増加を抑制するための主な活動のひとつは女子教育です。
これまでの研究から分かっていることですが、女子が基礎教育を受けられれば、健康なおとなに育ち、その子どもが5歳未満で亡くなることも少なくなります。そして、自分の人生にもっと選択肢を持つことができるようになります。
 もっとも貧しい地域では、女性は多すぎるほどの子どもを生んでいます。それは、子どもがいとも簡単に亡くなってしまうからです。女子教育は、どのように子どもを持ったらよいかを伝えます。教育を受けた女子は、もっと間隔をあけて子どもを生みます。子どもは健康に育ち、よい意味で、人口増加率も低下していきます。

Q:

アフガニスタンで、始業式より終業式の方が子どもの数が多かったというお話がありましたが、どうして増えたのでしょうか?

A:

 アフガニスタンでは、20年以上内戦が続き、タリバン政権は女子教育や女性が働くことを禁止してきました。学校の先生は多くが女性で、先生が学校に来れなくなると、男の子も学校に行けなくなるような状況になりました。
 2001年11月にタリバン政権が倒れた後、多くの子どもたちにとって、はじめての新学期が昨年の3月だったわけです。ずっと学校は機能していない状態でしたし、学校は破壊されていましたから、子どもを学校に通わせるという認識が親にもありませんでした。そこで、ユニセフは大規模なアドボカシー・キャンペーンをおこないました。それがだんだん浸透しはじめ、また、だんだん国外に逃れていた難民が帰還しはじめて学校にも通うようになったので、だんだん人数が増えたのです。
 学校に通いはじめた子どもたちは、小学校については、次の学年に進むことができます。初等教育については、学校の修復や、教材を届けるといった努力が続けられているのです。しかし、中等教育についてはまだ支援は十分ではありません。
 依然、国は安定してない状況にあり、私たちの資源も限られていますから、優先順位をつけると、まずは小学校、そして次のステップへ進むということを考えています。ただ、世界銀行とユニセフが協力して、中学校も整備するという計画が進行しています。

 最近の問題として、残念なことですが、ケシの栽培が復活しつつあり、子どもが労働力として使われ、ケシの実の収穫を手伝わされたりしています。
また、ずっと学校がなかったために、10代の子どもたちが1年生として入学してきて、途中でやめてしまう、という問題もあります。
 アフガニスタンの復興にはまだ時間がかかります。一部の地域では軍閥が力を持っていて、全体が安定していません。

Q:

北朝鮮の問題について、5年ほど前に急遽ユニセフの事務所がつくられたと思いますが、その後、どのような活動をおこなっているのか教えてください。

A:

 北朝鮮においては、当初小さいオフィスでしたが、今では、優秀なスタッフをそろえて大規模に活動しています。
 確かに、ひどい飢饉が発生した際に設立されましたので、特に、子どもの基礎保健や栄養に中心を置いて活動してきました。
 その後、まだ課題はありますが、活動によって、よい方向がうまれています。例をあげますと、WFP(世界食糧計画)と一緒に全国的な子どもの栄養状態についての調査を実施しました。その結果によると、低体重児の割合は、1998年の61%から2002年には21%にまで下がっています。これはとてもよい結果です。また、慢性的な栄養不良は続いていますが、急性の栄養不良については1998年の16%から2002年の9%にまで低下しています。北朝鮮はポリオが撲滅されていない国のひとつですが、予防接種事業を実施しており、ポリオの発症は近年報告されていません。
 基礎医薬品をクリニックに提供するという事業も続けられています。12県のうち8県について配布を終えており、残りの4県には3月末までに配布を終える予定です。
 学校の教材の提供なども支援しており、これまで14500の幼稚園に教材を届けています。
 ご想像の通り、北朝鮮は活動を展開するのが難しく、政府も難しい国です。しかし、私たちの活動は非常に具体的でわかりやすいもので、医薬品や教材は必要とされているところに届くように監視されています。メディアなどで、たとえば食糧のような人道支援物資が操作されて横流しにあったりというようなことが報道されますが、私たちの活動は具体的です。幼稚園の教材にほかに使い道などないということは、おわかりいただけるでしょう。

 現在の最大の問題は、資金がないということです。みなさん、北朝鮮のことを怒っていらっしゃるでしょう? そのことは理解できます。しかし、そのことで、北朝鮮の人びとは二度犠牲になるのです。ユニセフは北朝鮮の活動規模に12億円程度の予算を考えていますが、これまでに集まった資金はノルウェーからの2500万円くらいです。

Q:

ガールスカウトの活動をしていて、子どもたちとユニセフ募金をしたり、文房具をアフガニスタンに送ったりしています。それ以外に子どもたちができることは何でしょう?

A:

 まず、子どもたちが世界のほかの国のことを知るのはとてもよいことです。子どもたちがいろいろな国のことを知ることによって、自分達と違う文化や宗教について寛容の精神を持つことができます。募金活動でなくても、意識を高めるということを学校で行うのも大事な活動だと思います。
 私も、アメリカの平和部隊(日本の青年海外協力隊のような組織)のディレクターをしていたときに、テキサスの学校で話をしたことがあります。その学校では、平和部隊が活動をしている国ぐにの学校と文通をしていました。教室には、アフリカの国の大きな写真がはられ、子どもたちは、ガンビアの言葉や何を食べているのか、すべてについて知っていました。それは、子どもにとってはよい教育的な経験だと思います。
 いろいろな国で何が起こっているのか、HIV/エイズがどのような病気なのか、貧困とはどんなことなのか、そうしたことを知ることによって、子どもたちには寛容の精神が生まれると思います。ちなみに私自身もガールスカウトのメンバーでしたよ。

Q:

ガールスカウトのように、世界的にネットワークを持っている団体として、国連の機関ユニセフと協力して何かができますか?

A:

 ユニセフはいつもNGOと協力して活動しています。ここ数ヶ月のうちに、ガールスカウトと、HIV/エイズについて知る権利というテーマで、共同のキャンペーンを行う予定です。若者がHIVの予防策について知ることが、感染を防ぐことができるのです。2002年の国連子ども特別総会で明らかになったことは、リーダーシップがますます重要で、それが今不足しているということです。政府のリーダーシップだけでなく、さまざまな市民社会、宗教、民間企業、さまざまなアクターがリーダーシップを発揮して、世界の状況をよくするために活動しなければならないと思います。

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