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財団法人日本ユニセフ協会

世界の子どもたちは今 報告会レポート

報告会レポート

スマトラ沖地震・津波
ユニセフ駐日事務所代表 現地視察帰国報告記者会見

■日時:

2005年1月17日(月)14:30〜15:30

■場所:

東京・港区高輪ユニセフハウス

■報告:

浦元義照 ユニセフ駐日事務所代表

■出席:

日本ユニセフ協会大使 アグネス・チャン
外務省国際社会協力部人権人道課 石田達識
日本ユニセフ協会専務理事 東郷良尚

ユニセフ(国連児童基金)駐日事務所代表・浦元義照氏が、スマトラ沖地震・津波被災地における子どもたちのニーズや今後の支援のあり方などを調査するため、最も深刻な被害を受けた国のひとつ、インドネシアを訪問。感染症などによる二次災害や人身売買等の危機に晒されている子どもたちの状況と、ユニセフの現在、そして今後の支援活動について報告しました。当日の模様をご報告いたします。

浦元義照 ユニセフ駐日事務所代表

アチェ州について1つ重要な点は、インドネシアの中で、マルク州と西パプア州に次いで3番目に貧困者の数が多い州で、州人口の3割程度が貧困層だということです(2003年データ)。さらにインドネシアではアチェ独立運動(自由アチェ運動)と国軍との間に長期的な武力闘争があり、約30年間続いた内戦が今も続いています。そうした状況の中で、バンダアチェは今回の地震と津波に襲われたのです。

現状はインドネシア全土で10万人以上の死者が出て、バンダアチェの人口23万人のうち少なくとも5万人の死者が出たと推測されています。総人口435万人のうち約8%、36万人が被災キャンプで暮らしています。バンダアチェの北側がひどい被害を受け、またその北側に住んでいた人の7割が貧困層の人だということを聞きました。つまり、今回の地震・津波で被害を受けた人の6割から7割強が貧困層だということです。いろいろな社会サービスを提供する学校、保健所または医療サービスに従事している人たちの相当な数の人が行方不明になったり、または死亡しています。津波を生き延びた人々についても、トラウマで仕事ができない状態の人がほとんどで、ユニセフがいろいろな形でプログラムを組んで一緒に働こうとしていますが、なかなか士気が上がらない状況があります。長期的な観点からアチェの復旧を考えていかなければならないと思います。

こうした状況の中、国連のほとんどの機関や日本を含めた世界のいろいろなNGOなどから、非常に多くの人々がアチェに入っています。一番大変なことは、何が起こっているのか、被災民や避難キャンプの数など、状況の把握です。その中でもユニセフの最重要課題は、子どもの数、その中で家族と離れ離れになってしまった子どもの数、そしてそういった子どもたちが今どこにいるのか、というリストを作り上げることです。

例えばバンダアチェだけで被災民のキャンプがありますが、これは政府が特別に作ったものではありません。被災民が集まって自然発生的にできたキャンプのため、収容者数も把握できていません。そこでいろいろな団体とともに、子どもの保護、心理的なケア、家族との再会を目的とした活動の中の一貫として、子どもの登録制度を今まさに設立しようとしているのです。

最後の段階として、セーブ・ザ・チルドレンやIRC(International Rescue Committee)などの世界的なNGOとともに、ユニセフのリーダーシップのもとに登録制度を設置しています。その登録制度を通して、こういう子どもがどこのキャンプに何人いる、逆にこういう父兄がこういう子どもを捜しているという情報を1つのデータベースに入れることにより、どこの端末からも同じ情報が得られるようになります。最終的な目的は子どもが家族と再会することですが、両親が死んでしまって家族と再会できない場合もあります。その場合は、できるだけ自分の集落、村から離れないような形で子どものケアをするという形で支援活動を進めます。

人身売買について

北スマトラの首都、メダンが接するマラッカ海峡は様々な形で人身売買が行われ、麻薬の密売、武器の密売が行われている基地の1つで、シンジケートが暗躍しているという実績がある地域です。そのため、インドネシア政府はユニセフの方針に賛同し、津波のすぐ後、インドネシアの子どもが海外に、正式な手続きを経ずして出ることを禁止するということを行政指導で明確に出しています。

人身売買の事例として確認されたケースはこれまでのところありませんが、メダンに近く、人身売買の実績が過去にあるため、非常に警戒をしなければならない状況です。現地では、子どもが危険にさらされないように、ラジオ、テレビまた新聞等を通じ、一般の人々に十分に情報を与えるように努力しています。政府は今、1,600人の子どもが親から離ればなれになっているとの情報を出しており、ユニセフでは今のところ被災民の中の3〜4%が親から離散した子どもであると推測しています。

教育について

インドネシアでは、1月26日から小・中学生の子どもをすべて学校に戻そうというキャンペーンを行う予定です。家族から離散した子どもは、ほかの子どもたちと交わりあうことによって、ある程度、平静な状況に戻ることができます。学校に行って、みんなで勉強をしたり、遊んだりすることが心のケアにもなり、また再生にもつながっていくのです。今70台のトラックがジャカルタを出て、バンダアチェまでいろいろな物資、教材、教科書を運んでいる途中です。学校を訪ねたところ、やはり中には両親を亡くした子どもがいました。そのため学校においても肉親と離れ離れになった子どもたちを探し出さなければなりません。また、学校の先生も協力して、子どもの権利がきちんと保護されるように子どもに対していかなければなりません。先生が1,300人以上、33%の1,000校以上が破壊され、62%または3,000人の先生がトラウマ・カウンセリングを必要としており、外部から先生を連れてこなければならないという状況です。

飲料水と衛生

アチェ州では、安全な飲料水を確保していた人口が以前は30%しかいませんでした。被災後、現地の衛生状態は悪化し、トイレの使用率、建設や下水処理の施設が急を要する状況です。感染症が起こらないのが不思議なほどです。これは貧困な中にあっても、教育レベルが高かったことが理由だと個人的に考えています。将来の国づくり、コミュニティづくり、集落づくりの基盤としての教育問題、教育活動というのは重要さを増してきていると思います。今回の津波で、ほとんどの井戸が汚染されました。水浴び、洗濯場、トイレの建設が急務で、ユニセフはオックスファムなど様々なパートナーと提携をしながら活動を進めています。ユニセフはこの分野でもリーダーシップを執っています。

保健衛生

213の保健所のうち93の保健所が破壊され、485名中の保健所のスタッフの中で120名が死亡したとの報告が出ていました。はしかの予防接種は6カ月から15歳まで、130万人の子どもにはしかの予防接種を行います。日本でははしかで死亡するということはほぼありませんが、栄養状態が悪かったり、環境が悪かったりすると子どもの死亡原因に十分になり得る病気です。内戦等の理由から、現在安心して行けるところはムラボとバンダアチェだけです。他の地域に行くときにはインドネシア国軍の保護が必要で、両方の理解と協力が必要です。医者や保健衛生スタッフなど、医療スタッフが多数亡くなり、またトラウマ・カウンセリングを受けなければいけないような状況のため、人的貢献が非常に望まれています。


<Q&A>

Q:

現地の学校、教育の状況について、現地で直接ご自分でご覧になった範囲の子どもたちの現状をもう少し詳しくお聞かせください。

A:

私が行った当時は、学校に通っている子どもは非常に少なかったです。全アチェ州で、すべての小中学校生を学校に通わせるというキャンペーン(バック・トゥ・スクール・キャンペーン)が2005年1月26日から始まります。今はそのキャンペーン開始に向けて、70台のトラックに積んだ教材と教科書を配って備えています。現段階では、実際に何人が学校に戻ったかという情報を十分に集めるシステムができていません。そのようなシステム作りがこれから必要になります。

被災地の子どもはまだ明るい声が聞こえてこない状況です。災害を直接受けた地域では、外に出ている子どもの数が非常に少ないという印象を受けました。それは被害を受けて死亡した子どもの数が多かったことのほかに、まだ外に出て行って遊ぶだけの環境が整っていないということ、さらに心のケアが必要な子どもが多くいるということではないかと思います。一般的に、インドネシアは普段は道路で遊んでいる子どもが非常に多いのですが、それが見かけられないのは、非常に悲しい現状でした。

Q:

はしかの予防接種を130万人の子どもに行いたいとのことですが、その場合、費用はどれぐらいかかると概算していますか?

A:

 普通の状況よりはもっとかかると思います。コールド・チェーン(予防接種用ワクチンを運ぶための器材)は冷蔵が必要なものですから、冷蔵庫が必要です。電気もまだ十分に通っていないため、今は軽油と電気が両方使える冷蔵庫で全被災地にネットワークを作っています。それを新しく調達しなければいけないこと、スタッフをトレーニングすること、さらに公的な交通手段が絶たれているため自分で動かなければいけないということがあり、相当なコストが掛かると思います。また、はしかだけでなく、破傷風やその他の予防接種も押し進めていかなければなりません。ですが、最終的に破傷風やはしかを予防できたときのプラスの益は、そのコストを超えて素晴らしい結果が出てくると思います。

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